早川いくをさん 2014-11-20

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早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

植木等主演の幻の映画「本日ただいま誕生」のフィルムが発見されたそうだ。シベリア抑留中に凍傷で両足を失った男が、混乱の社会の中で自分を再発見する物語だそうだ。「無責任」ではない植木等、しかも社会派だ。こ、これは観たい。観たすぎる! bit.ly/1uMWSIg

2014-11-20 19:50:35
早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

シベリア抑留といえば、私の父もシベリア抑留兵であった。だが、陸軍の測量隊にいた父は、生前、抑留のことも、戦争のことも、ただの一言も語らなかった。あまりにいやでいやでたまらない体験だったので、口にしたくなかったらしい。

2014-11-20 19:52:01
早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

父は時折、風呂場の中で、でかい声で「いやだいやだいやだいやだいやだ」と言うことがあった。それがまったく気ちがいじみているので、私と母は思わず顔を見合わせたが、今から思うと、あれはたぶん、戦争時代の事を思い出してしまっていたのではないかという気がする。

2014-11-20 19:52:36
早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

父が死んだとき、部隊の隊長と戦友の人が葬儀に来てくれた。戦友の人は、抑留中は一日の飯が黒パンと塩水みたいなスープだけだった事、死んだ戦友の服を剥ぎ取って尻ふき紙にした事などを話してくれた。「早川君は生意気だったんで、部隊で一番殴られてましたなあ」戦友の人は、笑いながら言った。

2014-11-20 19:53:00
早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

父は大正三年生まれで、軍隊に入った時は、もういい年齢だった筈だ。それでも軍隊では初年兵ということなので、古兵、上等兵、上官からさんざんいじめられたらしい。父が死んではじめて,私は父に親近感のようなものを感じた。

2014-11-20 19:54:34
早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

父の葬儀に来た隊長さんと戦友の、同じ部隊にいた仲間の消息についての会話が、なかなか興味深かったので、ひとつご紹介したい。

2014-11-20 19:55:02
早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

隊長「そういや中村君はどうした」 戦友「あれは一昨年死にました。胃がんで」 隊「ふんそうか。阿部君は」 戦「あれは…去年。脳卒中」 隊「小杉くんは?」 戦「二年前、心臓」 隊「ふーん。山田君や谷君はどうしてる」戦「あれァ十年も前に死んでますよ」 隊「ふーんそうかあ」(煙草ぷかー)

2014-11-20 19:55:28
早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

同じ部隊にいた仲間のことは克明に記憶していながら、その死にはまるで無頓着。お追従で気の毒がる事すらしない。ふーんそうか、である。煙草ぷかー、である。この会話から、私は、想像もできぬような凄まじい体験をした人間がたどり着いた、淡々たる酷薄の境地とでもいうべきものを感じた。

2014-11-20 19:57:00
早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

「この人たちにヒューマニズムとか、全っ然通用しねえ!」私はそう思った。戦争体験者は、決定的に何かが違う。自分が何も知らぬひよっ子のようにも感じられ、何だかよくわからない敗北感がわき上がった。

2014-11-20 19:58:25
早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

後に、私は本を書くために戦前、戦時中の新聞を多く読んだ。当時の朝日・読売など大手新聞には「息子の戦死に涙せぬ軍国の母、泣かされた部隊戦友!」というような美談が毎日にように載っている。これを読んで泣かずば鬼!といった調子の、涙、涙のストーリーがてんこ盛りだ。

2014-11-20 20:00:17
早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

最近は、昔の朝日新聞特攻美談みたいな小説や映画がおおいに売れている。こんな自己犠牲の尊さを前面に出した物語などをみると「うさん臭えな」と思う。それが巧みなストーリーであるほど「ウソつけコラ」と思う。「もう死んでますよ」「ふーん」という隊長と戦友のリアルな会話が思い出されるからだ。

2014-11-20 20:01:14
早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

ウソだ、詐称だと、偽ベートーベンだのSTAP細胞だのがおおいに叩かれたが、戦時中の朝日・読売がやっていたような、こんな美談仕立ての特攻ストーリーの方がよほど太く、そしてタチの悪いウソに思える。この種の話をタイミングよく投下し、涙腺をつくのは、いわば鉄板商法だからだ。

2014-11-20 20:03:37
早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

こういった「愛する人を守るため身を捧げ……」といった話からは、世間の耳目を集めたい、あわよくば儲けたい、という思いが露骨に透けて見えるようだ。この種の話で「超泣けました!」と言ってる人は、良心を食い物にされているように思えてならない。

2014-11-20 20:05:05
早川いくを(著作家・デザイナー) @phagetypet40

ちなみにこの戦友の人は、葬儀の後、母に食事のお誘いをかけてきたそうだ。「下心みえみえで、あたし断っちゃったわよう」と母は言った。齢70過ぎ、シベリアの死地をくぐりぬけてきた男は、やはりたくましい。って結論はそこか!

2014-11-20 20:05:49