【東荒♀・番外編】サンティアゴの夜に

弱虫ペダル二次創作 腐向け 幸せになるための資格の番外編
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ひな@復旧中 @newgibbousmoon

【東荒♀・番外編】サンティアゴの夜に 「よ」 「おう」 東堂が宿泊しているホテル地下のレストランにやってきたら、よく知った顔があった。 およそ三週間あまりのレースの間にひどく日焼けをした旧友の顔は、精悍さを増したように見える。 「尽八のとこ、ホテル、ここだったんだ?」

2014-11-24 00:44:02
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「ああ。おまえのとこは違うだろう?」 「うん。そっちの2ブロック向こうかな。いやぁ、今日はアルコール解禁だから、チームメイトがどんちゃん騒ぎでさ。女の子とか侍らせてすごいし、ちょっと静かに飲みたくて逃げてきたんだ」 「2ブロックも?」 「うん」

2014-11-24 00:45:41
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「しっかり、鍵はかけてあるんだろうな」 どうせ、ロードに乗ってきたのだろうとそう口にすれば、新開はちゃんと配車係に預けたよと笑う プロ選手のロードバイクを預けられた配車係はさぞいい迷惑だっただろうが、東堂達が宿泊しているから想定内かもしれなかった

2014-11-24 00:48:48
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「あ、そうだ。第13ステージの優勝おめでとう、尽八」 「ありがとう。そっちのチームは総合優勝、惜しかったな」 新開がアシストしていたエースは総合三位。優勝にはあと二歩くらい及ばなかった。 「んー、やっぱ暑さに弱いとブエルタはダメだね」

2014-11-24 00:51:15
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「そうだな」 スペインの夏の終わりを彩る最大のお祭が、ブエルタ・ア・エスパーニャだ。 その最終ステージ、閉幕の地がこのサンティアゴ・デ・コンポステーラ。サンティアゴ巡礼路の終着の地でもある。 「そういえば、尽八のツイッターの写真見たよ」

2014-11-24 00:55:28
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「いつのだ?」 「先月の?ベビー服買いに行ったってやつ。何あれ、靖子、今、あんなにおなか大きいの?」 「大きい。っていうか、あれレース前だから、たぶん、帰ったらもっと大きくなってる。もうすごく蹴るって言うから」 「何か破裂しそうで怖い」

2014-11-24 00:58:16
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「バカ、俺はもっと怖いぞ。なのにな、あいつ、買い物とか平気で行くんだぞ!歩いて!あの腹で!!」 「……っていうか、そりゃあ仕方ないんじゃない?歩いて行かなきゃ、どうやっていくんだよ。チャリ?」 「おまえはバカか!妊婦をチャリに乗せられるか!!」

2014-11-24 01:00:41
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 新開は軽口を叩いたことを後悔した。東堂の目は据わっている。よほどいろいろとストレスがたまっているのかもしれない。 「あのさ、妊婦は病人じゃないから」 「わかってる。わかってはいるんだ!だけど、心配だろう?おまえは心配じゃないのか?」 「あ、うん」

2014-11-24 01:02:41
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 心配は心配だった。だが、相手は荒北である。変な心配をすればそっちの方が逆に怒られそうだ。 「……尽八、おめさん、飲んだ?」 「あ?ただの白ワインだ」 「うん。しっかり飲んでんな」 東堂は滅多に酔うことがないし、自分を見失うこともあまりない。

2014-11-24 01:05:13
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon が、酔うとやや説教魔になるので注意が必要だった。 「予定日いつだったっけ?」 「今月末だ」 ふわりとその表情が和らぐ。 「楽しみだな」 「ああ。……本当はこのレースも見に来たがってたんだがな。必死で止めた。何かあってからでは遅いからな」

2014-11-24 01:08:27
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 絶対に勝つから、頼むから家でテレビを見ててくれ、と頼みこんだのだ、と真面目な顔で言う。 「それで、あのマイクパフォーマンスになったわけか」 「俺はパフォーマンスをしたつもりはないぞ」 「生まれてくる子供と妻に勝利を捧げるって言ってたじゃないか」

2014-11-24 01:10:15
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon ステージ優勝した時のインタビューで、いつもの自信たっぷりな笑みでそう言った男の顔は、その言葉と共に世界中に配信されたはずだ。 妻と子供に捧げるステージ優勝!なんて見出しを新開も幾つか目にしたと思う。 「パフォーマンスじゃない。心の底からの本心だ」

2014-11-24 01:13:15
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「ああ、うん。尽八、元からそういうキザなとこあったよね」 「???おまえが何を言いたいのかわからんよ」 「いいんだ。自分の事ってなかなか気付かないことだから」 首を傾げながら、東堂は2本目を空ける。 レースの終ったこの夜だけは、アルコールも自由だ

2014-11-24 01:15:57
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 東堂は特に飲食の制限をつらいと感じた事はない。強いて言うなら、レース中は荒北の手料理が食べられないのを残念に思うくらいだ。 (帰ったら、米が食べたい) 今はお金さえ出せば世界中どこでも日本食を食べることができるが、東堂の舌にあうものはなかなかない

2014-11-24 01:20:33
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 以前は、高級な寿司屋などで我慢していたが、いまは家に帰れば普通に食べることができる。 食生活が以前とは段違いに豊かになったし、安心して食べられるようにもなった。これは、結婚して良かったと思うことの一つだった。 「あのさぁ、尽八」 「なんだ?」

2014-11-24 01:22:31
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「すっごい文句言いたいことあるんだけど!!」 「なんだ?」 東堂ははちらりと新開の手元に目を走らせ、それからカウンターのバーテンダーに視線をやる。 バーテンダーは少し思案して、指で6と示した。 飲んでいるのは白ワインをベースにしたサングリア。

2014-11-24 01:27:17
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 飲み口は爽やかだが、結局のところ、ワインである。しかも、グラスが大きい。 (あ、これは面倒くさいスイッチ入ったな) さて、どうやって撤退しようかと東堂は思案する。 明日の朝イチの飛行機で帰る予定だ。最後までつきあう気はさらさらなかった。

2014-11-24 01:29:38
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「ズルイよ、尽八。恋なんかしてないって言ってたくせに!」 「……今でもしてないぞ」 「子供まで作っておいて?!」 「……思いっきり夢のない言い方をするが、そんなもんなくてもやることやればできるだろう?」 「尽八っ!」 「恋は、今でもしていないよ」

2014-11-24 01:34:24
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon これは、そんな曖昧でふわふわしたものではない、と東堂は笑う。 「俺にあるのは、恋なんていう甘くてふわふわした曖昧な感情ではないんだよ、隼人」 うっそりとした笑みは、東堂が時々みせるもの。 たぶん、近しい人間しか知らない類の表情だろう。

2014-11-24 01:37:08
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「じゃあ、何なんだよ」 「さあ、わからんよ。ただわかっているのは、俺はもうあいつなしの人生を考えられないってことだ」 荒北のいない未来など、もう東堂の中には存在していない。 「……おめさん、わりと昔からそうじゃなかったか?」 「そうか?」

2014-11-24 01:40:10
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「うん。俺が靖子とつきあってた頃から、二言目には、荒北~って靖子に泣きついてた。裕介くんに邪険にされたって」 何度も邪魔されたよなぁ、と新開は遠い目をする。 「……そうだったか?」 「そうだったよ。まあ、確かに惚れてるとは思ってなかったけど」

2014-11-24 01:43:10
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「あの時の俺には巻ちゃんがいたからなぁ」 「ああ、うん。……なぁ、尽八」 「ん?」 「靖子のこと、幸せにしてくれよな」 ぽつりと言った。 「……おまえに言われるまでもない」 安心しろ、俺たちは毎日幸せだから、と東堂は軽く胸を張って宣言する。

2014-11-24 01:47:06
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 新開は福富と生きる人生を選んでいる。だが、それでも、荒北に惚れている事実はたぶん一生変わらない。 「これからも、もっと幸せになるから」 今は俺と靖子の二人だから二乗だな、と東堂は笑う。 一緒に暮らすうちに、東堂と荒北の笑顔は何だか似てきた。

2014-11-24 01:49:47
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon よく指摘されるのだが、それが、東堂には嬉しかった。 「二乗か」 「そうだ。良い事や嬉しい事は二乗で、悲しい事は半分だ。子供が生まれたら四乗になるな!」 「四乗?」 「あれ?言ってなかったか?双子なんだ」 「え?」 「だからあんなに大きいんだぞ」

2014-11-24 01:51:43
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 俺は見るたびに怖い!と東堂は溜息をつく。 「双子かぁ」 「名前は一緒に考えてくれ」 「え?なんで?」 「俺のネーミングセンスは信用ならんと言われててな。だから、おまえとフクの知恵も借りたい」 だめか?と問われた新開は、まさか、と笑う。

2014-11-24 01:53:51