筍提督と僻地の泊地 (7)

海軍大将でありながら艦雄として艤装を背負う提督・筍の、事情が変わった海に立ち向かおうとする、なんだかんだで第2編に突入した日記。 (2回目の日常編; 誕生~シンガポール小紀行~新天地)
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一人の朝

筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

〇五〇〇。私が薄ら霞む目をこすって起きた時、蒲団には私一人でした。いえ、この執務室に、提督の姿はありませんでした。 蒲団を出て下駄を履き、提督の机を覗きましたが、書き置きはありません。提督は、私を置いて、何処かへ行ってしまったようです。 #南方秘書日記

2014-11-28 23:56:27
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床で息絶える燃料の缶を拾い上げようとした時、机の周りの、昨夜のままの匂いに気付いて、私は少し恥ずかしいような気持になりました。 その夜を共にした方がいらっしゃらない。缶を片付けつつ、どちらに消えたのかを考えていました。 #南方秘書日記

2014-11-28 23:59:48
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そこで私は、昨日、単冠湾泊地から戻ってきたばかりのことを思い出します。執務室に向かっていた時、清霜が駆けてきて、提督にしがみ付いていました。それと関係があるのでしょうか。 となると、行く先は一つ。私は執務室を出ようとして、しかし、扉の把手に伸ばした手を止めました。 #南方秘書日記

2014-11-29 00:03:28
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着物が皺だらけです。これでは、表に出ることができません。昨夜は、このようなことなど、考慮していませんでした。 私は踵を返し、秘書艦室へ向かおうとしました。が、そこで、何かに蹴躓き、床に転んでしまいました。 両手で庇った顔、その目の先に、それはありました。 #南方秘書日記

2014-11-29 00:07:27
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単冠湾泊地の色提督からの贈り物が入ったスーツケースです。大きな方にはウェディングドレスが。小さな方には……。 立ち上がった私は、その二つを暫し見つめると、小さな方のケースを持って洗面室へ向かいました。 提督は、きっと驚くことでしょう。 #南方秘書日記

2014-11-29 00:10:22
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まだ他の子たちは深い夢の中です。私は、人の気配すらない構内を、工廠まで駆けました。作業場を一瞥してから設計室の扉を開きます。 入口から最も遠い机を、<ゆうばり>と<ゆら>、そして提督が囲んでいました。提督は扉の音に振り向き、目を皿にします。 #南方秘書日記

2014-11-29 22:28:59
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最初に口を開いたのは<ゆら>でした。 「わ、鳳翔さん! 可愛い服を着てるね」 『ふふ。色提督からの贈り物です』 「へぇ~。似合ってるよ」 『ありがとうございます』 恥ずかしい気もしましたが、悪い気分ではありません。 #南方秘書日記

2014-11-29 22:41:52
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提督もこちらをご覧になります。 『如何ですか?』 「向こうでも見たが、やっぱり似合ってるな。非常に綺麗だ」 微笑した提督の頬に書類が飛びます。 「確かに綺麗ですが、惚気はその辺にしてもらえますか?」 「はいよ」 提督は<ゆうばり>の手によって現実に引き戻されます。 #南方秘書日記

2014-11-29 22:46:38
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途端に設計室は、重い、居難い空気に包まれます。私は恐る恐る訊ねました。 『あの、朝早くから、何を?』 「ちょっと、新時代計画の見直しをな」 『見直し?』 私が首を傾げると、提督は、自身の隣の椅子を勧めてくださいました。促されるままに腰を下ろします。 #南方秘書日記

2014-11-29 22:50:10
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「正確には、計画の更新と言った方がいいかもしれんが……ミッドウェーに、例の飛翔体が出た話はしただろう」 『ええ』 「主にその対策を練ってるんだ。例えば、これ」 提督は書類の山のなかから一枚を抜き取って私に差し出しました。そこには、殴り書きに近い字が並んでいました。 #南方秘書日記

2014-11-29 22:53:22
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イージス艦が二人になったため、共に艦隊を組む汎用駆逐艦を二人、攻撃潜水艦を一人追加……。汎用駆逐艦増備に伴い海鷹も増産……。なるほど確かに、本作戦を通じて得られた課題を元にした、更新案です。 私は肯きつつ、何と無しに、その書類の裏も見ました。 #南方秘書日記

2014-11-29 23:03:43
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裏はほぼ白紙でしたが、その中央に、とある文字列を認めました。「1次新」。 『提督、これは何でしょう?』 私が問うと、提督はこちらを見ず、しかしはっきりとお答えになりました。 「ゆっくり言うからよく聞いてくれ。第1次、新時代軍事力、整備計画…の略、だ」 #南方秘書日記

2014-11-29 23:06:37
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これまでの計画とは、少し違う響きでした。 『それは、新時代計画とはどう違うのですか?』 「んー……更新と言えば更新なんだけどな。今までのは軍艦のことだけを考えてたけど、これからは航空兵力にも力を入れようと思ってるんだ。参眼も追加配備するよ」 #南方秘書日記

2014-11-29 23:12:36
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計画の名称が……いえ、話を聞く限りでは、計画そのものが変わろうとしています。 提督は、このようなことも仰いました。 「防衛省時代の、防衛力整備計画みたいなものだと思ってよ。だからそれを捩って“1次新”さ」 どうやら、更に本格的な計画を進めるようです。 #南方秘書日記

2014-11-29 23:16:33
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「今までのは、初期の計画だから“初期新”。これから当たり前のように使う言葉だから、頭の隅にでも入れておいてよ」 『え、ええ……』 私が返事をすると、目の前の議論が再び加速し始めました。 「それで、先ほどの続きですけど……」 「追加するDDの話だな」 #南方秘書日記

2014-11-29 23:19:31
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「清霜は志願でしたね。もう一人はどうされるのですか?」 既に候補がいたのか、<ゆうばり>の質問に、提督はすぐに答えます。 「天津風だ。春に来て以来、ずっと遠征と演習で頑張ってるアイツ」 <ゆうばり>はメモを取りながら続けました。 「何か根拠が?」 #南方秘書日記

2014-11-29 23:28:19
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「根拠ってほどでもないが……史実では、天津風は三度もの大損害を乗り越えてる。そのド根性っぷりに期待したい。尤も、改造を受け入れてくれるなら、な」 提督のお考えに異議はありませんでした。視線が合ったので微笑を返します。 #南方秘書日記

2014-11-29 23:37:47
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「潜水艦は、人員が増えない限り増備できませんものね」 「ああ」 「最初に話した、イージスの話、考えておいてくださいよ?」 「分かってる」 イージスの話? 私には分かりませんでしたが、急を要することではないようなので、口は挟まないでおきます。 #南方秘書日記

2014-11-29 23:41:09
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「じゃあ、次……これだな」 提督は、山から別の書類を一枚取って、<ゆら>を見ました。 「A-10の計画変更案よ」 「説明してくれ」 私が聞いたことのない名前が出てきました。<ゆら>が担当ということは、航空機かレーダーの名前です。 #南方秘書日記

2014-11-29 23:53:33
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<ゆら>の口から出てきたのは、空対空ミサイルの開発中止とか、ハープーンより手頃な空対艦ミサイルの研究促進という内容でした。A-10とは、軍用機の名前なのですね。 彼女の説明が終わり、提督のお返事を待ちます。すると、提督は、小さく溜め息を吐きました。 #南方秘書日記

2014-11-29 23:58:22
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「なあ、A-10そのものの開発を凍結しちゃダメか?」 「え!?」<ゆら>は驚きの声を上げます。「どうして? 何か不満?」 「いや、不満はない。だがなぁ、アレが出現した以上、それに対応し得る軍用機が欲しいんだ」 #南方秘書日記

2014-11-30 00:02:36
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

<ゆら>は食い下がります。 「でも、さっきの話じゃ、対空攻撃能力はないはずでしょ?」 「それは、あの海域で艦上機を飛ばしてないから、確信が持てんと言ったはずだ。もしかしたら、艦戦やら艦攻やらを、ものの見事に撃墜するかもしれんだろう」 「そうだけど……」 #南方秘書日記

2014-11-30 00:04:14
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「これから海は変わるんだ。古いものは、思い立った時に変えていかねばならない。いいな?」 「……分かった」 <ゆら>が残念そうな顔で肯きました。少し可哀想な気もしましたが、提督がそう仰る以上は、仕方ありません。 #南方秘書日記

2014-11-30 22:55:58
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「じゃあ、大体出揃ったかな?」 提督の言葉に、工廠技官の二人が「はい」と返事をします。 『終わりですか?』 私が問うと、驚くべきことに、提督は首を横に振りました。 「いや。これからが本番だ」 『これから、ですか……?』 「ああ」 #南方秘書日記

2014-11-30 22:58:11
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