画家と騎士#1 【2014加筆修正版】

赤錆の騎士ミェルヒと、画家のエンジェ。二人の日常の転換と出会いの話です。 この話は#2まで続きます #2はこちら  http://togetter.com/li/753731
減衰世界
rikumo 565view 0コメント
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  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-29 17:04:02
    薄暗い廃城の中、断続的に金属音が響きわたる。苔の生した石畳の上、赤錆の鎧を身に纏う騎士と骸骨の剣士が戦う。光が差す中、騎士の振るう長剣が光を反射し煌めいた。骸骨の剣士はそれを盾で防いでいる。そして、その光景をひたすらにキャンバスに描いている一人の画家がいた。 1
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-29 17:08:44
    「ウオアー!」 雄叫びをあげて赤褐色の鎧を身にまとった騎士が長剣を振り下ろす。とうとう骸骨剣士の盾がはじけ飛んだ! 盾を掴んでいた骨の指が地面に散らばる。間髪いれず騎士は左手の盾で骸骨剣士を押し飛ばす。よろめく骸骨剣士に致命的な剣の一撃が繰り出された。 2
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-29 17:15:05
    「おおーっ! いい画だ!」 画家は興奮して筆を振る。彼女の姿は決して売れた画家であるようには見えなかった。薄汚れの絵の具がそこらじゅうについた長袖のネズミ色・ボロボロ・ワンピース。左手にはパレット、右手には絵筆。長い黒髪を丸く縛り木の手製髪留めで留めてある。 3
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-29 17:20:03
    騎士は剣を杖にして立ち、大きな深呼吸をした。骸骨剣士の無限のごときスタミナに、すっかり消耗してしまったようだ。「イヒヒ! 売れる! 久しぶりに売れそうな絵の予感だぁー!」 画家は興奮冷めやらぬうちに、急いで絵の仕上げにかかる。この画家の娘は絵を描くのが仕事だ。 4
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-29 17:24:07
    騎士は、頭を覆うバシネットのバイザーを上げて画家を見る。画家の様子を見て大きなため息をついた。この騎士の名はミェルヒ。画家の仲間だ。そしてこの画家はエンジェ。騎士の従者である。二人はいつも共に旅をして、脅威と戦い、それを排除する。その姿を絵に納めて、騎士の名声とする。 5
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-29 18:06:10
    ミェルヒは無名の騎士であり、エンジェもまた無名であった。エンジェは数多くの絵を描いて売り込んだり展覧会を開いたりしたが、一向にミェルヒの名声が高まった気はしない。つまりは、完全にエンジェはお荷物であった。それでも二人は決して離れることなく、共に暮らしている。 6
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-29 18:11:10
    ミェルヒとエンジェの出会いは2年前に遡る。当時のミェルヒは若かったが、学費が払えなくなって学校を追い出され、手に職もつかずぶらぶらとしていた頃だった。ミェルヒには何もなかった。才能も金も無く、目標も無かった。そんな彼が、ある日事件に巻き込まれる。 8
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-29 18:15:24
    親からもらった小遣いの余りで酒を一杯飲むのがミェルヒの一週間に一度の楽しみだった。無論ただ飲みに行くわけではない。酒場には酒場ギルドの求人広告があるのだ。それを見るためだ。酒場ギルドは、ミェルヒのようないつ死んでも構わない無法者を集めて危険な仕事を斡旋する。 9
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-29 18:18:25
    下水道に湧いた魔法生物の駆除、街の近くに現れた猛獣の駆除。もちろんそんな仕事ばかりではない。ミェルヒは死ぬつもりはさらさらなかったし、汚物掃除などの安全で不名誉な仕事もある。いつものようにそんな仕事で日銭を稼ぐつもりだった。 10
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-29 18:20:45
    ある求人が目に入った。ごくありふれた求人だった。“騎士の亡霊退治。依頼達成者に騎士資格を認める” 11
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-30 16:59:01
    騎士とは、武装し戦闘を行う職業だ。各地の怪異や脅威を倒し、宝物を回収することが、名誉となる職業。名誉と力量が高くなるほど報酬も増えていく夢のある仕事だ。高名なものは国に仕え領地を得たりするが、フリーも多い。ありふれた職業だ。 12
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-30 17:03:59
    『騎士資格か…あると便利だな。ま、亡霊を倒すなんて無理だけど』 ミェルヒは少しだけ気になったが、その求人には惹かれなかった。霊というのは強大な存在だ。精神が朽ちた肉体に憑依したり、霊体のまま現れたりする。人間離れしたスタミナを持ち、とても一般人が勝てる相手ではない。 13
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-30 17:08:54
    ミェルヒは若い青年で身体も丈夫だったが、明らかに無理な依頼だ。霊障に特化した冒険者たちの仕事であろう。諦めて他の求人を探す……と、そのときである。不意に背後から声がかかった。「おっ、騎士の亡霊かァ」 いつの間にか大柄な戦士が背中越しに求人を見ていた。粗野な無精髭の男。 14
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-30 17:15:02
    男は革鎧と剣で武装している。かなり場数を踏んでいるように見受けられた。「ハハ、ボウズ、お前にゃ無理だぜ」 男はそう言ってへへっと笑った。ミェルヒは不機嫌を隠さずに返事をする。「わかってるよ」 しかし、男は意外な言葉をそれに返す。「なぁ、ひとつ手を組まないか?」 15
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-30 17:20:04
    ミェルヒはもちろんただの若者だ。戦力にはならない。「俺は報酬だけもらえればいい。騎士資格はお前にやる。俺には必要ないしな」 「なんで僕なんだ?」 そう言って慣れ慣れしくミェルヒの肩に置かれた男の手を払いのける。「誰だっていいさ! いや、本職の冒険者じゃまずい」 16
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-30 17:24:41
    男は困った顔をして肩をすくませた。「本職の冒険者だと契約料が発生するからなァ。そう、お前が丁度適任だ。騎士資格欲しいだろ? だから、契約料代わりに俺に酒一杯分の金をくれないか?」 男は照れながら事情を話してくれた。聞けばこの男、賭けに熱くなって全額スってしまったらしい。 17
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-30 17:30:06
    「酒くらい我慢しないのか?」 ミェルヒはあきれ顔で男に聞く。「ゲン担ぎなんだよぉ、酒飲んで依頼受けないときは、酷く失敗するのが多いんだよ」 そう言って男は天を仰ぐ。「いいだろう、こんな場末の酒場で仕事を探すより、騎士の仕事に専念できた方が安定するゼェ」 18
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-30 17:37:17
    もちろん、資格があるからといって、すぐ収入になるとは限らない。何より実戦で強くないと意味のないものだし、下積みが長い道だ。しかし資格はあって邪魔になることは無い。酒一杯に比べれば十分すぎる投資だ。上手くいけば仕事にできるだろう。ミェルヒには健康な身体がある。戦えるのだ。 19
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-30 17:42:48
    男の名はクレンツと言った。契約はギルドを通したので確実だ。反故にすれば、この業界で生きていくことは難しい。「さぁいくぞ! 輝かしい就職が逃げる前にな!」 酒を飲んで酒場を出ると、ミェルヒは目的地に連れて行かれることになった。亡霊がよく現れるのは街外れの廃屋だ。 20

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