【黒荒】約束の夏

弱虫ペダル二次創作 腐向け 黒田×荒北
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ひな@復旧中 @newgibbousmoon

#12月2日は黒荒の日 【黒荒】約束の夏 17歳の夏、生涯、ただ一度の恋に落ちた。 照りつける強烈な陽射し。 奪うようにサコッシュを受け取ったあの人の一瞬だけのにやりとした笑み。 抜けるような青空を切り裂くように走り抜けていった白いジャージ。 すべてが鮮烈に灼きついた。

2014-12-02 22:00:09
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon  いつだって、目を閉じればあの夏と共に、あの人を思い出した。  それは、間違いなく最初の恋で……そして、最後の恋になることを、心のどこかで予感していた。

2014-12-02 22:00:58
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 眩しいばかりの夏は一瞬にして過ぎ去って行った。 季節は秋から冬へと急ぎ足でうつりかわり、別れの時が刻一刻と迫っていることを否が応でも自覚する時期になっていた。 (一年の辛抱だ) 一年たてば、またあの人と同じ学校に通えるのだ。

2014-12-02 22:04:18
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon もちろん、自分が荒北と同じ学校に通える保証はない。 が、黒田の成績は悪くないから、一年かけて計画的に勉強すれば、きっと何とかなるはずだ。 (同じキャンパスでの大学生活が待ってる) そう思えば、どんな困難も乗り越えられる気がした。

2014-12-02 22:08:11
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「……黒田。おい、黒田……ったく、ユキっ」 「え、あ?はい?荒北さん?」 「おうよ。……おまえ、しまりのない顔して何考えてたんだ?」 「え?あ、いや……」 荒北の事を考えていたのだと素直にいえるほど黒田は臆面のない性格をしていない。

2014-12-02 22:12:31
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「あー、いい。わーったから」 「はい?」 荒北は、どういう顔をしていいかわからないというような微妙な顔で話をうちきった。 「……つか、荒北さん、また風邪っすか?」 室内だというのに、マフラーをぐるぐると巻いて顔を埋めている。

2014-12-02 22:16:17
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「るせ、まだギリギリセーフだよ」 そういう声は少し力がなくて体調の悪さを感じさせた。 「……よければ、オレのベッドで寝てください。その毛布、結構あったかいんですよ」 「あー、悪ィな。そうさせてもらう」 荒北はすでに本命の受験を終わっている。

2014-12-02 22:21:39
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon すでに自由登校となり、寮生である三年生の半分くらいが退寮している中、荒北は今の今までずっと寮に残っていた数少ない一人だった。 (少しはうぬぼれてもいいのかな) 自分のために退寮しないでいてくれたのではないかとちらりと黒田は考える

2014-12-02 22:27:26
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon (いやいやいや、荒北さんがそこまでしてくれるなんて……たぶん、ない) 黒田のベッドの中で、荒北がガタガタと震えている。 「……ユキ、寒い」 「布団かけます?」 「いらね、おまえが来い」 「え?」 「おまえ、湯たんぽになれ」 「湯たんぽって」

2014-12-02 22:31:29
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「寒ぃんだよ、四の五の言わずに来いって」 荒北がいらいらしている口調で言う。 「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。それ、あの、もしかして、一緒に寝ろってことですか?」 「そうだけどォ?」 あっさりと荒北はうなづき、不思議そうに首を傾げる

2014-12-02 22:34:32
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 幾分眠たげに見えるのは、たぶん気のせいではない。 「あの、その、まだ、風呂に入ってなくて」 「はぁ?おまえ、何言っちゃってんのォ?何もしねえよ、寝るだけだっての。おめーは、ただの抱きマクラだ」 「………あははは、ですよねぇ」

2014-12-02 22:37:02
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon そうだとしても、黒田にとってそれはとても幸せなこことである。 「ちょっと待っててくださいね。顔洗ってきます。あと、手も?」 「???……おう」 たとえ、抱きまくらだろうと人間ゆたんぽだろうと荒北に触れるのだ。触れるからには清潔にせねばなるまい

2014-12-02 22:40:58
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon (……キス、くらいしてもいいかな?いやいやいや、荒北さん、体調悪いんだし……でも、キスで風邪うつるって言うよな) だったら、いっぱいキスして、荒北の風邪は自分が引き受けるべきではないか、なんてことを黒田は大真面目に考えていた。

2014-12-02 22:43:12
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「おまたせしました」 丁寧に手を洗い、顔を洗い、歯を磨いた黒田は部屋へと戻る。 返答がないことを怪訝に思ってのぞきこむと、荒北はすでに夢の中である。 「……おじゃましまーす」 自分のベッドなのに、それはおかしいな、と思って小さく笑った。

2014-12-02 22:45:57
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 荒北の手が、黒田を確認するようにぺたぺたとふれた後、何をもってして大丈夫なのだと判断したのかわからないが、ぎゅっと頭を腕の中に抱きこむ。 それが黒田には嬉しかった。 (……顔色、あんまよくないなぁ) 眠る荒北はまるで別人のようだった。

2014-12-02 22:51:09
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon しゃべらなければイケメンとか、寝てればイケメンだとかよく言われているが、黒田はそれについておおいに異論がある。 だが、そんなことを言っているヤツらに荒北の本当のかっこよさを語ったところでどうせ理解できないだろうから、何も言わないことにしていた。

2014-12-02 22:53:16
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 荒北のかっこよさは自分だけが知っていればいいことだ。 (こんなに疲れるなら、家に戻ったほうがいいんじゃあ) 本命の大学は、自宅よりも寮からの方が近かったが、滑り止めはすべて東京だ。自宅に戻ったほうが、きっといろいろな面で楽になるはずだった。

2014-12-02 22:58:46
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon それでも寮にいてくれる理由が、黒田にはわからなかった。 いや、自分がいるからだ、と思えるほどの自信がなかった。 けれど、本当は他に理由はないのだ。 (たぶん、オレがねだったからだ) 誕生日を一緒に過ごして欲しい、と。 特別なことは何もなくていい。

2014-12-02 23:06:02
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon ケーキもプレゼントもいらない。 ただ、一緒に過ごして欲しいと頼んだからだ。 (荒北さんは、約束を破らないから……) だから、何か理由をつけて本来とっくに自宅に戻るところ、退寮をのばしてくれたのだ。 「……すいません、オレのわがままで疲れさせて」

2014-12-02 23:09:52
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon そう呟いて、黒田は、自分からも荒北に抱きつくように腕を回して目を閉じた。 だから、黒田は知らない。 黒田が目を閉じるのと入れ替わりに目を開いたこと。 バァカ、とひどく優しい表情をしたこと。 それから、その額にそっと唇をおとしたこと。

2014-12-02 23:15:45
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon そのまま眠ってしまった黒田は、何も知らない。

2014-12-02 23:17:20