山本七平botまとめ/【世界最古の社会保障法】~社会的”施与”でも”恩恵”でもなかった社会保障の考え方とは~

山本七平著『無所属の時間』/世界最古の社会保障法/178頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【世界最古の社会保障法】いったい、人間の歴史で社会保障とはいつごろはじまったのであろう。 おそらく、人間の歴史と同時にはじまり、そのときどきによってさまざまな形態をとっていると思うが、何らかの形の社会保障がなかった社会は皆無だったと思う。<『無所属の時間』

2014-12-04 21:39:00
山本七平bot @yamamoto7hei

②ただ古い時代の事は記録に残っていないし、また断片的記録があっても、当時の社会 情勢がわからない為、それが社会保障の為の「法」だという事が我々に理解できない場合が多いのだと思われる。こういう点で、現存し、しかも我々に理解できる最古の社会保障法は旧約聖書の申命典…ではないかと思う。

2014-12-04 22:08:57
山本七平bot @yamamoto7hei

③この法典は伝承によれば…イスラエル王ヨシヤが神殿を修築の際、発見したモーセの『律法の書』だとされているが、実際は前7世紀頃に神殿内で編纂されたもの、ヨシヤ王がこれに基づいて有名な「申命典革命」を行うにあたって、これに権威をもたす為に、以上のような伝承が作られたのであろうという。

2014-12-04 22:38:57
山本七平bot @yamamoto7hei

④この書は、新約聖書にも大きな影響を与え、数多く引用されており、直接・間接に西欧に与えた影響は決定的だといえる。 この法典には、実に面白い社会保障や、”粋をきかせた人情法”とでも言いたい規定がある。

2014-12-04 23:08:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤たとえば、 「結婚して一年たっていないもの」すなわち「新婚のホヤホヤ」は「兵隊にとってはならない」 などという規定は、まことに、戦乱が絶えなかった古代中東の法律とは思えないほど”進歩的”で、人情を重んじたはずの20世紀の日本にさえなかった法律である。

2014-12-04 23:38:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥社会保障法はまことに素朴だが、当時の社会を考えると、実に時宜にかなったもののように思われる。 それは「寡婦と孤児の取り分」の規定である。 麦の取り入れのとき、当然に、落穂が出る。 地主は、これに絶対に手を触れてはならない。 これは「寡婦と孤児の取り分」なのである。

2014-12-05 00:08:49
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦誤解してならない事は、これは地主からの貧しい人への施与ではなく、もし地主がこの落穂に手を触れたら泥棒なのである。 従って寡婦と孤児は堂々と自らこれを取り入れる。 また、ぶどうは三度摘んではならず、オリーブの実は一度落ちたら、持主はもうその木に手を触れてはならない。

2014-12-05 00:38:54
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧これらはすべて「寡婦と孤児の取り分」であって、持主がもしそれに手を触れれば泥棒である。 こういった規定が、次々と細かく出てくる。 ただ老人問題は出てこない。

2014-12-05 01:08:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨この時代は、いわば人生経験だけが教師の時代であるから、老人は文字通りの「長老」として尊敬され、町の門や市場で「訴えを聞く」、 すなわちさまざまな問題を裁定するのが、仕事であった。 従って「長寿は最大の恵み」、「孫は老人の冠」であった。

2014-12-05 01:39:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩従って、保障のおもな対象が寡婦と孤児と貧しい人になるわけだが、貧しい人にも「無返済でも担保を返却すべし」といったようなさまざまな保護規定があった。 そして、それらに共通している基本的な考え方は、 「保障とは施与でも恩恵でもない」 という考え方である。

2014-12-05 02:08:50
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪と同時に、 保障された者も自己のなしうる範囲の事は自分で行え、 という「甘えの否定」である。 「施与」と「甘え」は保障ではない。

2014-12-05 02:38:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫日本の社会保障は一歩誤れば「社会的施与」とそれへの「社会的甘え」になるであろう。 否、既になっているかも知れぬ。 我々はここでまず、保障とは何かを、再検討すべきであろう。

2014-12-05 03:08:50