思惑～石田三成襲撃事件

松本匡代@早耳屋お花事件帳＆試衛館の青春＆独白新選組＆夕焼け土方歳三はゆく＆石田三成の青春 @mk106732

清正は二十年このかた、同じことを言っている。どんな時にも正論を振りかざし理詰めでくる三成の態度が、清正にはいちいち癇に障るらしい。 「おのれ三成、殺してやる」 　よく絶叫していたものだ。無論実行に移すことはない 　家政は、今度もそれだと思っていた #三成襲撃

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だが、話を聞くに、いつものそれとは違っていた。福島正則、黒田長政、浅野幸長、細川忠興、藤堂高虎も同腹だという。清正と家政を加えて七人、皆、朝鮮の戦場での三成をはじめとする戦目付としての奉行衆の振る舞いを腹に据えかねた者たちだ。 #三成襲撃

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家政にしても、清正、正則にしても、大名となり一軍の将となっていても、気持ちは小姓時代のままだ。秀吉とは一心同体と思っている。だから、自分たちに戦目付がつくなど考えられなかった。だが、朝鮮に渡った将たちの中には、外様の将も多く居る。 #三成襲撃

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だから、戦目付は彼らを監視するためのもの。自分たちにとっては伝令の兵と何ら変わることはない。そう考えていた。 　しかし、戦目付たちは家政たちを外様大名たちと区別することなく監視し、彼らが問題ありと思うことは容赦なく秀吉に報告し、処分を促した。 #三成襲撃

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なんと憎いやつらよ。 ということになる。 　奉行たちの中では、家政も清正も正則も、三成との付き合いが一番長い。そりが合わぬとは言え、多感な時期を共に秀吉の傍近く仕えた仲だ。気心は知れている。 #三成襲撃

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だが、こんな場合、怒りは往々にして近しい者の方に向く。家政たちは三成に怒りをぶつけた。 　自然、他の将たちの不満や怒りも三成に集中した。 #三成襲撃

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家政は今や不惑を越えた。他の六人も浅野幸長と黒田長政は十歳以上年下だが残りの四人は家政と殆ど変らない歳だ。腹立ち紛れに襲撃を行うほど、若くはない。だから この先、三成をはじめとする奉行たちに政を牛耳られてはた堪らない。戦場で命がけの働きをした者が報われない。 #三成襲撃

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という自分に向けての理由を用意した。 生命まで奪おうとは思わない。が、三成には政の場から消えてほしい。 　おそらく他の六人の思いも家政のそれと、そう大きくは違ってはいまい。 #三成襲撃

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家政は自分でも驚くほどすんなりと三成襲撃に同意していた。ただ、その時心にかかった思いをそのまま口にした。 「大納言様が黙って見ておいでになるとは思えん」 #三成襲撃

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大納言・前田利家は、秀吉亡き後、幼い世継ぎ・秀頼の後見として大坂城に在る。 　利家は、何かとぶつかる家政たち武断派と三成をはじめとする奉行たち文治派のどちらにも睨みをきかせ緩衝材の役割を果たしていくれていた。 #三成襲撃

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その利家がこの企てを知ったなら、看過するはずがない。何としてでも止めようとするだろう。 #三成襲撃

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武将としての経歴からも、また、その誠実な人柄からも、多くの将兵たちに尊敬され慕われている利家だ。家政も清正も正則も、一目も二目も置いている。利家が止めたなら、無視するわけにはいかない。 　その利家は、今病を得て死の床にある。 #三成襲撃

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「ああ、大納言様が御存命のうちは無理だ」 　清正が淡々と言った 「え、おい」 　家政が少し驚いてたしなめると 「御容態が良くないらしい。亡くなられるのを心待ちにしているようで心苦しいが」 　申し訳なさそうに呟いた #三成襲撃

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隣で正則が神妙な様子で頷く。 　家政は大きく溜息をついた。 　今日の昼前、利家が亡くなったという知らせが届いた。 #三成襲撃

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そして今、清正と正則が来て、明日の夜半の襲撃を打ち合わせて帰って行った。 　いよいよだ。 　咲きかけた牡丹の花の傍らに立った家政は、 「さてと」 　一言発して屋敷へと入って行った。 #三成襲撃

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（二） 朝鮮の役での処分を遺恨に思ってのことなのだろうか 　石田三成は濡れ縁に座り考えた 　日が暮れて月も既に沈んだ 　今しがた、巷の情報を集める者から 　加藤主計頭様、福島左衛門大夫様他数名の方々が密かに軍勢を整えておられます 　#三成襲撃

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という報せがもたらされた。 　的は儂か。 　前田利家の死期が迫っていると誰の目にも判るようになった頃から、何か予感のようなものがあった。いつも何かとつっかかってくる清正が静かなのだ。といって、友好的になったのかというと、全く違う。 　#三成襲撃

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確かな敵意はある。静かなだけに不気味だった。 　恨まれても仕方ないか。 　三成はどこか他人事のように呟き、溜息をついた。 　　 #三成襲撃

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秀吉から、 日本国内を平定したら、朝鮮を従え、明に攻め入る。 という話を聞いたのは、ずいぶんと昔のことだったように思う。定かではないが、山崎の合戦で明智光秀を斃した直後だったような気がする。 #三成襲撃

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主君・織田信長の仇を討ったとはいえ、まだ世の中がどう転ぶか解らない時期だ。だからその頃のそれは、三成には現実味のない夢物語に聞こえた 三成は秀吉の語ってくれる物語として面白く聞き、そして忘れしまっていた しかし、当の秀吉はどうも本気で考えていたらしい #三成襲撃

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三成が秀吉に、唐入りの拠点として、肥前国松浦郡名護屋の地に城を築くという話を聞いたのは、九州平定後のことだった。国内には未だ、奥州の伊達、関東の北条と服従せぬものがあるというのに、それらは時間の問題と、もう秀吉の関心は唐天竺へ向いている。 #三成襲撃

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やはり自分とは違う。 三成は、今更ながら秀吉の偉大さを痛感したのだった。 けれども、秀吉の意を受けて、準備を整えていくうちに、あまりにも話が大きく、実現不可能な気がしてくる。 #三成襲撃

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三成は、堺の商人出身で今は肥後半国を領有する大名となっている小西行長と親しい関係にある。その行長が、出自上交易重視の立場から、無謀な出兵だと反対した。 行長の話を聞くに、三成にも大義のない無理な企てに思えてくる。しかし、 #三成襲撃

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殿下のなされることに間違いがあろうはずがない。 二十余年、傍近くで秀吉の偉大さをつぶさに見てきた三成だ。その思いはもう、信仰と言ってよい。 #三成襲撃

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だが三成もまた、万人に評価される実務能力だけでなく思考力、判断力においても非凡なのだ。その優れた能力が、行長の言うことに同意する。 三成は悩んだ。 #三成襲撃