ニンジャスレイヤー二次創作「ザ・ムーン・イズ・オン・ジ・ウェイン」#4

Twitterで連載中の「ニンジャスレイヤー」の二次創作作品となります。 ◆日本語翻訳版ニンジャスレイヤー公式アカウント◆ https://twitter.com/NJSLYR 続きを読む
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ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

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2014-12-10 16:01:54
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

(前回のお話)ニンジャスレイヤー二次創作「ザ・ムーン・イズ・オン・ジ・ウェイン」#3 - Togetterまとめ togetter.com/li/755991 @togetter_jpさんから

2014-12-10 16:03:54
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

(これから連続して投稿するツイートは、ニンジャスレイヤーの二次創作となります。とうぜん公式との食い違いインシデント他もろもろなんかありますが、もともと公式と関係ないのでごあんしんください)

2014-12-10 16:08:25
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

(また、かなりの量のツイートをポストするので、TLが私のツイートで埋まる可能性は実際高いです。煩わしく感じられたならリムーブ、ミュート等をお願いいたします。もし気に入られましたら #nora_nj タグに実況、感想ほかいただけたなら幸いです)

2014-12-10 16:12:17
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

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2014-12-10 16:16:07
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

ニンジャスレイヤー二次創作「ザ・ムーン・イズ・オン・ジ・ウェイン」#4

2014-12-10 16:20:34
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

メガロシティに雨雲の天幕が下りる。今宵のネオサイタマに降る重金属酸性雨は特に強い。漢字サーチライトもネオン看板も、大粒の雨にかき消され、夜を一層濃いものにしていた。このタマ・リバー沿いの廃工場もまた、夜の闇に包まれていた。1

2014-12-10 16:24:40
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

さめざめと降る雨が廃工場の屋根を叩き、ミニマルなノイズを奏でる。タマ・リバーの流れる音も、街の喧騒もこの音には敵わない。廃工場の作業エリア。がらんとした広く高い室内に入れば、ローパスでミックスされたノイズミュージックが聴こえる。2

2014-12-10 16:30:19
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

作業エリアのドアを静かに開ける者がいた。その者はドアを閉めると、暗闇の中を歩いた。闇に閉ざされたライブハウスを、真っ直ぐ歩く。細い脚がひたひたと音を立てるが、雨音がかき消す。その者はソファの前まで歩き、ぴたりと脚を止めた。3

2014-12-10 16:33:24
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

闇に溶けたソファの上で、闇に溶けた毛布が蠢く。ここまで近づけば、ソファで眠る大男の寝息が聴こえてくる。その者……シキヨは、大男を起こさぬよう慎重に歩き、ソファの隣の木イスに座った。カタリと木イスが鳴る。大男の寝息に変化はない。4

2014-12-10 16:36:56
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

暗闇の中、シキヨは木イスに腰掛け、大男の寝息と、ソファが軋む音を聴いた。そして大男がやってきた夜を思い出した。彼がここに来てから十日。それから全てが変わった。(((アリガト)))感謝の言葉がメッセージとして流れる事はなかった。大男の眠りを妨げたくなかったからだ。5

2014-12-10 16:40:37
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

これからもやっていけるだろうか、漠然とした不安がシキヨのニューロンを巡る。私がこの人を助けた。ここに住むように言った。シキヨにとってそれは自然な事のはずだった。しかし何故だろうか。今になって思えば、何処にも必然など、ありはしない。私はこの人の事を、何も知らない。6

2014-12-10 16:44:24
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

私は何も知らないのだ。この人の過去も、顔さえも。…………知りたい。シキヨは立ち上がり、ソファに向かう。大男はソファからはみ出しながら、眠りにつく。シキヨは眠りを妨げぬよう、慎重に顔を近づけた。そして大男の肩に触れた。とても大きく、ごつごつした肩に。7

2014-12-10 16:49:06
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

「フーンク」不意に、大男が寝返りを打つ。手を取られたシキヨはバランスを崩し、大男の胸の上に落ちた。一度ぼよんと跳ね、シキヨは大男の胸に乗った。(((離れなきゃ!)))しかし心とは裏腹にシキヨは動けなかった。いや、動きたくなかった。大男はシキヨに気づくことなく眠り続けていた。8

2014-12-10 16:52:29
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

大男の大きな胸が、シキヨを優しく上下に動かした。毛布越しにとくりとくりと、心臓の音が聴こえる。己の潰れた胸からも、どくどくと心臓の音が聴こえる。二つの鼓動は、何分経っても同期することはない。じわりと暖かいのは自らの体温ゆえか、それとも。9

2014-12-10 16:56:33
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

シキヨは大男の顔に手を延ばした。人差し指が頬に触れ、手のひらが顎を包む。ざらりとした髭が指先にかかる。大きな顎だ。とても大きくごつごつした。あの夜握った指と、一緒だ。シキヨは指を動かした。人差し指が大男の唇に届いた時、シキヨの爪が何かに引っかかった。10

2014-12-10 17:00:56
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

シキヨは得も言えぬ恐怖を感じ、顔から手を離した。大男はシキヨのびくりとした動きにも気付かず、眠り続ける。シキヨは大男の眠りを確認した後、思案する。指先に触れたもの。あんなものはありはしなかった。父の、母の、弟の。そして自分の唇にも。11

2014-12-10 17:05:25
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

もう一度、指を延ばす。人差し指と中指が、顎から口元へと這う。乾燥した厚い唇に、不自然な段差を感じた。縄だ。縄が唇を貫き、縫い付けている。新しいものではない。縄には皮膚が被さり、肉と同化している。シキヨが爪を立てど、口が開くことはない。12

2014-12-10 17:09:41
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

シキヨは更に指を進める。鼻を辿り、眉間から眉へ。そして指先が瞼に辿り着く。また不自然な段差を感じた。縄だ。口と同様に縫われた瞼をシキヨは撫でた。シキヨは大男の顔を知った。そしてシキヨは知った。この大男が見ることも、喋ることも出来ない事を。13

2014-12-10 17:12:32
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

『あなたは、何を見たの?』赤い逆文字が、大男の顔を撫でる。『あなたは、何を言ったの?』暗闇の中で、撫でる。大男の手がシキヨの手を握った。軽く被せるように。「フーンク……」声を出す。しかしそれは寝言であった。大男は手を握ったまま、またすぐに寝息を立てた。14

2014-12-10 17:16:09
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

『そう』シキヨは微笑んだ。そして大男の顔から手を離した。シキヨは被さった大きな手を掴み、握りしめた。大男の手は熱く、ごつごつしていた。幾つか握りを変えながら、手を握り続けた。何分かした後、シキヨは大男の体を離れ、乱れた毛布をそっと掛け直した。15

2014-12-10 17:20:20
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

シキヨは静かに作業エリアから出た。ふらふらとした足取りで階段を登る。大男の温もりが残る手を握りしめながら。シキヨのサイバーサングラスにメッセージが瞬く。『これからも一緒に暮らしましょう』何度もメッセージを繰り返す。ずっと、ずっと繰り返す。16

2014-12-10 17:33:41
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

シキヨは決意した。あの人と、そして弟と共に生きていこうと。あの人がいれば生きていける。あの人がいれば仕事も上手くいく。危険な副業に手を染めなくとも、三人で生きていける。これはギフトだ。全てを失った姉弟に、ブッダが与えてくれたギフトだ。手放したりは、しない。17

2014-12-10 17:36:11
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

シキヨは真っ暗な自室に戻ると、愛用の安楽椅子に座った。ギシリと揺れる安楽椅子に身を任せながら、天井を見上げた。暗い自室。しかしシキヨが眺めるのは、それより尚も暗い永遠の夜。シキヨは常に孤独を感じていた。彼女の心は常にこの自室と変わりなかった。18

2014-12-10 17:39:43
ガパオパオ(asiazou) @noraosamu

彼女にとって朝も夜も区別はない。身体に触れる感覚と、聞こえてる音だけがすべてだ。シキヨは夜明けの紅を知らぬ。輝く月の白を知らぬ。背を向けた者に掛ける声を持たぬ。目を向けぬ者に伝える術を持たぬ。だが父母も弟も、そして他の人たちの誰もがそれを出来た。19

2014-12-10 17:42:27