「フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」 #3

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
ニンジャスレイヤー
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Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
「フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」その3
Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
(前回のあらすじ)地下に隠された浮浪者の避難キャンプを武力で守るヨージンボー、それがサカキ・ワタナベである。いつものように避難キャンプに新顔を連れてきた彼は、村長のタジモから、イチローという男を紹介される。秘密を抱える手負いの男は、ある人を捜しているとワタナベに打ち明けた。
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牛革とビニールを複雑に継ぎ接ぎし、カワラをニカワで貼り付け補強したワタナベのテントは、もはや立派な住居と言えた。「なにしろ地下だから、雨の心配をしなくていい」ワタナベはノレンを引き開け、モリタを招き入れた。
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テントの中は、外見以上に驚きだった。二段式のベッド、うず高く積み上げられた書物、マキモノの類い。ワタナベはクーラーボックスからサイタマ・シュリンプ・ビールの缶を二本取り、ひとつをモリタに手渡した。モリタは断りかけたが、結局受け取った。
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「まあ座れ、モリタ=サン。寝たけりゃ上のベッドを使ってくれ」「ドーモ」モリタは頷いた。ワタナベはニヤリと笑った。「お互いの家族にカンパイだ」シュリンプビールを缶のまま飲みながら、モリタはテント内のあちこちに張られた色褪せた写真に目をやった。
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写真に映るのはどれも同じ人間だ。キモノを着た美しい女、そして、四歳ぐらいの子供。「おれの家族だ。妻の名はミマヨ。娘の名はオハナ」ワタナベはビールをあおった。「二人は今はロッポンギに住んでる。新しい夫とな。……それでよかったんだよ」
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モリタはワタナベをさえぎらず、ただ耳を傾けていた。「おれは家族を顧みなかった。刑事としてネオサイタマを守る、それがおれの義務と固く信じていた。ヤクザをカラテで殴るこの手から、知らないうちに、いろんなものがこぼれていった。いろんなものが」ワタナベは手のひらを見つめた。震えていた。
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ワタナベはタッパーからオハギをつかみとり、むしゃむしゃと食べた。ワタナベの目がぼんやりと曇った。「オハギが止められないんだよ……情けないだろう。闘争にあけくれ、オハギで疲労をごまかした。妻が娘を連れて出ていったのを知ったのも、一週間も経ってからだ」
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「妻の再婚相手は、当時のおれの部下だ。だが……あいつなら、おれのようなクズとは違う、幸せな家庭を築けるはずだ。おれはやがて刑事ですらなくなり、探偵になり、最後にはここだ。ヨージンボーさ。なにもかも失ってな。おれは何の為に戦ってきたんだろうな」ワタナベは二本目のビールを開けた。
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「ネオサイタマを守るため」モリタが言った。「そうだろう。ワタナベ=サン。そして今はこのキャンプを守っている。尊い仕事だ」ワタナベは驚いた顔をし、まばたきしてモリタを見返した。ワタナベは震えていた。オハギ中毒の症状ではなく、涙をこらえて震えているのだ。
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「おれはただ、会うやつ会うやつにこんな話をして、同情をかいたいだけなんだ、モリタ=サン。情けない男なんだよ。だが……」ワタナベは目頭を押さえた。「来月は娘の誕生日なんだ。会えることになっている。それがおれの支えなんだ。……あんたも、見つかるといいな、その……」「名は、ユカノだ」
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モリタは静かに答えた。「私のセンセイの忘れ形見で、18になったばかり。血のつながりはないが、守ってやれるのはもはや私だけだ。センセイは死んだ」「行方知れずか…心配だろうな」ワタナベは言った。「仕事柄、ネットワークは無い訳ではない。噂を集めよう。お前がここを去るまで、力を貸す」
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ワタナベはモリタに握手の手を差し出した。モリタは握手に応じた。「家族はいい、モリタ=サン」ワタナベの言葉は自らに言い聞かせるようでもあった。
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……翌日、日の入り。聞き込みを終え、相撲バー「チャブ」を後にしたワタナベは、自分をつけてくる足音に気づいていた。イチロー・モリタ?違う。引きずる様な弱々しい足音である。
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相撲バー「チャブ」のバーテン、マイニチ=サンは、トミモト・ストリートのみならずネオサイタマの主要繁華街に情報のコネクションの網を張るヤリ手であった。彼はワタナベに頭が上がらない。ワタナベは彼にユカノの特徴を伝えた。マイニチ=サンの手腕は確かだ。三日もすれば何らかの目撃情報が入る。
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ワタナベは注意深くストリートの角を曲がった。ヒョットコ・クランの報復?違う。奴等は病的に日の光を恐れている。たとえ曇りであってもだ。それは彼らの信奉する宗教と関係があるのだろう。そして何より、ヒョットコは決して一人で行動する事はないのだ。
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何度か路地を選び、試したが、足音がワタナベをつけているのは確実だった。ワタナベはあれこれ考えるのをやめた。どのみち、ワタナベのカラテに勝てるものなどない。ワタナベは立ち止まり、言った。「何の用かね」
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「アイエエ……!」「お前は!」ワタナベは振り返った。狭い路地、立っていたのは、彼が助けた浮浪者だった。「確か、お前は……ノリタ=サン?」「ドーモ。ワタナベ=サン。いや。インターラプター=サン」浮浪者は顔を歪め、口を開いた。濁った目がワタナベを見据えた。ワタナベはうめいた。
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「どう言う事だ?なぜその名を知っている!ノリタ=サン!」ワタナベは叫んだ。「はじめまして、私は…私は……」浮浪者の首がガクガクと不気味に揺れた。「わたし、は、ウォーロック、です。インターラプターさん。このひと、の、カラダを、かりて、います」
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「なんだと……」ワタナベは身構えた。浮浪者はその身をブルブルと震わせた。「チューニング、が、なかなか、はああああ、ああ、もう大丈夫です、インターラプター=サン」痙攣がおさまると、やせ衰えた顔には別人の様な凄みが宿っていた。「お会いできて光栄です、インターラプター=サン」
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「その名で呼ぶな。カラテを叩き込むぞ」「カラテ!あのタタミ・ケンですな。見ていましたとも、この目でね!ヒョットコをハリツケに!なんともムゴいジュツでしたな。あなたの拳は錆びついていない。ボスもお喜びですよ」浮浪者……ウォーロックと名乗った正体不明の存在は歯を見せて笑った。
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「ソウカイ・シンジケート! おれに構うな!」ワタナベは激昂していた。ナムアミダブツ!ワタナベは確かにソウカイヤの名を口にした。彼は何者なのか!一方、ウォーロックはワタナベの怒りにも少しも動じた様子はない。
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「私がシンジケートのシックス・ゲイツに入ったのはつい先日です、インターラプター=サン。……と、言いますのも、大幅に欠員が出ましてね。あのコッカトリスも倒されました。まさにこれは緊急事態ですぞ、インターラプター=サン」「コッカトリスが!?」ワタナベは反射的にオウムがえしにしていた。
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ウォーロックは芝居がかった仕草で人差し指を立てた。「あなたが健在だった頃のシックス・ゲイツのニンジャはあらかた殺されました。ダークニンジャ=サンすらも力及ばず、植物状態ときいております。一人の人間がそれをやったのです、たった一人の人間が!」
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コメント

オスツ🍣 @alohakun 2010年12月5日
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