ア・クルエル・ナイト・ウィズ・レイジング・フォース・フロム・ソー・サイレント・フィアフル・レルム #1
【ア・クルエル・ナイト・ウィズ・レイジング・フォース・フロム・ソー・サイレント・フィアフル・レルム】 #1
2014-12-09 20:36:420100101グワーッ!」硬い!彼は呻き声を上げ、現実世界への復帰がいきなりこのような苦痛から始まった事に憤慨せざるを得なかった。なんたるブッダの仕打ちであろうか!とにかく身を起こさねば……「イヤーッ!」「グワーッ!」 「イヤーッ!」「グワーッ!」鬨の声!何が起こっている? 1
2014-12-09 20:43:37血中ニンジャアドレナリンが激しく流れ、時間感覚が泥のように凝(こご)った。心臓が鳴る音を聴く。自分の心臓。自分の……?彼は訝しんだ。彼は死にかけていた。ナムサン!「聴こえますか!エンブレイス=サン!」「よし、もう一発……」「イヤーッ!」激痛!意識が真っ白になった。「グワーッ!」2
2014-12-09 20:59:12彼はバネ仕掛けめいて跳ね起きた。「ゲホゲホ!ゲホッ!」屈み込んでいた者の手首を掴んだ。涙に霞む視界を透かして、その者の顔を……若い女……メンポをしている……ニンジャだ……認識した。傍らにもう一人。こちらはある程度年のいった男のニンジャ。そして彼らの肩越しに見えるのはカラテ光景!3
2014-12-09 21:06:25「イヤーッ!」「グワーッ!」戦闘は多対多。殺し合いか。一人がもう一人に斬りかかるが、そのニンジャは素手で刃を受け止め、非凡な握力で破壊。逆の手を繰り出す。胴体を貫通する。「アバーッ!」サイバネ腕のニンジャだ。彼に敗れたニンジャは血泡を噴き、爆発四散した。「サヨナラ!」4
2014-12-09 21:13:52「弱敵!」サイバネ腕(それも両腕だ)のニンジャは胸をそびやかし、勝ち誇った。そこへケムリダマが投げ込まれた。KBAM!「じゃく、グワーッ!」「キヒィー!」ケムリダマを投げたニンジャはしなやかにバック転で飛び離れ、敵対ニンジャ達を睨み渡した。「キヒィヒッ!戦略的撤退」5
2014-12-09 21:24:19ヒョロリと背の高いニンジャは耳障りな笑いを残し、刺激性の煙幕の向こうに消えて行った。「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!逃げ足だけのカスだ!ゲホッ!カスだったぜ」「この状況でよくそんなバカが言える」女ニンジャは厳しく言った。「生存、四……否、五名」男のニンジャが「エンブレイス」を見た。6
2014-12-09 21:31:17「五名?」煙を越えて戻ってきたニンジャが一人。「エンブレイス=サン?なんと……僥倖だ。死んだものとばかり」「ああ……ああ」「大事ありませんか」女のニンジャが眉根を寄せた。手首。痕がつく程に握り締めていたのだ。「すまん」慌てて手を離す。「おかげで助かった……」 7
2014-12-09 21:37:29女のニンジャは彼をじっと見ている。彼は目をそらした。「すまん。ウカツ……ウカツなことに、どうも意識が。認識が……」彼は呟き、頭を振った。男のニンジャが彼に肩を貸した。彼はよろめきながら立った。痛み。サイバネ腕のニンジャと戻ってきたニンジャは周囲を警戒している。8
2014-12-09 21:44:59彼は己が今いる場所に検討をつけた。間違いなくここはキョート城。しかも凄惨な戦闘の直後である。広間のタタミやフスマは裂けて血飛沫の赤に染まり、爆発四散の焦げ後も幾つか。自分を入れて五人。敵は壊走。徐々に掴めてくる。(ワカル)彼は心中呟く。(エンブレイス、違う。エーリアス……違う)9
2014-12-09 21:50:32「俺は……」彼は思わず口に出して呟き、息を止めた。「俺は……アー……誰だ」「じきに治る。よくある事だ」肩を貸すニンジャが励ますように言った。彼は罪悪感を覚えた。(俺はシルバーキーなんだ)この肉体のニューロンに残された記憶の残滓が……死の瞬間の光景が蘇った。致命傷の記憶が。 10
2014-12-09 21:56:01強烈な蹴りと、衝撃波を撃ち込むジツ。エンブレイスは死んだ。空っぽだ。この身体にはいま、シルバーキーしかいない。それがわかる。(こいつらは……ザイバツのニンジャだろうな、畜生)シルバーキーは歯噛みした。男の肉体だ。彼自身の肉体を取り戻したとヌカ喜びする暇すらなかった。11
2014-12-09 22:11:23人心地がつくにつれ、この状況の不味さが身に沁みてくる。(これは実際捕虜と変わらんぞ……どうする……考えねえと……)彼は怪しまれぬよう、下手なことを言わぬようにした。ひどい意識の混濁を装い、ただ歩調を合わせた。(ユカノ=サンはどうしただろう) 12
2014-12-09 22:27:34キョート城。なんと奇怪な場所だろう。全てが暗くくすんで、影という影の中に何かが潜むようだ。シルバーキーは道すがらかわされる会話を注意深く拾い、彼らの名前や状況を徐々に把握していった。推察のとおり彼らはザイバツのニンジャ達だ。そして驚くべきことに、この城は内乱めいた状態にある。13
2014-12-09 22:28:18現在のザイバツを率いているのは「あるじ」とやら、謎のニンジャである。その者がロード・オブ・ザイバツ亡き後のギルドを豪腕で取りまとめ、あらためて君臨したとおぼしい。その際に後継者争いめいたイクサが必然的に生じ、恭順を拒んだ者達が城内に潜伏を続けている。14
2014-12-09 22:34:17この世ならぬ地に浮かぶキョート城は今や常識的な幾何学で解決できない入り組み方をしていると見え、実際、鏡合わせのように重なり合う渡り廊下、逆さに重力の働く螺旋階段といったポイントを、彼らは平然と通過するのだった。反抗組織はこうしたケオスのどこか奥底に潜むのだろう。15
2014-12-09 22:41:54「俺はまだいける」サイバネ腕のニンジャ、ドモボーイが言った。「あんたらもいける筈だ。隊を分けましょう。誰か一人にエンブレイス=サンを預けて、残りで探索を続けるべきだ」彼はこのパーティで最も目上と思しきニンジャ、ブルコラクを見た。「そうだろ!もしドラゴン・ニンジャが奴らに……」16
2014-12-09 22:50:18「一理はある」ブルコラクはしばし考えた。彼らが小休止したのは損壊した大茶室で、隅のノレンの先の廊下をゆけば、城内の安全な区域に帰還できる。ドモボーイは畳み掛けた。「手ぶらでは帰れねえ。ランドクラブ=サンとオロバス=サンが殺られた。ナメられるわけにはいかねえ!」 17
2014-12-09 22:58:35女のニンジャ、ディミヌエンドは、ドモボーイに睨まれると、ただ肩をすくめて見せた。「ブルコラク=サンの決定に従います」「斥候任務ならば継続できよう」ブルコラクは頷いた。ドモボーイは「当然行く!」と語気荒い。「ならばエンブレイス=サンはお前に任せる。キャプスタン=サン」「うむ」18
2014-12-09 23:09:08(何だ、あのドモボーイって奴)シルバーキーは彼らを残して出発した三人の背中を見送った。(だが……確かにアイツが特別極端だが、こいつら皆全体的に、こう……)秘めたる熱狂のようなアトモスフィアがある。こんな場所に在りながら。「ここまで来れば、じきだぞ」キャプスタンが彼を励ました。19
2014-12-09 23:16:39「ああ」シルバーキーは頷いた。「すまんが……治療を受け、休みたい。その、これでは兵力として使い物にならんから……情けないが」「珍しく気弱よな」キャプスタンが言った。シルバーキーは緊張した。だがキャプスタンは疑わなかった。「命があれば繰り返し戦える」「そう、それだ」 20
2014-12-09 23:23:16やがて彼らは幾つかの回廊と損壊した礼拝堂を通過し、重い鉄門を開いて、ザイバツの統治領域に帰還した。奴隷たちが二人を出迎え、シルバーキーは医療施設とおぼしき場所へストレッチャーで運ばれた。そこで彼の傷を処置したのもまた、ニンジャだった。(ニンジャの医者とは。嫌な事思い出すぜ) 21
2014-12-09 23:28:57「肋骨がまとめてやられています」ニンジャ医師は左手で触診しながら、右手で精緻なスケッチを描いた。まるでレントゲン写真のようなスケッチを。「肺もだ。辛いのでは?死ななかったのは奇跡に近い。応急処置が適切だったのも良かった。救われましたな」(救われてねえんだよな……) 22
2014-12-09 23:37:18「なあ」「なにか?エンブレイス=サン」ニンジャ医師はシルバーキーを見た。シルバーキーは後悔した。「いや……単なる好奇心から尋ねるだけだが。たいした描画だと思ってな。まるで透視でも行っておるかのような」「ソナーのようなものです。身体を指で打ち、返ってくる感覚を描き取ります」23
2014-12-09 23:46:35「それは相当なものだ。いや、世間話よ」「光栄ですが貴方は生きているのが奇跡です。世間話はまたの機会にしたほうがよい」ニンジャ医師は彼の腕を取り、肘の裏に素早く注射をした。常温で沸騰する怪しげな液体だ。シルバーキーは慄いたが、医師は淡々としていた。慣れた顔をせねばならない。 24
2014-12-09 23:54:20