【十二月、ごくろうさん】 福間健二 #2factory77

「現代詩手帖」一月号の作品特集に出す長い作品を書いたところで、「ごくろうさん」は年末のなにかへの挨拶でもあり、それを書きあげた気分でもあった。その気分に「どっこいさ、どっこいさ」とネズミが入ってくるまでに時間がかかった。 今回は、とくに頭がからっぽになっていたこともあって、カギカッコを使わないでいいのかと文句を言われそうな、ぎりぎりの引用的持ち込みが多くなった。 続きを読む
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福間健二 @acasaazul

今日もつめたい風のなかに立って。エリカ、まだ咲かない。人と物の、同時話法。影を行ったり来たりさせて、ひとつのスタイルを消費する。体温を失った歴史への、いやな振り方の、穀物祭の思い出。腕でも、腰でも、急に泥棒的に。何を願っているのか。(十二月、ごくろうさん1)#2factory77

2014-12-04 10:24:17
福間健二 @acasaazul

何も願わないだろう。そう書いた詩人がいた。自分はどうだろうと考えているぼくのなかに「どっこいさ、どっこいさ」と一匹のネズミが入ってきた。「おまえの好物はよくわからないけど、ぼくの愛をあげるよ」とぼくは言った。それから遠くの山を見た。(十二月、ごくろうさん2)#2factory77

2014-12-05 08:55:09
福間健二 @acasaazul

久しぶりに遠くの山がはっきり見える。そう書いた詩人もいた。穀物祭の、詩人だ。あれっ、ネズミは彼とおなじメガネをかけている。天井裏から引きずってきたのは「カリン、カロリン、どっこいさ」。重くはないけど、山のむこうの宇宙のさびしさだ。(十二月、ごくろうさん3)#2factory77

2014-12-06 11:15:02
福間健二 @acasaazul

日曜日には鼠を殺せ。そういう映画もあった。黒と白の、罠の仕掛けられた世界の話だ。悪い署長がいる。悪いたくらみがある。どうちがうのだろう。ここでは、悪い人たちは自分で考えない。古い公式を疑わずに点数を稼ぎ、黙示録は床下に眠らせている。(十二月、ごくろうさん4)#2factory77

2014-12-07 11:10:28
福間健二 @acasaazul

本当の敵の姿がはっきりとわからないのは、そこでもここでもそして裏切りも中傷もない宇宙の果てでもおなじだ。だから、十二月のトラブル。次々にいやだなあと無痛クリーニング願うぼくがうるさい。きみの横切った寓話の線が折れ曲がる平面は静かだ。(十二月、ごくろうさん5)#2factory77

2014-12-08 09:38:54
福間健二 @acasaazul

無痛帝国。そういう詩を書いた詩人もいた。中国の、女を「痛めない」元水汲み人の皇帝の話。柔らかいもの。彼はその使い方が巧かった。裏切る舌は処刑しただろう。「硬いものと生の肉が好き」ときみは言った。掃除は不得意なのか、ネズミの皇帝くん。(十二月、ごくろうさん6)#2factory77

2014-12-09 09:33:08
福間健二 @acasaazul

茜ちゃんのスコーンからの一日。小麦粉の質がよくなってますますおいしい。無痛帝国からのマルコポーロ街道。歩きながら穀物について思う。舌を満足させて足と耳で詩を読むのだ。「でも愛されるって大変。ほら、サクラソウがあわてて咲いている」。(十二月、ごくろうさん7)#2factory77

2014-12-10 10:23:03
福間健二 @acasaazul

少女たちはお揃いの白とピンクのドレスでふるえている。髪型もおなじ。生まれてきた。涙が出る。エンジンを切って土を踏むぼくの、ひとつもトラブルの解決しない幸福をネズミが盗み見る。よし、ばらばらに歩いていこう。仲間だと気づかれないように。(十二月、ごくろうさん8)#2factory77

2014-12-11 10:43:12
福間健二 @acasaazul

男性であるきみ、女性であるぼく。そう書いた詩人もいる。でも、ぼくの愛は少数派の気楽さで柔軟だ。十二月でやることたくさんあって大変だけど。どうですか、最近の鹿児島の小惑星。ネズミは茜ちゃんに尻尾で返事を書いている。絵葉書。上手だなあ。(十二月、ごくろうさん9)#2factory77

2014-12-12 09:51:08
福間健二 @acasaazul

光のトンネルを通って笑顔の街に入る。ごくろうさん、これも昔の詩人の夢だ。傘をさして何に誘惑されるだろう。引き返すとまだなにかもが途中の十二月。新しいスタイルの贈り物が来た。あけるとぼくがネズミだ。さあ、ここで考えなくてはならない。(十二月、ごくろうさん10)#2factory77

2014-12-13 08:47:22