マザーウィル泊地 #19 美祢博物館編

美祢の地下、廃坑には博物館が存在する。 坑道は何かを隠すのにもってこいだ。
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Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「よもや。私が地上に在ることを許されるとは」 叢雲とヘリを降り、懐かしき故郷の香りを楽しむ。やはり肉眼とカメラでは雰囲気が違う、ように思える。 叢雲が手続きのために少し離れる。その間、妙高型四姉妹が周囲を固める。 「妙高」 「御用でしょうか」 #マザーウィル泊地

2014-12-20 09:05:03
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「肩が破れている」 「わざとです」 「そうではない。隠すくらいはしてくれ」 アリスとは違い、艶めかしい肩が見えて目の毒だ。あと、あいつらは任務に成功したとして結局死ぬからな。 「提督が常識人みたいなことを言うとなにかおかしいですね」 #マザーウィル泊地

2014-12-20 09:26:20
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

無礼千万である。私がイカれるのは自由にモノが作れるときだけだ。最近はビスマルクいじりで心が踊った。それくらいだ。 「後でコートを渡す。そいつは肩を破って良い。だからその肩は修理しろ」 「仕方ありませんね」 普通、妙高と言ったら提督に説教する側ではなかったか。 #マザーウィル泊地

2014-12-20 10:12:47
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

そういえば、この妙高の渾名は「肩破れ」だった。中破しようが大破しようが進み続ける。任務が終わるまで止まることはない。それで今まで沈んでいない。 つくづく、こういったイカれた艦娘が多いことに辟易する。死んでもいい、沈んだっていいということを知らん。 #マザーウィル泊地

2014-12-20 10:22:38
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

死は最後の救済であり、生物に等しく訪れるべきもの。この世の多くはそれを恐れるが、それを渇望する愚者がここに一人。複製された意志を入れただけの人形は、もはや生物と言えるのかは甚だ疑問であるが。 「待たせたわね」 叢雲が戻ってきた。オンボロウニモグと共に。 #マザーウィル泊地

2014-12-21 03:41:34
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

古い古い独逸はベンツが誇る多用途トラック。 「こんなポンコツで行くんですか?」 羽黒は不満そうだった。ベンツと言ったから黒塗り高級車が来るとでも思ったのだろう。 「維持費はそこらの高級車が霞むぞ。部品がこっちにゃ無いからな。全部図面からの削り出しだ」 #マザーウィル泊地

2014-12-21 03:50:35
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「理解した」 「大変結構」 那智もなかなか偏執的で、やたら高価い弾を撃つその拳銃を手放そうとはしない。私の蒐集品なのだが。 「後、山口はもう昔のインフラ大国ではない。例えばここから萩に行くまで、荒れた『元公道』を走らなければならん」 #マザーウィル泊地

2014-12-21 18:25:07
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「それでこのオンボロデカブツ?ちょっと豪華すぎるんじゃない?」 「それくらいでいい。最近は専らバスとして使っていてな。博物館に遊びに来る悪ガキの送り迎えに使う」 彼女らからすれば、最も聞き慣れた声。私の声などとは年季が違う。提督の肉声。 #マザーウィル泊地

2014-12-21 18:33:58
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

老いたその顔は、紛れもなく「私」だった。 今更驚くことでもない。私が作られたのであれば、それ以前に作られていたとしても疑問はない。だが寿命の計算が合わん。 叢雲を睨む。また、魂を弄んだか。 「違うわよ。この子はちゃんと人の子よ。なにもされてない」 #マザーウィル泊地

2014-12-22 07:39:04
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「ええ、俺ぁ、叢雲さんと提督の子だ。今は博物館の館長をしておる」 どこまでものんびりした男だ。 「さぁ乗れ。冷えるだろ」 公武ドアが開けられた。館長も右脚がおかしいようだった。 「中のぜんざいはご自由に、だ」 中央のストーブが煌々と輝いていた。 #マザーウィル泊地

2014-12-22 14:38:31
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「揺れませんね」 羽黒がぜんざいの注がれたお碗を見つめながら呟く。 「揺れたらたまらん。煮えたぎったぜんざいに襲われるのは嫌だろう?」 「そうではなくて、これだけ荒れた道で……なんというか、不思議な気分です」 「ボロくても送迎用だということだ」 #マザーウィル泊地

2014-12-24 07:03:53
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

私は点滴を受ける。未だ物が食えない上、味覚は神経が接続されていない。 甘いものは希少であり、SoMでも高価だったため、妙高型四姉妹は心なしか嬉しそうだった。私が食うよりはいいだろう。 #マザーウィル泊地

2014-12-24 10:36:48
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

ウニモグは旧国道316を北上し、美祢へと向かう。窓から見える道路は荒れ、まともな車両では満足に走れそうにない。何度か対向車とすれ違ったが、装甲車やハンヴィーばかりだった。 つまりは、そういう輩が行き来しているわけだ。 #マザーウィル泊地

2014-12-24 12:24:38
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「確認だ」 妙高、羽黒、足柄はすっと面を上げる。那智はぜんざいを喰い終えてから。その面持ちは極めて厳しい。 「……私が負傷、救護不可能、蘇生不可能その他敵の手に渡る場合、間違いなく殺せ。特に脳は完全に破壊しろ」 「は!!」 理由は不要だ。知っているのであれば。 #マザーウィル泊地

2014-12-24 12:30:44
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

その命令を知ってか知らずか、館長はのんびり車を走らせ、目的地についた。 学校。旧山口県立美祢工業学校、現青嶺高等学校だ。この地下に、茫々たる蒐集品が存在する。 「博物館……でしたよね?」 「学校ね、どう見ても」 「学校だな」 色々と便利なのだ。 #マザーウィル泊地

2014-12-24 12:36:56
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「美祢博物館」と書かれた門扉に、学生がうろうろ。その中に交じる駆逐艦。学校としての機能はまは現存している。 「では。地下へ……」 やはり隠すなら下か。 薄暗い場所を延々と進む。 「ここです」 案内されたは、巨大な空間。そこを埋め尽くす蒐集品。 #マザーウィル泊地

2014-12-24 12:41:52
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

今も積み下ろしが行われている。どこに入る場所があったのか、C-5やAn-124が並んでいた。それくらいに巨大な地下空洞である。 「あんなジェット機が飛べるのですか?」 9000m程の高度制限があるこの世界で、ジェット機はあまり使われない。羽黒の疑問も当然か。 #マザーウィル泊地

2014-12-29 02:49:29
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「そうだな……おい、そこの……鈴谷か?」 「ん?提督?」 姿形も知らないはずの私を言い当てる。不気味であるが、それは今考えることではない。 この鈴谷とて、水色の髪を短く切り揃え、作業服を着ていた。 「輸送機の運用について、この羽黒に説明してくれ」 #マザーウィル泊地

2014-12-29 03:12:33
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「ういーっす。えーと、アサルトセルは知ってんだよね?」 「はい。宇宙に在る網であることは」 「それで、高度9千m以上は普通は飛べなくて、空気密度が少なく抗力も小さくて済むっていうコンセプトのジェット機は約立たずになった訳。ここまではわかる?」 「はい」 #マザーウィル泊地

2014-12-29 03:19:40
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「ところがどっこい、南極近づくほど衛星兵器が少ないの。他にも幾つか『穴』があって、ここを利用するって訳よ!」 近くに立っていたホワイトボードに、キュッキュと世界地図と『穴』の場所を記してゆく。 「あとは、ここの航路が使える場所に集積所を立てれば……」 #マザーウィル泊地

2014-12-29 03:27:18
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

『穴』にある集積所に、『穴』の外からの海上輸送路が、陸路が書き足される。 「はい。世界中からブツを掻き集めるネットワークのできあがり、ってね」 「こ、このような経路が……?」 「企業も知っているのだろうが、ヘリと海路で充分と考えているようだ」 #マザーウィル泊地

2014-12-29 03:38:19
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

ここの事は、別に機密でも何でもない。航空輸送路とて、卒業生が企業に行けば知られることだ。ここは、技術を溜め込み、そして繋げてゆく場所。 「行くぞ。目的地はまだ下だ」 まだ下があると聞いて驚いている。分厚い地表に護られた、最期の地なのだ、ここは。 #マザーウィル泊地

2014-12-30 07:01:09
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「どうやって作ったんです。こんな大空洞なのに、柱一つ無いなんて」 「私も知らん。ここを掘った技師は、今は本山炭鉱を掘っている。話を聞こうにもそうそう会えん」 「最下層掘ってからどっかに行ったと思ったら、そんな所掘ってたんだぁ」 鈴谷がしみじみと呟いた。 #マザーウィル泊地

2014-12-30 08:41:56
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

那智が消えた。この広大で博物に塗れた地下で、一度迷うと最悪死ぬまで出られん。 「那智!なぁーっち!」 足柄が叫ぶも返答はない。艦娘であるからそうそう死ぬことはないだろうが。 「ここらに大口径銃は?」 「あー……あっちにトビーレミントンやらバレットやらがある」 #マザーウィル泊地

2014-12-30 09:02:10
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

間違いなくそこだろう。『私』の集めた銃を勝手に持っていく様な奴だ。 「おったおった。あそこだ」 この前、ドレビンが送ってきたモンスターの上にいた。よく見つけられたと館長を褒めるべきか、それともあんな物の上に物を置くなと言うべきか。 #マザーウィル泊地

2014-12-30 09:30:19