老婆と金剛

錆鐚鎌足 @sabitakamatari

一人の老婆が鎮守府を訪ねてきている 本来ならばただの民間人を鎮守府に入れる訳にはいかないのだが、彼女の訪ねてきた理由が少し気になった なんでも入り口の警備に当たっている艦娘曰く「戦艦金剛に会わせてほしい」とだけ伝えてきたらしい #老婆と金剛

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老婆本人はというとよぼよぼなおばあちゃんを寒空の下、提督である私の返答を待たせるのはかわいそうだということで応接室まで通してしまったそうだ そこまで通してしまったのならば、会わせた方が彼女の気が済むだろうと思い、私は金剛に件の事を伝え責任者として念のために同行する #老婆と金剛

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応接室に着くとよくここまでたどり着くことができたな、と思ってしまうほどに老けた老婆がソファに座っていた 金剛は彼女を見ても頭にハテナマークを浮かべているような表情なのでどうやら知り合いではないらしい 老婆がこちらの方に気が付くと穏やかな笑みを浮かべた #老婆と金剛

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私と金剛が席に着くと、老婆は自己紹介を始めた どうやら彼女は『大戦時の金剛』の乗組員の妻だそうだ 自分の夫が乗っていた船の魂を宿した女性が現れたと聞いてどうしても会いたくなってしまったので、比較的近い鎮守府であるここを訪ねてきたようである #老婆と金剛

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会えただけでもよかったと私達に礼を述べて立ち上がろうとする彼女を金剛は手で制し、少しだけ待ってほしいことだけ伝え部屋を出て行ってしまった 残された私と老婆が雑談をして待っていると、いいにおいを漂わせ、いつものカップではなく湯のみを乗せたお盆を持って金剛が戻ってきた #老婆と金剛

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不思議そうにゆっくりと湯のみのお茶を飲む老婆に金剛はいつもとは違う、少し寂しそうな笑みを浮かべた 「あの人はいつもこのお茶を飲みながら貴方からのLove letterを読むのを楽しみにしてましたヨ、きっとHeavenから貴方を見守ってくれてマース」 #老婆と金剛

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老婆は手を震わせながらも湯のみを机の上に置くとさめざめと涙を流し、それにつられた金剛も彼女の体に縋りつくようにして号泣した #老婆と金剛