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ふたこもり、二籠 悪は満ち満ち肥大する いずれ生まれる君が為 さあ始まるよ、邪悪の宴が #邪悪の樹
2015-01-05 18:00:02大広間のテーブルの上。一羽の鳥が降り立った。 鴉のように大きくて、駒鳥のように小さくて。 囀る声は、歌うように暗くて明るい。 『邪悪の皆様、皆々様』 『大広間にお集まりくださいませ』 その声は、屋敷の全てに響き渡る。 #邪悪の樹
2015-01-05 18:00:22中庭に、小動物の死体が転がっていた。犬、猫、小鳥。いずれもことごとくがミイラの如くからからに干からびて、代わりに赤い花を咲かせていた。茎も葉も花びらも、血のように赤い――氷の花。 それを造り出した張本人はといえば、何故か水の張られた植木鉢とにらめっこをしている。
2015-01-05 18:46:21雪銀の瞳はぼんやりとしていて焦点が合わない。だが確かに植木鉢を見ていた。 どこからともなく鳥の声を聞く。ふ、と顔を上げると、その拍子に植木鉢の水がこぼれた。衣服が濡れたのは気にも留めず、鳥の声が指し示す場所を、ゆっくりとかみ砕き認識する。 「……ひろ、ま」 もたもたと腰を上げた。
2015-01-05 18:46:24其処にあるのは『椿』。 その色は『赤』。 其処にあるのは『葉』。 その色は『緑』。 黒い、てるてるぼうずのような形をしたそれは、ふらふらと椿の周りを飛び回る。ふらふら、ふらふら。何処に目があるのかも分からないそれは、それでも椿を確かに見ている。
2015-01-05 19:28:13その周囲には黒い虫。否、黒い文字の群れ。ふらふら揺れるそれに合わせて踊る文字は、やがて椿に食らいついた。 それは『椿』それは『赤』それは『葉』それは『緑』それは『枝』それは『茶色』—— ——それは『命』 文字に覆われ、椿の木は黒くなる。数秒、数十秒の後、
2015-01-05 19:28:18文字は剥がれるように椿を離れて宙を舞う。しかし、その頃には其処に有ったはずの椿は枯れ果て、死んでいた。 それは『椿』それは『緑』それは『赤』それは…… ……それはいったい何のことを言うのだろう。 『椿』『緑』『赤』『枝』『茶色』『葉』……宙に浮かぶ文字はそれらを記す。
2015-01-05 19:28:25しかし、確かに在ったにも関わらず、それは——『不安定』は思い出せない。 ふらふら飛んで、ぐるりと一回転。ああなんだったか、と考えて、何か異質な気配に気付く。知っているような、知らないような。『不安定』は首を傾げて、ふらふら飛んだ。 向かう先が何処かは、よく分かっていない。
2015-01-05 19:28:35大剣に秤、地図に時計、様々なものが雑多に詰め込まれた部屋。 合わせ鏡となるよう立て掛けられた姿見に、痩躯が映し出されていた。 自身を注視しながら灰白の髪をくしけずり、一つに纏める。一度視線を落として手近な小机に置いてあった装飾品を取り、再び鏡を見つめると己が身を飾り立てていく。
2015-01-05 18:16:29仕上げとばかりに藍のガウンを羽織り、ばさりと音を立てる。準備が整うのを待っていたかのように声が届いた。 「大広間……?一体、何だろうね」 聞き慣れぬ声色に、疑心より興味が勝る。扉までの道程に何も落ちていないことを視認し、ゆったりと歩き出す。他の住人の私室前を通るのは、常の習慣だ。
2015-01-05 18:21:15何かに呼び起こされるように、それは矢庭に目を開いた。傍らの時計を確認すれば、日頃よりも随分と早い。まるで昔のようだと微笑んで、付随する記憶のないのにもう一度笑みを作った。聞き慣れぬ声に耳を傾けながら手早く身支度を整える。ジャケットはどうしようと考えて、一先ず保留に据え置いた。
2015-01-05 19:08:02使い慣れた筆記具をポケットに落とし込みーー習い性だ、こればかりはいつまでも抜けないーージャケットと髪を結える飾りを片手で攫い、もう片方で部屋の戸を開いた。そのまま一歩踏み出して、長い廊下をきょろりと見回す。見知った誰かが目に入れば、笑って声を掛けるだろう。
2015-01-05 19:16:50腰まで長く伸びた翠の髪、足首までを覆うスカート、体の前面を覆うエプロン。 今は女の姿をしたそれには、何かを聞き届ける耳などなかった。例えそれが屋敷中に響き渡るものであろうと、音はその耳にだけは届かない。 だからそれが『鳥』と邂逅したのは全くの偶然であった。
2015-01-05 19:06:50単純に、それは料理をしたかった。更に言えば、料理をしている気分でも味わいたかった。それが大広間にいた理由などその程度のことだ。そして現れた『鳥』によっていとも簡単にその欲求は塗り替えられる。
2015-01-05 19:07:10それは料理をするよりも、『鳥』が欲しいと思った。生きて動く動物を手に入れることは、それにとって比較的難しいことだったから。 思うと同時に手に持った皿も、その上の料理も、女としてのそれの身体も消え失せた。
2015-01-05 19:07:51代わりにそこにあったのは、顔立ちと髪目、肌の色にその面影を残した、期待に輝く目をした少年。 その手に握られた虫網が、迷いなく『鳥』に向けて振り下ろされた。
2015-01-05 19:07:56@materia_evil 振り下ろされる虫網を、鳥が避けることはない。少年に顔も、意識も、向けることはなく。白い網の中で、鳥は静かに、ただ其処にいる。
2015-01-05 19:35:16@treeofevil 拍子抜けするほどにあっさりと、『鳥』は柔らかな網の中へ収まった。それどころか網にも、自分のいることにすら気付いていないように見えた。 その様が一つ引っ掛かる。それが思い出させるのは、屋敷に集っている自分達。人として感ずるはずの何かしらを欠いたものたち。
2015-01-05 20:02:59@treeofevil 鳥は動く様子もない。飛び去ろうとする動きも何も見せはしなかった。もしや新しい自分達の仲間ででもあるのかと、それは推測をつけた。欠くはその眼か、その肌か。
2015-01-05 20:03:15@treeofevil 十の邪悪の存在を、それは知っている。故に誤認した。その鳥を、六であると。 その認識に従って、それは手を伸べた。霞のように溶け消えた虫網の向こう、身じろぎもせぬ『鳥』へ、慈しむ女の嫋やかな腕を。
2015-01-05 20:03:35@materia_evil 消えるならば、消えるままに。伸ばされるならば、伸ばされるままに。やはり鳥は微かも動かず、欠片たりとも反応を見せることはなかった。
2015-01-05 22:00:30@treeofevil たっぷりと空気を含んだ羽が指へ触れる。その衣の奥に感じるのは確かな体温だ。人のそれよりやや高いと思える其れが肌に心地良い。 その感触を余すことなく味わおうと、テーブルの上に載った『鳥』を抱き寄せようとする。自らの腕の中へ。
2015-01-05 23:40:41@materia_evil 伸ばされる腕に抵抗はせず、その腕に抱かれることも厭わない。鳥はされるがままに、腕の中に収まる。
2015-01-06 00:07:33腕の中に収めた『鳥』を一度強く抱き締める。力を加えれば確かにそこにあると分かる、そのことに、それだけのことにめいっぱい破顔する。腕を伸ばして『鳥』の身体を持ち上げ、小躍りするかのようにそのままくるくるとその場で至極機嫌良さそうに回転して見せた。
2015-01-06 00:40:40気が済めば『鳥』の身を顔の高さまで下げて、一度その顔をまじまじと見つめる。 そうしていたところで、それは次を思い付いた。 これを皆に見せに行こう。これは自分達と同じ存在なのかもしれないし、そうであればここで共に暮らすのかもしれない。紹介の仲立ちをして悪いことはないだろう。
2015-01-06 00:40:50