古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #46

更新四十六回目のまとめです。 古鷹青葉を見守る衣笠さんbot、最終回。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「……古鷹ねーさん」 食堂から出たところで、古鷹ねーさんに声をかける。空はもう暗い。加古は先に立って歩いていってしまったので聞かれる心配はない。加古に聞かれて困るようなことでもないけれど、何となく気恥ずかしい。 「なに?」 左目で金色の軌跡を描きながら古鷹ねーさんが振り向く。

2015-01-11 02:04:03
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

邪気のない目に見つめられると言いにくいけれど、言わなきゃ。 「あのね……青葉がさ、古鷹ねーさんから逃げ回ってた時期があったじゃない」 うん、と古鷹ねーさんが頷く。その頃のことを気にしている素振りもなかったのが、私にとっても救いだった。 「古鷹ねーさんが青葉を探してた時、その……」

2015-01-11 02:10:08
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

息を止め、一気に吐き出すように口にした。 「私、本当は青葉は古鷹ねーさんの気配を感じて逃げ出したのに、『ただ入れ違いになっただけ』とか、毎回誤魔化すようなこと言ってたの。古鷹ねーさんの気持ち知ってたのに、青葉の肩を持つようなことして」 ごめんなさい、と私は頭を下げた。

2015-01-11 02:15:41
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

地面を見つめたまま、古鷹ねーさんはなんと言うだろうか、その事だけを考えていた。悲しませるだけならともかく、幻滅されたらどうしよう。そうされても仕方ないけれど。ぎゅっと目をつぶった瞬間古鷹ねーさんの声が降ってきた。 「うん、知ってたよ」 私は思わず頭を上げ、古鷹ねーさんの顔を見た。

2015-01-11 02:19:55
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

その目は、優しげに細められていた。 「知ってた……の?」 「だって、衣笠ったらそういう時の青葉のことを言う時だけ、私に敬語使ってたでしょう?嫌でもわかっちゃうよ」 私は絶句していた。古鷹ねーさんに敬語を使ってたなんて、全然自覚がなかった。それに古鷹ねーさんが気づいていたことにも。

2015-01-11 02:26:04
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

古鷹ねーさんは分かっていて黙っていてくれたんだ。 「謝ることなんてないよ。衣笠は、私を傷つけないためにそうしてくれてたんでしょう?だからもう気にしないで、ね?」 ねーさんに手を取られて、私は目頭が熱くなった。ああ、青葉や古鷹ねーさんを守ってるつもりで、守られていたのは私だった。

2015-01-11 02:32:05
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

だめだなあ、私。やっぱり末っ子はお姉ちゃんにはずっとかなわないのかしら。涙ぐむ私の手を古鷹ねーさんが引く。 「ほら、泣きやんで衣笠。青葉を探しに行こ?」 うん、と子供のようにしゃくりあげながら、私は私より小さな古鷹ねーさんについていく。つないだ手の温かさを、私は忘れないだろう。

2015-01-11 02:37:21
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉がいたのは、鎮守府の埠頭だった。一人で膝を抱えてぽつんと夜の海を眺めていたのを、加古が見つけてきた。相変わらず青葉を見つけることには勘のきくねーさんだ。 「何してんのよ、青葉」 「……ああ、皆さんお揃いで」 声をかけると、青葉がぼんやりした顔で私たちを振り返った。

2015-01-11 02:42:58
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「一人でこんなところで座り込んで。古鷹ねーさんを避けてた頃に戻ったみたいじゃない」 泣いていたことを青葉に悟られたくなくて、わざとからかうような口調で青葉に言う。すると、青葉が古鷹ねーさんを見てなにやら神妙な顔で口を開いた。 「……その事なんですけど、青葉、やっぱり――」

2015-01-11 02:48:24
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

古鷹さんの隣にいる資格なんてないんじゃないかと思います。青葉がそう言った時、私は思わず天を仰いだ。なんでそうなるのよ、ほんっとにこの姉は。 「わかるでしょう?今回の戦い、たまたま上手くいったからいいようなものの、青葉は一歩間違えればまた古鷹さんを犠牲にしかねない作戦を立てました」

2015-01-11 02:51:42
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「そんな青葉に、古鷹さんと一緒にいる権利があると思いますか?」 確かに、サブ島沖海域の攻略作戦を立てたのは青葉だ。昼戦は複縦陣で敵弾を回避し、隙を見て敵艦隊を削る。夜戦に入ったら青葉が囮になって古鷹ねーさんを突撃させ、それを私たちが援護する。リスクの高い戦いだったのは確かだ。

2015-01-11 02:56:01
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

けれど、それは艦隊の全員が納得ずくの作戦だったはずだ。吹雪ちゃんと叢雲が対潜警戒と掃討を担当し、加古が盾になり、私が遠距離砲撃で援護し、古鷹ねーさんが川内譲りの至近距離砲戦で敵艦を叩き潰す。それを淀みなく実行に移せたのは、間違いなく指揮を執った青葉のおかげだ。

2015-01-11 03:01:15
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

夜戦に突入していきなり先制攻撃をもらうとは思わなかったけれど、青葉はそれにも怯まず持ち前の運を活かしたカットイン攻撃を撃ち返した。私たちの、いいえ艦娘の誰が指揮を執ったとしても、あんな作戦は立てられなかっただろうし、敵艦隊を殲滅することもできなかっただろう。

2015-01-11 03:05:14
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

それを言ってやろうとした時、私より先に古鷹ねーさんが口を開いた。 「あのね、青葉」 びくりと体を震わせ、青葉がはい、と返事を返した。 「『古鷹さんに敵艦隊に突入させます』って青葉に作戦を説明された時、私嬉しかったの。青葉に頼ってもらえるなんて思わなかったから」

2015-01-11 03:16:19
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

古鷹ねーさんの言葉を聞いて青葉が顔を上げた。 「私ね、戦うのが嬉しいなんて思ったことなかった。私は艦娘だから、深海棲艦と戦うのが役目だから戦うんだと思ってた。やるべきことだからやるんだって、ずっとそう思ってた」 古鷹ねーさんがぽつりぽつりと続けるのを私たちは押し黙って聞いていた。

2015-01-11 03:21:10
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私が自分を犠牲にするような戦い方はやめて、と古鷹ねーさんに言った時、艦娘としての自分と青葉の隣にいたい自分との板挟みになって泣いてしまった古鷹ねーさんの姿が脳裏に浮かぶ。 「でも、青葉に『古鷹さんがこの作戦の要です』って言ってもらった時、私初めて嬉しいって、そう思ったの」

2015-01-11 03:27:39
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「提督に『旗艦を青葉から別の誰かに変える?』って聞かれた時も『絶対に嫌だ』って思った。青葉以外のためには戦えない、って。私、青葉のためだからあれだけ戦えたの。おかしいよね?私艦娘なのに」 そう言いながら古鷹ねーさんが微笑む。青葉はそれに見惚れているようだった。

2015-01-11 03:35:29
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

不意に古鷹ねーさんが私に顔を向けた。思わずどきりとする。 「でも、そう思った時衣笠の言葉を思い出したの。『青葉のこと大事じゃないの?』って。それで、私これでいいんだってわかったの。『青葉のことが大切だから、こう思っててもいいんだ』って」 ああ、ああ。私の言葉は、届いていたんだ。

2015-01-11 03:41:39
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

古鷹ねーさんに、届いてたんだ。そのことを知れただけで、私は今までの全てが報われたような思いだった。手で涙を拭いながら、青葉に目を向ける。青葉は呆けたように立ち尽くしていた。 「だから、青葉。これからも、一緒にいてくれる?」 こぼれるような笑顔で古鷹ねーさんが青葉に笑いかけた。

2015-01-11 03:45:58
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

あうあうと言葉にならないままに口をぱくぱくさせている青葉の背中を、加古が叩いた。ほら、とそのまま青葉の背中を古鷹ねーさんの方に押し出す。古鷹ねーさんと顔を合わせられないまま、おどおどし続けている。まったく、意気地がないわね。自分だって古鷹ねーさんと一緒にいたいくせに。

2015-01-11 03:51:37
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

いいんですか、本当にこんなことが許されるんですか。口の中でそう青葉が呟いた。まだ言うかこの姉は。 「私が、青葉と一緒がいいの。ね?」 古鷹ねーさん両手を差し出す。それを見て、ようやく青葉がためらいがちに右手を差し出した。その手を、古鷹ねーさんがしっかりと握った。

2015-01-11 03:56:17
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あーっ!やっと戻ってきた!主賓がどこ行ってたのよ!」 食堂に戻ってみると、そこらじゅうに酔いつぶれた艦娘たちが寝転がって惨憺たる有様になっていた。私たちを見つけた夕張ねーさんもだいぶ出来上がっている。そして、古鷹ねーさんに手を握られた青葉と嬉しそうな古鷹ねーさんの姿を認める。

2015-01-11 04:02:22
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あらあら~、もしかしてもしかしちゃったりする!?」 夕張ねーさんが満面の笑みで古鷹ねーさんと青葉の肩をばしばしと叩いている。青葉は恥ずかしそうに顔を俯け、古鷹ねーさんは幸せそうに笑っている。それを見て夕張ねーさんも満足げにうんうんと頷く。 「あ、じゃああれ渡さないとね!」

2015-01-11 04:07:51