【艦隊これくしょん】甘き死よ、来たれ【加古×睦月SS】

ダブりの低レベル艦が捨て艦に出されちゃうとき、間宮さんのところで好きなだけ甘い物食べさせてもらえるっていうこと考えたら書きたくなった突発加古×睦月SS。なお、特に小説版やアニメ版に配慮はしていません。
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GammaRay @sizuoka074

遠征艦隊の筆頭として鎮守府内で一定の立場を持つ睦月。だがそのダブりである睦月2はレベルも低く、雑用を押しつけながらいじめられるだけの存在だった。型落ちでありながらも古株高レベルの加古は睦月2とたまたま親しくなる。健気に教室の掃除をする睦月2。それを手伝う加古。友情が芽生えた。

2015-01-18 15:07:41
GammaRay @sizuoka074

しかし数日後、食堂で飯を食っている加古に僚艦の夕張が話しかけてくる。「聞きましたか?今度の作戦」「いや」「かなり厳しいみたいですよ。囮艦隊まで出すって話で」「…ふうん」「私達じゃなくてよかった…って言っていいんですかね…」「…言っておけよ」「そうですね…」

2015-01-18 13:23:42
GammaRay @sizuoka074

翌日、加古は睦月2と一緒に掃除をするつもりで鎮守府の裏手に向かった。だが睦月2がいない。加古が諦めて帰ると、甘味処『間宮』の前に駆逐艦達が集まっている。店の前にはダンボールの山。「なんだこれ」「ああ、加古さん。提督がご用意してくださったんですよ」間宮が微笑んで言った。

2015-01-18 13:26:28
GammaRay @sizuoka074

「これ、ひょっとしてパイナップルってやつか?」「はい。こちらは本物の牛乳です」「すごいな。初めて見たぜ」天然物のフルーツ、牛乳、砂糖類も大量にある。もう二百年近く稼働している加古ですら、本物のパイナップルを見たのは初めてだった。

2015-01-18 13:28:18
GammaRay @sizuoka074

「今日はたくさんご馳走してあげるようにと、提督から言われてるんですよ」にこやかに言う間宮。加古は微笑もうとしたが、途中で言葉を失った。気付いてしまったのだ。「……明日なのか」間宮は微笑んだまま、加古の言葉を肯定も否定もしなかった。それが答えだった。

2015-01-18 13:30:35
GammaRay @sizuoka074

「私はここであの子達においしいものを食べさせてあげるのがお仕事ですから」間宮は一礼し、勝手口から厨房へと戻っていった。店の中から駆逐艦達の華やいだ声が聞こえる。加古はそこに、睦月2の姿を見つけた。10隻ばかり、練度などあってないような寄せ集めの新米艦達。

2015-01-18 13:32:37
GammaRay @sizuoka074

彼女達が今までこの鎮守府にいてご馳走を食べることが許された日はあったのだろうか。笑うことを許された日は?ないはずだ。だが彼女達はいま、全てを許されている。普段彼女達をいいように顎でこき使い、見下している第一艦隊の艦(ふね)達が、駆逐艦達に何も言わずに通り過ぎていく。

2015-01-18 13:34:59
GammaRay @sizuoka074

少女達がふざけあい、笑いさざめく声が聞こえる。彼女達が自分達の運命を知らないということはないはずだった。当然だ。艦娘は戦うために生まれてきた。艦娘は死ぬために生まれてきたのだ。加古は足早にその場を去った。睦月2は苦しんで死ぬのだろうか。そうでないことだけを加古は祈った。(終わる)

2015-01-18 13:39:23
GammaRay @sizuoka074

その夜、加古は寄宿舎を抜け出して外に出ていた。静かな夜だった。出撃を明朝に控えた夜は、あの川内までもが眠りにつく。夜明けには、ここにいる艦の多くが海に出る。そしてそのうちの何人かは、二度とここに帰って来ない。

2015-01-18 13:45:08
GammaRay @sizuoka074

ベテランの加古ですら例外ではない。誰が帰ってこられるかなど、それこそ神にもわからないのだ。「あれ、加古さん。どうしたんですか?」物思いに耽る加古に、声を掛ける者がいた。睦月2だ。外見や声は他の睦月と同じだが、服がいくらか粗末なのですぐにわかった。

2015-01-18 13:46:31
GammaRay @sizuoka074

「こんな時間に外に出ていいのか?」夜の外出は原則禁止されていた。厳密なルールではなかったが、睦月のような艦となると話は別だ。彼女達。そう、下っ端の船達には自由などないも同然だった。「今日は夜更かししてもいいんだそうです」「そうか」それだけで加古はわかった。

2015-01-18 13:49:22
GammaRay @sizuoka074

どうせすぐに沈む囮なら、寝不足でも関係ないということだ。眉をしかめる加古だったが、睦月はなおも明るく言った。「そうだ。加古さんもご一緒にどうですか?」「どうってのは」「はい。お掃除です。昼間は忙しくて来られませんでしたから」加古は拒否できなかった。睦月について校舎に向かう。

2015-01-18 13:51:26
GammaRay @sizuoka074

深夜の校舎は静寂に静まりかえっていた。八月だというのに肌寒い。何万年も続いた戦争のせいで地軸が曲がり、季節が狂っているせいだ。「手早く終わらせちゃいましょう」睦月は腕をまくり、掃除を始めた。ここは彼女のクラスではない。彼女のような弱艦には、まともな教育すら行われないからだ。

2015-01-18 13:53:29
GammaRay @sizuoka074

「今日でこの教室ともお別れですね」睦月の呟き。加古は魚雷を食らった気分になった。沈むことが決まった艦を見るのは、別にこれが初めてではない。だが慣れないのだ。睦月がなにを考えているか全てわかるし、これからどうなるかもわかっている。だが、それを見続けることは。

2015-01-18 13:56:58
GammaRay @sizuoka074

「掃除、終わっちゃいましたね」「ああ」加古が惚けている間に、睦月は手早く掃除を済ませてしまった。時刻は○二○○。本来ならばとっくの昔に寝ている時間だ。睦月は言った。「私、ずっと居場所がなかったんです」その肩がわずかに震えていた。

2015-01-18 13:59:40
GammaRay @sizuoka074

「ずっと邪魔者扱いされ続けてきて、ずっと誰かの役に立ちたいと思ってました。だから、このお役目をいただいて、本当に光栄に思ってます。だけど、情けないでしょう。私、死ぬのが恐くてたまらないんです」睦月がそっと寄り添ってくる。加古はその小さな体を抱きとめることしかできなかった。

2015-01-18 14:00:56
GammaRay @sizuoka074

「加古さん、ありがとうございます。わたしなんかのために、こんなに良くしてくれて。この鎮守府に来て、この三日間が一番幸せな時でした」穏やかな声だったが、睦月の震えは止まらなかった。加古は睦月を抱く腕に力を込めた。そうして手慣れた様子で手を下ろし、睦月の細い腰に添えた。

2015-01-18 14:03:50
GammaRay @sizuoka074

翌朝、出撃用のドックへ入っていく睦月を加古は見送っていた。第三艦隊、第四艦隊、彼女達は全て囮だ。帰ってくることを度外視された、見放された者達だった。彼女達はみな震えながら泣いているか、強張った顔で気丈に振る舞っているか、無表情でいた。睦月は震えているうちの一人だった。

2015-01-18 14:08:04
GammaRay @sizuoka074

「うぐっ…」緊張による過呼吸だろうか。肩を上下させて喘ぐ睦月が背を折り、鈍色のドックに吐瀉物を撒き散らした。同じような光景がドックの至るところで見られた。「総員出撃準備!」秘書官の赤城が号令を掛ける。「皇帝陛下の御為に!」ハッチが開き、第四艦隊が出撃していく。

2015-01-18 14:10:58
GammaRay @sizuoka074

睦月は自らの吐瀉物にまみれ、涙を流しながら震える足で立っていた。ブザーが鳴り、加古の出撃準備も整った。一度睦月を振り返ったが、彼女が加古を振り返ることはなかった。カタパルトが発動し、ドック上の駆逐艦達の体を一秒で時速百キロまで加速させる。それが睦月を見た最後だった。

2015-01-18 14:14:59
GammaRay @sizuoka074

「よう、オンボロ。景気はどうだ」自分のカタパルトに着く加古の隣に、摩耶が駆け込んできた。「悪くないな」「そうかよ」会話が途切れる。摩耶は空気の読めない女ではなかったし、機械のような女でもなかった。『HLG61システム作動』機械精霊達が動き回り、艤装が装着されていく。

2015-01-18 14:17:45
GammaRay @sizuoka074

艤装には刻印がなされていた。"Never Forgive.Never Forget”『汝許すことなかれ。汝忘れることなかれ』加古も『奴ら』を許す気はない。一つが倒れ、一つが残る。このテラと呼ばれる青い星は、二つの異なる種族が生きていくには狭すぎるのだ。

2015-01-18 14:57:28
GammaRay @sizuoka074

「……今日は賭けはしないのか?」「……本気か?」無表情で呟く加古に摩耶が聞き返す。加古は確かに頷いた。

2015-01-18 14:58:15