宵の血に依る契約城:三日目夜

──そして、最後の夜に。
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ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

俺に宛てがわれた部屋も、夕べ過ごしたシアの部屋とほとんど同じ、立派な客間だった。大きなふかふかのベッドがあって、テーブルとソファーと、他にも家具や調度が、悪趣味にならない程度に調えられている。歩いて入れるクローゼットは空っぽのままだし、荷物なんて何もない。一見すると空部屋の様相。

2015-01-16 00:21:52
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

部屋の前についても、そこが“俺の”部屋だという感覚はない。というか、前夜一晩、押し込められていた場所だとしか思っていない。 「その部屋」 と指さして、前を歩くヴァエクが通りすぎてしまわないように声をかけた。人間の足で歩いても疲れない程度の距離のお陰で、早足でもくたびれずに済んだ。

2015-01-16 00:21:55
ヴァエク @elqVaec

歩いていく。進んでいく。 場所は知らぬというに、まるで分かっているかのように堂々と。 「ウィータスラーウァ」 足音が、背後に重なるのを待って、ヴァエクは振り返る。 「仮とはいえ、ここはお前の部屋だ。 主なら、『招いて』くれ」 特段、ふざけている訳でない。 それも一つの掟。

2015-01-16 06:54:17
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

我が物顔で当たり前のように振る舞うのだと思ってたから、神妙に立ち止まったまま待つ様子には少し首を傾げた。 「ん? ……ああ、そっか、入れないのか」 招かれなければ入れない。吸血鬼にそんな性質があるから、人間は弱くても、どうにか存続できてきた。 先んじて扉に手を掛けて、開いてやる。

2015-01-16 10:30:16
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

開いた扉を押さえたまま、振り向いて、手を延べる。 「よーこそ。仮だけど、俺(おまえ)の部屋だよ」 これで大丈夫かと、見上げながら首を傾げる。 そう言えば、なんでヴァエクの部屋じゃなくて、俺の部屋なんだろう。こんな面倒もあるのに。ろくに話もできない惨状だとか……あり得なくもないか。

2015-01-16 10:30:18
ヴァエク @elqVaec

他者の領域へは、招かれなければ入れない。 難儀な性質だ。 だが不便ではあれど、疎ましいと感じた事はない。 安全だと知り籠もる様な者であれば、元々喰らうに値しない。奪う事しか出来ぬこの身でも、わさわざ不味い者を選ぶ主義はない。 未だ固い果皮は、熟していない証左。

2015-01-16 13:05:09
ヴァエク @elqVaec

「おォよ。まァ、どうせ一夜限りですぐ出て行くがよ」 開けられた扉に、悠々と身を潜らせる。 『契約』であれば、話は違ったのかもしれない。とまれ、今更確認しようもない話だが。 「しっかし本当、何もねェな。 こっちに何か持ってきてりゃあ、お前の事が何か分かったかもしれねェのによ」

2015-01-16 13:23:50
ヴァエク @elqVaec

酒でもないかと視線を巡らしたが、そもそもそうした類の物が在るはずもなく。 踏み入れる先、手近なソファーに腰をかける。 自分の部屋、とは言うが、ここまで大仰に座る者もまずいまい。 腰掛けた傍らに空いた、一人分の空間。 「まァ座れや、ウィータスラーウァ?」

2015-01-16 13:52:29
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

ヴァエクを部屋に入れれば、癖で外に誰もいないのを確認してから、扉を閉める。意味のない行動だとはすぐに気付いても、染み付いた習慣はきっと抜けない。 「持って来るも何も、元々何も持ってねーし。俺のことって、何か気になるなら、答えるけど」 足を進めながら、部屋の中もきょろきょろと伺う。

2015-01-16 15:08:04
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

一度来てはいても、それから二晩が経過しているのだから、はじめて来たのと大差なく警戒してしまう。何も気にせずソファーに掛けたヴァエクとは対照的に。 座れと言われれば、適当に壁に背を預けようとして、やめる。シアから借りた服だと思えば躊躇われたから。ソファーを見れば、座れるだけの空き。

2015-01-16 15:08:14
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

おそらく意図して空けられたのだろうそこに、ちょこんと収まれば、まるで熊と狐が並んで座っているような画。狐はドレスの裾から覗く爪先に視線を落とす。もう履きつぶしかけている、赤い靴。 「話の続き。何かに、会って、それでどうなったの。……何か知りたいことあるなら、そっち先でもいいけど」

2015-01-16 15:08:29
匿名企画『宵の血に依る契約城』 @Conces_Castle

——城の尖塔に羽を休め、双子月はゆたりと瞬く。 ——見下ろさずとも見通す城に八の姿四の場所。 ——かちりと嘴の音ひとつ。

2015-01-16 20:30:33
ヴァエク @elqVaec

ヴァエクの、左傍。座るウィータスラーウァの身体は、背もたれに広げた腕の内に在るように。 ご丁寧に開けられた半身分の空間に、ヴァエクは一度鼻を鳴らして。 「ァ?なんだ随分気になってるみてェじゃあねェか。 そんなに気になンのか?」 話を切ったのは、ヴァエク自身であるというのに。

2015-01-16 23:23:20
ヴァエク @elqVaec

「結論を言やぁ、『オレ様は』何ともなっちゃいねェよ」 その平意な言葉から、含みを汲み取るのは難しい。 余程深く観察するか、或いは──何か、身に覚えがあるか。 「最初は、一日目の昼だ。まァそン時は、たった一言だけで返ったがよ」 命令では、死ぬと。 ヴァエクの自然が、殺すぞと。

2015-01-16 23:23:33
ヴァエク @elqVaec

その、言葉の意味は。 「二回目は、お前の記憶にもあンだろ。意識を失って、そっからだ。 ヘラヘラ笑ってたから、止めさせた。 その後は……あァ」 記憶を手繰る。 投げかけられた、その問いかけは。 「──さっきのお前と、同じ事を言ってやがったぜ。 『他の誰も、選ばない』ってな」

2015-01-16 23:26:06
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

それについて語るヴァエクの話を聞いても、俺はただ、何かが居ることの実感を強くしただけだった。それと、ヴァエクもそれに対して嫌悪しない様子であることを、確かめたかもしれない。 「……俺がそれのこと、化け物って言ったら、アケイシアが急に大声出してさ。アルケーディアスも違うって言って」

2015-01-17 01:10:16
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

「だから、誰かに、何か、悪いことが起きたとかは、思ってなかった」 おかしくなってるのが、俺だけなら、俺が殺されるだけなら、まだいいと思った。その時は。でも、全然よくなかった。死にたいわけ、ないから。 「……此処に来るまでは、なかったんだ。そんなのが居たら、誰か、気付いただろうし」

2015-01-17 01:10:31
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

「気付いたら、黙ってるような家族(やつら)じゃなかったし」 不気味さに、身震いをした。言葉に含まれた意を深く汲むには、やや及ばないけど。暖かい服を着せられているから、寒いわけじゃない。 「気持ち悪い。俺は見えないのに、向こうは見えてるのかよ。そんで、俺の意志と関係なく動き回って」

2015-01-17 01:10:43
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

自分で自分を抱くように、あるいは、張り付いた何かを剥がそうとするように、胸の前で交差させた腕で、強く、肩を掴んだ。 「それが済んだら、俺は目が見えなくなって、耳が聞こえなくなってて。それなのに、アケイシアとアルケーディアスにとっては、そいつは化け物じゃないんだ。気持ち、悪い……」

2015-01-17 01:10:51
ヴァエク @elqVaec

「……まァ、手前の身体勝手に弄くりまわされりゃァ『化け物』とも言いたくもなるわな」 具体的な症状については、ヴァエクは初耳であった。『死ぬ』という言葉に、漸く合点がいく。 だが同時に、浮かぶ疑問がある。 死ぬという事は、殺される事。 殺されるという事は、殺す者がいるという逆説。

2015-01-17 12:48:19
ヴァエク @elqVaec

初めは己だとヴァエクは思った。だが、この状況では当てはまらない。 寧ろ──『殺される前に殺してやる』という意が、ここにはある。 「ウィータスラーウァ」 震える肩に、乗せられる掌。 期せず、二人の手が触れ合う。 「あの二人は、嘘を吐けるタチじゃあねェ。隠し事は多いだろうがよ」

2015-01-17 12:56:46
ヴァエク @elqVaec

「他の連中もそうだ。ンな姑息な真似する奴ァ、此処にはいねェ。オレ様が認めてんだ。信じろ」 ヴァエク以外、それは信じる根拠を欠いた認識だろう。だがそれを、何の臆面もなく言い切っている。 故に、アルカとシアの認識に間違いはないと言う。不快という感情は、認識の可否の問題に過ぎないと。

2015-01-17 13:02:57
ヴァエク @elqVaec

「お前はオレ様だが、その感情はオレ様のものじゃあねェ。 お前がどう感じていようが、知るかよ」 薄情、と取られるだろうか。 それとも、情を求めるのが酷か。 「だがな、お前が助かりたいと願うなら、話は別だ。 ──少し寝てろ。時間を貰う。 その間に、オレ様がソイツと話をつけてやる」

2015-01-17 13:10:44
ヴァエク @elqVaec

生きたいと、願うなら。 死にたくないと、願うなら。 「話が話で済むか手が出るかは、ソイツの反応次第だがよォ。 ──心配すんな。どうせすぐ終わる」 アルカの話。 この夜までという期限。 何もしなくても、何も変わらないのかもしれないが。 それでも、『答え合わせ』は必要だろう。

2015-01-17 13:13:57
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

手が触れる。俺の指先は冷えていて、重なる手は熱かった。 信じろ、と言われれば、一も二もなく頷く。 「信じる。ううん、信じてるよ。だって俺、あいつら好きだもん」 名前を呼んでくれる。ひとりの人として、“ちゃんと”扱ってくれる。それだけで、騙されてもいいと思うほど、俺の心なんて安い。

2015-01-17 14:53:34
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