添乗員

PoKo @Poko8_m

【添乗員の横山１】 「おはようございます。ご乗車いただきまして、ありがとうございます。本日、お世話になります、エイト観光の横山と申します。運転手は安田です。何かありましたら…」って、もう誰も俺の話を聞いちゃいない。朝から酒盛りのどんちゃん騒ぎ。今日はどっかの会社の社員旅行の添乗。

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【添乗員の横山2】 正直なところ言うと、俺…。まだ、子供相手の修学旅行の添乗の方が良かったんやけどな…。とりあえず、形式上の挨拶を終えて、添乗員席に着くと、近くの席のオバさん達から「お兄さんは独身なの？」「彼女はいるの？」としつこく聞かれる。俺はそれが苦手。何年やっても慣れんわ。

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【添乗員の横山3】 ようやく最初の休憩先に着く。今日は久々に朝からバテ気味「横ちょ。お疲れ」と笑顔で運転手の安田が珈琲を持ってやってくる「ありがとぉ」「今日のお客さん、ちょっと大変そうやな」「せやね」「俺。嫌な予感すんねんな」「思い過ごしやって。そろそろ、バス戻るで？」「おぉ…」

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【添乗員の横山4】 不安を抱えながら、ヤスとバスへ戻って人数確認をすると「添乗員さん」とオバさん達に捕まる「お兄さんも、イケメンと思ったんだけど、1号車の添乗員のお兄さんも、めっちゃイケメンやな。モデルさんかと思ったで。あの添乗員さん、名前なんて言いはるん？」はいはい。始まった。

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【添乗員の横山5】 1号車の添乗員大倉はめっちゃモテる。大倉と添乗が一緒になると毎回決まったように聞かれる質問「大倉って言います」って言うと「大倉くんって言うんや」と隣の席に座っているおばちゃんに言うてる「ほんで、大倉くんに彼女は居るん？」「大倉にですか？いないんとちゃいますか？

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【添乗員の横山6】 「1号車の添乗員さん、彼女いないらしいで？よかったな」とオバさんが座っている後ろの席に声を掛けた。その先には…。どうしよ、めっちゃタイプなんやけどって思って凝視してしまう「そういうつもりで、言ったわけじゃないですよ」と苦笑いをしながら、必死に弁解している女性。

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【添乗員の横山7】 でも、やっぱり、恥ずかしくなって、目を逸らして、ヤスの方を見てニヤケる「何？横ちょ、どうかしたん？キショいで」「どうもしてへんで！それより、ヤス！お前…。運転手なんやから、ちゃんと前見て運転せぇ。危ないわぁ」と誤魔化す。もしかして、嫌な予感は間違いやったかな？

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【添乗員の大倉1】 「本日はエイト観光をご利用頂きまして、ありがとうございます。今回の1泊2日の旅行を皆様とご一緒させて頂きます、添乗員の私、大倉と運転手の村上です。皆様の楽しい旅のお手伝いが出来るよう、頑張らせて頂きます。よろしくお願いします」今日のお客様達は大丈夫そうやな。

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【添乗員の大倉2】 最初の休憩先で既に先輩の横山くんがへたってる。PAの自販機で珈琲を買うてるヤスに「2号車大変なん？」と声を掛けると「せやねん。朝から、どんちゃん騒ぎ。そっちは？」「今んとこ、平気やな」「そっか。じゃあ、俺…横ちょのとこ行ってくるわ」「またな」と手を振り別れる。

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【添乗員の大倉3】 珈琲を飲みながら、出発を待つバスの前に居ると、バスに乗車しとる女の子達が寄って来る。いつものことだから、にっこり笑いかける「添乗員さんって彼女…」と質問を遮るように「すんませんね。そういう質問の答え、お断りしとるんですよ」とバスから村上が怪訝そうに言ってくる。

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【添乗員の大倉4】 「なぁ、信ちゃん別にかまへんやんか。あの子たち可愛かったんに！添乗気まずなるゎ」「ったく…社内規則にあるやろ？ただでさえ、仕事以外でも普通に女の子寄ってくるんやから、仕事くらいはえぇやろ？それに、また振られて、イジイジしとるお前の面倒見んとあかん身にもなれや」

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【添乗員の大倉5】 言う通りやけども。でも、お客さんは嫌なことを忘れて旅行を楽しみに来とるんやから、少しはえぇやろ？って怒られる度に思ってまう。その結果、いつも信ちゃんに迷惑掛けるんは否めへんのやけど。そういえば、2号車に可愛い子、乗って行ったな。完全にアレ横山くんのタイプやん。

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【運転手の村上1】 大倉の奴、また女の子に囲まれて、またヘラヘラしとるし。何度、注意しても学習能力がないねんな。とため息をつきながら、ハンドルに頭を押し当てる。顔を上げてサイドミラーを見ると2号車のバスに綺麗な女の人が乗り込んで行く。外見だけで言うたら、めっちゃタイプなんやけど…

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【運転手の村上2】 と思ったら、外に居た大倉が急いでバスに乗り込んで来る「信ちゃん。見た？今の女の人。2号車に乗って行ったキレイな女の人。絶対に、あれ横山くんのタイプや思うんやけど！」とテンション高めに言って来る。確かにヨコも好みっぽい…よな「ほぅなん？俺、全然見とらんかったわ」

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【運転手の村上3】 「だから、横山くんは、バテてんのかな？緊張し過ぎて。ヤスがな、もう、どんちゃん騒ぎで、大変やねん。みたいなこと言っとったけど。横山くん、照れてあかんとかなんとちゃうかな？」と笑ってる「まぁ、ありそうやな」「せやろ？」「大倉。人のことはえぇから、出発の準備せぇ」

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【運転手の村上4】 「わかりましたよー」と少し、ムスッとした顔をしながら、出発準備をはじめる大倉を横目に見ながら、俺も準備をはじめる。でも、何であの子は2号車なんやろ？1号車に乗ってる人は明らかに若い人が多い。反対に2号車は年配の方が多く乗車してる。実は意外と、歳いっとるんかな？

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【運転手の村上5】 せやけど、仮に若いとしてやな。こっちは座席空いとるわけやから、人数調整とかであっちに行く言うんもないはずやろ？普通やったら、同世代で楽しみたいんやないの？まさか、虐められとるとかか？他所の会社やけど…俺の予想通りやったら、大丈夫なんか？と無駄に悶々としてまう。

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【運転手の村上6】 俺のお節介なんはわかるんやけど、考えれば考えるほど、いろいろと気になりはじめてきたな「…ちゃん。信ちゃん。出発準備、大丈夫やで」大倉の声で我に返る「あ、あぁ…おん、じゃあ、出発するか」とバスを運転し出す。やけど、なんかホンマに気になってしゃあなくなってきたゎ。

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【2号車の彼女1】 年が明けてすぐ、2年半付き合った同じ会社に勤める亮くんと別れた。理由は亮くんに他に好きな人ができたから。相手は同じ部署の可愛がっていた3つ下の後輩の女の子。今になって考えてみたら、彼女が亮くんに近づくために、私に近づいたんだろうな…とか思う節はたくさんあった。

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【2号車の彼女2】 何で、そんなことに気が付かなかったんだろう。そう思うと、自分の鈍さに笑えてくる。別れてから数日後、いきなり後輩から呼び出され「先輩には悪いと思ったんですけど…、付き合うことになって」と報告を受けた。いちいち報告することか？と思いながら「よかったね」って言って…

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【2号車の彼女3】 彼女の前で、精一杯の作り笑いをした。きっと、この子の腹の中では私のことバカにしてるんだろうな…とか思いながら「先輩から、そんな言葉を掛けてもらえるなんて、私…思ってもいなかった」って泣き出したときは、本当に呆れて、言葉も出てこなかった。泣きたいのはこっちだよ…

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【2号車の彼女4】 こんな女に、亮くんを取られるなんて。本当にあの時はショックだった。付き合う前は亮くんのことは何とも思ってなかった。でも、仕事ができて、カッコイイから、女子の中では断トツで1番人気だったこともあって、顔と名前は知っていた。昇進も早くて、いろんな人から注目の的で。

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【2号車の彼女5】 私には関係のない人だな…そんな風に思っていた。仕事上でも、関わることもなかったし、彼に対して私は興味を持つことは全くなかったし。多分、亮くんもそうだったと思う。でも、ある日、同期の丸山くんといつもの店で飲む約束をして待っていたら、丸山くんが亮くんを連れてきた。

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【2号車の彼女6】 そこから、亮くんと話をするようになって、丸山くんと3人で飲みに行くようになって。意外と優しい顔をして、笑ったりするんだ…っていう普段は見ることのない、亮くんの一面を見るようになって、仕事もできて、モテて、クールで気取った奴と思っていたイメージも徐々に変わった。

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【2号車の彼女7】 ある日「取引先の人が駅前の予約の取りづらいレストランの予約が取れたらしいんやけど、行けなくなったらしいねん。予約取れたのにキャンセルするのも、惜しいみたいな話しとってさ。この間、お前、そのレストランに行ってみたいって言ってたやろ？やから、予約譲ってもらってん」