引退騒動、顛末記

恥ずかしがり屋 @plant_all

引退騒動その１：昨年は希有な体験をした。４０年以上、借りていたビルの一室をでようと、設備の解体の準備を進めていたら、寸前になって家主が突然、決して安くはない家賃をただにするから出るのは絶対に許さないと逆上した。もちろん、予め家主には撤退を予告していた。

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引退騒動その２：家主は、ビルに取り付けた機械や設備等は公のものであるから、勝手に壊してはいけないとのたまった。そしてデスクやチェアー等はお前のものだから、勝手に処分してもよいと言ったのである。

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引退騒動その３：当然、こちらも今更、引き返すことはできないと逆ギレした。数日間、激しい押し問答が続いたが、強引に撤退すると何か事件が起こりそうな気配を感じて、結局、こちらが折れた。

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引退騒動その４：家主は毎月、数十万円もする家賃を只にするという、合理的な条件も出しているので、こちらとしてはまあ、数ヶ月間、冷却期間をおくしかないと腹をくくらざるを得なかった。

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引退騒動その５：家主は無償で貸すとはいったが、ただし、お前の設備は解体せず、そのままにして、半年間、時間をやるので、他の同業者を捜して、譲渡せよというのがその本音であった。

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引退騒動その６：中古車の販売とは違い、その譲渡先を捜すのは容易ではないと考え、私は解体撤去をする道を選んだつもりだった。譲渡先を捜すとすれば、面倒な交渉もしなければならないし、契約もしなければならない。

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引退騒動その７：家主には欲しければ設備等は只でやると言ったが、人脈のルートがなかったため捜しきれなかったので、半年ほど家賃を只にするのと引き替えに譲渡先を捜せと、こちらに丸投げしてきたのであった。

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引退騒動その８：正直なところ４０年間、手塩にかけて維持管理してきた設備、内装等を取り壊すのは、かなりの心理的抵抗感があった。家主にとっても同様の心境はあったと思われる。私の事業所は空気のごとく、ビルと一体になって、ごく自然に存在していたのである。

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引退騒動その９：ということで、現実に譲渡先を捜し始めたのであった。出入りの業者等を通じて、探っていったが予想通り容易には見つからなかった。Web等で、そのような仲介業を行っているサイトもあったが、得体が知れないところもあって、こちらの情報を出す気にはならなかった。

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引退騒動その１０：ただ、割合、早い時期に一昨年、東日本大震災で、自宅と事業所が共に津波に流されてしまったという府内出身の同業者が捜していたという情報があり、家主共々一肌脱ごうという気持ちにはなったが、今は保留していると言うことであった。

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引退騒動その１１：その間、私は現役で仕事を細々やりながら譲渡先を捜していたのである。顧客にも現在、譲渡先を捜しているが、それでも良いかと断り、他の同業差を紹介して欲しいと言われた方には、そのようにして差し上げたのであった。

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引退騒動その１２：譲渡すると言っても、それで儲けようという気はさらさらなく、わずか数百万の値段を付けただけであった。値切り交渉も見込んでいたので、できる限り希望に応じて値引きするつもりであった。

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引退騒動その１３：家主は値段を付けたことに不満の様子であった。只にすれば、すぐに見つかると思ったからであろう。しかし、かなり難しい交渉の仲介の労を執る人に対しては、手数料は渡さなければ捜す気にはならないだろう。また、買う人にとっても只というのは気味の悪いことであろう。

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引退騒動その１４：８月の初旬、突然、仲介を依頼していた男が、駆け込んできて、いきなり２週間後に明け渡せと乱暴なことを言い放った。買い手の名前も顔も一切知らず、会ったこともない相手である。まして、契約さえしていない。

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引退騒動その１５：しかし、その男が話を切り出す前に、機先を制して、現在、生きた顧客を相手にしているため、途中で打ち切るというような無責任なことはできない。早くても２ヶ月はかかると話したのに、強引に２週間で立ち退けと言ってのけたのだ。

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引退騒動その１６：一応、ことの経緯を家主に伝えたところ、満面に笑みを浮かべて喜んだ。家主としては２週間で立ち退いて欲しかったのだろう。しかし、その日の夕方に、再度こちらの気持ちを明確に伝えるために電話したときには、すでにその話は雲散霧消していた。

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引退騒動その１７：数日後、家主にその話はシャボン玉のように飛んで消えてしまったと話したときは、がっくりと肩を落としたものだ。私としては、文書を渡し、きちんと手順を踏んで話を進めるよう言ってあったにもかかわらず、約束を守らなかった男に対しては以後、一切信用しなくなった。

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引退騒動その１８：その男としては手数料が稼ぎたくて、複数の同業者を煽り拙速なことをした可能性がある。こちらも手数料でけしかけた側面もあるので、ある程度は割り引いてやらなければならないだろう。しかし、人の弱みにつけ込んで、土足で胸を蹴飛ばしたことは許し難い。

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引退騒動その１９：また、家主も家賃を只にするといってから、上から目線で、ああしろ、こうしろと命令口調で指示する図太い態度に変わった。こうしたことも癪に障って、私は正規の家賃を振込み続けた。主な狙いは自分の主体性（自由な判断）を確保するためであった。

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引退騒動その２０：引退すると宣言してから、知人や業者のことごとくが手のひらを返すように態度を変えた。例外的なのは、何十年来の顧客達である。紹介先を教えると言っても簡単には応じずに、元気でいる限り続けて欲しいと懇願された。こうした人たちにはずいぶん、気持ちを支えられた。

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引退騒動その２１：引退宣言をしてから従業員は、期限を明確にして欲しいと言ったので、７月一杯で解雇した。ところが、その後、アルバイトをしながら失業給付とる方法があると自分で調べてきて、どこか紹介して欲しいと言ってきた。

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引退騒動その２２：こういうことは直接ハローワークに聞くのが一番良い。電話して聞いたところ、週２０時間以内、１日４時間以内のアルバイトであれば、可能とのこと。しかし、それを条件にタイムカードのコピーまでしてくれる事業所が現実に果たして存在するだろうか。

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引退騒動その２３：どう考えても、アルバイトしながら失業給付が受け取れるようなところは、もとの職場しかない。ハローワークに再度電話して、聞いてみたところ、それでよいとのこと。もちろん、失業給付は割り引かれるが、手取りが変わらない単価を選んで半日だけ来てもらうことにした。

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引退騒動その２４：もちろん、わが職場は閑古鳥が鳴いていた。しかし、私は好奇心が極めて旺盛なために追求するのに多大の時間を要する課題をいくつも抱えていた。その嗜好を叶える絶好のチャンスが到来したのだ。時折、訪れる顧客の相手をしながら、相続税法の詮索を開始したのであった。

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引退騒動その２５：あまり時間をとられない、様々な雑用をこなしながら、このような詮索をするというスタイルが、私にとっては最も集中できる環境である。私はこれまで、相続税に関心を持ったことはほとんどない。しかし、いつまでも放置しておくわけに行かない年齢に達しつつあった。