『ハンターズ・ムーン』外伝(嘘)

『ハンターズ・ムーン』の外伝です。嘘です。ハンターズ・ムーンのまとめは、こちらもどうぞ。 モノビーストまとめ http://togetter.com/li/67157 キャラクター作成Tips http://togetter.com/li/56839 キャラクター作成特技編 http://togetter.com/li/56702 モノビースト作成Tips http://togetter.com/li/57054 続きを読む
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齋藤高吉 @smokedbook

赤石の山に日が沈んでいく。僕はガードレールから削り出した矢尻に油を塗りながら、麓へ続く道に目をこらしている。見張りは退屈で仕方ないが、さぼるわけにはいかない。前回の襲撃では、里の大人が二人も大怪我をした。

2010-12-11 15:45:12
齋藤高吉 @smokedbook

シバタの爺さんの話では、都市との連絡がつかなくなってから、ゆうに二十年は経っているという。この国には、僕の里のような取り残された集落がいくつもあるらしい。いつ来るとも知れない、東京からの救出を待ちながら、ガールに怯えて暮らす村。

2010-12-11 15:48:13
齋藤高吉 @smokedbook

僕の兄さんは、冬越えのためにストーブの薪を切りに出かけ、森ガールに攫われて、いなくなった。戦闘の跡に腕と一緒に残されていたクロスボウは、僕が受け継いだ。これを受け取ったとき、父さんは顔をくしゃくしゃにしていた。泣くのを見たのは、あの時だけだ。

2010-12-11 15:51:02
齋藤高吉 @smokedbook

このままでは皆殺しにされる、と集会で言い捨てて、ヨウジとツバサを連れて出て行ったレン……あいつらの荷物が、避難民のふりをして里に入ろうとした旅ガールの背嚢から出てきたのも、同じ頃だったと思う。麓の親戚にあてた手紙や、家族が蔵から出して持たせた秘蔵の缶詰が、歯型だらけになっていた。

2010-12-11 15:54:16
齋藤高吉 @smokedbook

それから半年。訓練を積んだ僕は、この矢倉の上に座ることを許された。夏の間、村の食料を狙って散発的な攻撃をかけてくる山ガールを撃退して、腕も上がってきたと思う。でも、秋になってからは、山ガールが来る回数も人数もどんどん増えてきている。冬籠りのために、奴らも必死になっている。

2010-12-11 15:56:32
齋藤高吉 @smokedbook

日が殆ど暮れたころになって、「あるううる」と吠え声が道の向こうから聞こえてくる。僕も同じように、犬の鳴き真似を返す。ガール避けのまじないだ。沢に魚を捕りに出たユウイチたちが戻ってきた。……でも、何かがおかしい。

2010-12-11 15:59:01
齋藤高吉 @smokedbook

僕は矢倉から下りてユウイチに駆け寄る。あいつ、たった一人、魚篭も持たずに……脚を引きずっている。何かあったんだ。

2010-12-11 16:02:25
齋藤高吉 @smokedbook

「みんな死んだ」僕の腕に倒れこんだユウイチは、荒い息の合間から声を絞り出す。「たった一匹だったのに、誰もかなわなかった……首が、ああ、あんな風に!」真っ赤な夕日に照らし出された彼の顔はひきつり、目をいっぱいに見開いて、瞬きすらしない。

2010-12-11 16:06:06
齋藤高吉 @smokedbook

柵の内側で、僕と同じように見張りをしていた大人たちも駆け寄ってくる。「沢にガールは出んはずじゃろ。お前ら、山に入ったか」「違う、違う」ユウイチはぶつぶつと喋りながら、僕を見ていない。誰も見ていない。道の向こうにいる、何かを見ている。「沢に……黒い、太い、黒く……首が!」

2010-12-11 16:10:14
齋藤高吉 @smokedbook

ユウイチの言葉に、みんなの表情が硬くなる。僕も同じだ。ラジオが止まってしまう前に放送を聞いたことがある大人も、その話を聞かされて育った僕たちも、川に出るガールのことは誰もが知っている。それが出てしまったら、集落はおしまいだということも。

2010-12-11 16:13:33
齋藤高吉 @smokedbook

山の影が僕らの後ろから覆いかぶさってくる。気を失ったユウイチが診療所に運ばれていく。みんな慌てて柵の上に篝火を焚き、田に続く用水路を堰き止めはじめている。聞いた話では、あれは水を伝って入り込むというから……でも、僕には分かっている。

2010-12-11 16:17:38
齋藤高吉 @smokedbook

そいつは道から来るだろう。橙色の炎の光を浴びて、正面から。触れる物全てを一瞬で括り殺す、人類の敵。山陰の全県を二ヶ月で滅ぼしたという、黒髪の破壊の化身。川のガール……瀬ガール。

2010-12-11 16:21:30
齋藤高吉 @smokedbook

たとえ今夜で死ぬとしても、刺し違えてやる。僕らの過去と未来を奪った業を、償わせてやる。震える膝に力をこめて立ち上がり、麓への道を、ありったけの殺意をこめて睨みつける。一瞬視界が暗くなり、矢倉が見えた。

2010-12-11 16:25:02
齋藤高吉 @smokedbook

衝撃は後から来た。僕は地面に倒れ、さっきまでいた矢倉を見上げている。地面についた腹に小石が刺さって痛い。息ができない。誰かが叫び声をあげ、僕の頭上に立ちはだかる姿が、兄さんが斧を持ち、空中を炎が走り、はじけ、父さんが矢の作り方を教え、黒い線が上がり、靴が、底が。……なんて速さだ。

2010-12-11 16:28:15
齋藤高吉 @smokedbook

はいおしまい。帰った帰った(手にはたき)

2010-12-11 16:30:12