ほしおさなえさん(@hoshio_s)の140字小説39
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夜が明けてくる。カーテンの隙間からさしこんでくる光が、なぜか丸くふくらみ、ぼんやりと虹色に分解していた。こんなことってあるのか。カーテンをあけると、外のものがなにもかも発光していた。瞬間、世界は虹なんだ、と思った。オレンジの空を光る鳥がすうっと横切って、世界は虹なんだ、と思った。
2014-11-15 09:01:52祖父の家が壊され駐車場になった。身近な人が死ぬのは世界の一部が消えることだ。身体の一部がなくなることだ。僕が死んだあとにもだれかがこんな気持ちになるかもしれない。消えたくないと願うのは欲深いことだと思う。風のように消えたいと思う。駐車場の上はぽかんと広い。空白が折り重なっている。
2014-11-17 21:18:09いろいろなところに行きたいのに、外に出られない。荷物を詰め列車に乗り地図を見て知らない町を歩くと思うと、わくわくするがそれだけで疲れてしまう。心がだんだん植物になっていっているらしい。ここで光を受けているだけでいい。いつか根や葉が出て、夢だけが種のように飛んで行くのかもしれない。
2014-11-18 09:15:22山の麓を歩いていた。さあさあと雨が降っていた。川の対岸に鹿の姿が見えた。息が止まりそうになる。霧のなかで生きていた。子鹿がやってきて、母親らしき鹿に駆け寄っていく。そのとき悟った。わたしの知らない世界が川の向こうにたしかにあるのだ、と。鹿の姿が消える。時が止まっていたようだった。
2014-11-19 10:13:49姉妹は森に行った。春になったと少し前に思ったばかりなのに、もう葉が色づいている。時が過ぎていくのも毎年同じことが繰り返されるのも怖くて、姉妹は手を握った。ずっといっしょだ。ずっとひとりだ。ふたりは同時に思い、それは同じことかもしれなかった。姉妹は手をつなぎ、森の中に消えていった。
2014-11-19 22:56:12夜明け前、白んでいく空を見ながら布団にくるまっていた。人を傷つけちゃダメって知ってるのに、わたしが喋ると相手が傷ついてしまうんだよ。なんでだろ。棘々の言葉ばかり身体に詰まっているのかな。布団に顔を押しつける。生きてる限りこうなのかな。硝子に息を吐きかける。くるくる線を引いている。
2014-11-20 21:47:48わたしから見れば、人間はみんな暇なんだよ。だから喜んだり悲しんだり、ほかの人間を慕ったり憎んだりする。あっという間の人生なのだから、ただ風に揺れていればいい。哀れだね。なにもかも暇つぶしなのだから。いつかみんな同じように消えていくのだから。行く着く場所なんてありはしないのだから。
2014-11-22 19:28:34雨の夜は森の中の木のことを思う。冷たい雨にあたって木たちは冷たくないだろうか。寒くないだろうか。雨の音を聴くうちに、わたしは森のなかにいた。森は暗く澄んでいた。身体のなかまで雨になり、冬になっていくようだった。目が覚めても雨だった。白い空の下、木の葉が昨日より濃く色づいていた。
2014-11-26 10:44:53夜、白い虹を見た。月にかかる虹だと弟が言った。ふたり並んで虹を見ていた。虹はなかなか消えなかった。虹が消えるとき世界も消えてしまうんじゃないかと思った。空が白み、虹が薄れる。弟はいなかった。窓に僕だけが映っていた。弟なんていない。生まれる前に死んだのだ。世界が日に照らされていた。
2014-11-26 22:02:17色づいた葉が落ちている。赤いの黄色いの橙色の。拾い集めてもなにも埋まりはしないのに、綺麗なのを選んでは拾っている。赤が濃いのは先が少し茶色くなっていて、そんなところも僕らに似てる。過ぎ去ったものは戻らない。拾っても拾っても、上から葉が落ちてくる。過ぎ去った日々のように落ちてくる。
2014-11-28 14:55:07