キャラバン

キャラバンを護衛していた戦闘魔術師の青年と、キャラバンを襲う魔女の短い話です
減衰世界
rikumo 481view 0コメント
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  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-05 21:37:23
    灰土地域と呼ばれる広大な荒野では、キャラバンによる交易が盛んであった。この地方には農業に適さない痩せた火山灰の大地が広がり、発掘された過去の文明の遺産都市等が点在する。その大都市たちを、キャラバンは繋いでいる。その交易路は鉄道が敷かれるまで発展し続けた。 1
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-05 21:41:50
    交易商人たちが何故キャラバンを組むのか。それは襲撃者から身と荷物を守るためである。野盗や山賊程度ならまだ生易しい。彼らはキャラバンに加わった戦闘魔術師によって蹴散らされてしまうだろう。大きな脅威は魔女だ。彼女らは、凶暴で、残酷で、高度な魔法を使うのだ。 2
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-05 21:46:51
    魔女は人肉を食ったり、伴侶と決めた男を誘拐したりする。人間界の法は彼女たちには当てはまらない。彼女たちは辺境や奥地に集落を作り、女性上位社会を築いている。独特の魔法体系を持ち、それは時に文明化された人類の魔法を上回る。 3
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-05 21:51:55
    山を越えるときは高地の魔女が。平野を進むときは荒野の魔女が。水地には、沼の魔女が棲む。彼女らはキャラバンを襲うために戦闘魔術の訓練をしていることが多い。彼女たちは交易商人たちが戦闘魔術師によって護衛されていることを知っている。知った上で、それを上回る魔法を用意する。 4
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-05 21:57:51
    狩るものと狩られるもの。その戦いはいつまでも続く。今日もまた、荒野をゆくキャラバンがあった。幌馬車にして10台程度であろうか。その中の一台、幌が畳まれ見通しの良くなっている馬車があった。そこに座って遠く地平線を眺めているのが、リシュキだった。彼はまだ若い青年に見える。 5
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-05 22:03:06
    リシュキはこのキャラバンに雇われた戦闘魔術師だった。彼は短い髪をして、紺の亜麻布服、白いズボンを着ていた。二刀流の杖を腰に差し、両手の人差し指には指輪がはめられている。もちろん魔法の道具だ。インプラント手術など受けていない、本当の魔法使いである。 6
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-05 22:07:29
    依頼は何度もこなし、そのたびに魔女を退けてきた。今回の依頼も、そんな経験の一つになる予定だった。リシュキの乗る馬車にはマスケット銃で武装した傭兵も同乗していた。彼らは山賊や盗賊を威嚇するために乗っている。リシュキの出番になったら割増料金だ。傭兵を雇った方が安い。 7
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-05 22:13:34
    リシュキは静かに荒野を見つめていた。石としなびた草と灰色の土しかない世界。彼は片眉を上げて、近くで眠る傭兵の肩を叩いた。「風が匂う。気をつけて。魔法の使い手だ」風は魔力の流れだ。魔力の濃い……例えば、魔女の存在によってかすかに揺らぐのだ。傭兵は驚いて仲間の傭兵を起こす。 8
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-05 22:20:00
    3人……いや4人だろうか。誰かがいる。気配を消しているため荒野には何も見えないが、魔力を隠すのは難しい。リシュキが警笛を鳴らす。全ての幌馬車が進行を停止し警戒態勢に移る。マスケット戦士が警告射撃を空に放つ。魔女の基本戦術は奇襲だ。こうして威嚇すれば多くは諦めて逃げてくれる。 9
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-05 22:24:47
    突然魔力の揺らぎが消える! 3、4個あった存在が一瞬にして消えたのだ。リシュキの魔法感覚が凄まじい恐怖を彼に伝えた。“なんだ…? 今までの魔女と違う!” 考えたのは一瞬だった。無意識に馬車から身を投げ出し地面に転がり落ちる! 激しい衝撃が炸裂したのはその一瞬後だった。 10
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-06 20:31:37
    衝撃をやり過ごしすぐさま顔を上げると、キャラバンが壊滅していた。10台の幌馬車は全てバラバラに吹き飛んでいた。同乗していたマスケット戦士たちも同じ運命を辿った。偶然生き残った他の戦士や商人たちも、わけのわからないまま次々と身体を両断されて死んでいく。 11
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-06 20:35:13
    リシュキは魔法感覚をフル稼働させる。この異常事態に、彼の感覚は研ぎ澄まされていく。並の襲撃者ではない。リシュキはかつて8人の魔女と戦い、皆殺しにしたこともある。10人だって戦えるはずだ。しかし、存在さえ掴めず一方的に蹂躙されたことなど無い。そのとき、首筋に違和感! 12
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-06 20:39:46
    咄嗟に魔法で防御するリシュキ。彼は障壁で首への衝撃を反らすと、距離を取るため空中へ舞い上がった。彼はすぐさま空中で態勢を整える。さっきまで自分がいた地上に魔女の姿を捉えた。そこにいたのは、どう見ても一人の小娘にしか見えない。“まさか……一人なのか!?” 13
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-06 20:47:52
    しかしリシュキはこれでも中堅の魔法使いなのだ。名前すら知らない小娘にこのままなすすべなくやられるつもりは無い。キャラバンの護衛は失敗したが、命までくれてやるつもりはなかった。リシュキはすぐさまテレポートの呪文を唱え、小娘からさらに距離を取る。 14
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-06 20:50:55
    転移後、状況を把握する。いま彼は小娘から10メートルほど距離を取った荒野に立っている。キャラバンはすでに自分を除いて全滅していた。積荷は黒コゲ。略奪目的ではない。殺しに来たのだ。魔女が人肉を好んで食べることは知っていた。魔法使いならば、さらによい肉となる。15
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-06 20:55:49
    すぐさま腰に差した得物の杖2本を抜く。幸いなことにほとんど損傷してはいなかった。馬車からの転倒時に折れていたら危なかった。右の杖は樫の杖で宝石などは付いていない。左の杖は檜の杖で、金属のリングが嵌め込まれていた。どれもリシュキの魔力を増大させる特注品だ。 16
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-06 20:59:33
    燃える積荷……その揺らめきの向こうに、魔女は静かに立っていた。やはり魔女は一人だ。青白い肌、赤い目、濃い緑の髪、ボロのワンピース。素手であり、裸足である。一般的な魔女の特徴そのままだ。4つに見えた存在の正体は掴めなかった。魔女はじっとリシュキを見つめている。 17
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-06 21:06:44
    そして魔女はゆっくりとリシュキに歩み寄り、口を開いた。「始めてだよ、私の魔法を生き延びた魔法使いは」 リシュキはハッと笑った。「井の中の蛙だな。僕より強いやつなんてごまんといる」 「私はその全員を凌駕して見せる」 魔女の姿がぶれる。リシュキは防御魔法を展開した。 18
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-06 21:09:51
    「障壁の呪文。効果時間は3分!」 魔女の声。姿はすでに見えなくなっていた。確かに障壁の呪文だ。球状のバリアで自身の周囲を覆う呪文。とにかく魔女の攻撃の正体が掴めない以上、死角を完全に防御して様子見を続けるほかない。その時間は3分。次の障壁を展開するまで10秒かかる。 19
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-06 21:13:21
    その10秒で魔女は決着をつけるつもりだ。3分の思考時間をもらったリシュキは、周辺の魔力を分析する。しかし、さっきまで掴めなかった敵の力が急に掴めるわけでもない。明らかに格が上だ。“逃げるか……どうせ、依頼は失敗だ” リシュキは帰還の呪文を構築する。 20
  • 減衰世界 @decay_world 2015-02-06 21:19:21
    帰還の呪文は、魔法で記憶した場所に時間と距離を超越して瞬間移動する呪文だ。今回はリシュキの自宅へと帰還する。危なくなったら、逃げる。それが荒事を続ける中で生き延びる最もいい方法だ。「帰還の呪文。構築まで2分30秒。発動は、障壁の呪文が切れてから1秒後」魔女の声。 21

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