「石田三成の青春」第一話「美しい誤解~出会いの三献茶」

「新選組 試衛館の青春」「独白新選組」の著者 松本匡代先生による書き下ろしツイッター小説のまとめです。 第一話はこちらからどうぞ!
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松本匡代@試衛館の青春&独白新選組&夕焼け土方歳三はゆく&石田三成の青春 @mk106732
お待たせいたしました! 「石田三成の青春」第一話 「美しい誤解~出会いの三献茶」第一回 始めさせて頂きます。#石田三成の青春
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美しい誤解~出会いの三献茶        (一) 周りの山が若い緑に覆われている。秋の紅葉が木ごとに、いや枝ごとにその異なる色で周りの景色を染め分けるように、春の若葉の黄緑色もまた、一様ではない。 #石田三成の青春
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しかし、里から眺める山の色は、調和がとれて柔らかく若葉一色と言い表せる。そしてそれは、見る人の目を和ませ、気持ちを明るく浮き立たせてくれるようだ。 #石田三成の青春
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近江の国は坂田郡大原の庄。伊富貴山観音寺の庫裏の一角、経机の前に端座して書見をしている少年が、自分の傍で、手枕で寝転んで外を眺めている、もう一人の少年に、あきれた様子で声をかけた。 「紀之介どの、お師匠様が留守中、書見をしておれと言われたではないか」 #石田三成の青春
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時は天正二年初夏四月、 真夏を思わせるような日差しも漸く西に傾きかけた七つ過ぎ。 #石田三成の青春
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書見をしている少年は、大原の庄から山一つ越えた石田村を治める地侍・石田藤左衛門正継の三男佐吉、十五歳。そしてもう一人、佐吉の傍で和尚に言いつけられた書見もせずに寝転んでいるのは、大谷紀之介、十六歳だ。 #石田三成の青春
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佐吉は、二年前の元亀三年、長兄を病で亡くしていた。 ようやく庭の雪も消え、桜のつぼみが綻びかけた頃のこと。病弱だった長兄は、風邪をこじらせ亡くなった。 #石田三成の青春
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長兄が風邪をひいて寝込む前に、佐吉が鼻をぐすぐすいわせていた。 「佐吉、風邪か、おとなしくして早く治せ。兄上に伝染さないようにしろよ」  いつものとおりの家人の言葉を、いつものとおりに聞いて就寝み、いつもの通り、次の日にはもう元気になっていた。 #石田三成の青春
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そして数日後、長兄が熱を出し、一月ほど寝込んで、あっけなく逝ってしまった。  佐吉の風邪が伝染ったかどうかはわからない。たとえそうであったとしても、佐吉には何の罪もない。けれども佐吉は、 「私のせいだ」 自分を責めた。 #石田三成の青春
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以前は、思慮深く乱暴な遊びはしなかったけれど、子供らしい明るく元気な三男坊だった。それが長兄が亡くなって以来、部屋の隅にひとり哀しい目をしてぽつんと居て、ほとんど言葉を発することもなくなった。 #石田三成の青春
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最初のうち、父親の正継は、 「兄の死をにわかに受け入れられぬのであろう。そっと見守っていてやれば、子供のことだ。やがて、もとの元気な佐吉に戻ってくれよう」  今は嫡男となった次男正澄と話していた。 #石田三成の青春
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二人とも、この頃はまだ、佐吉が長兄の死を、自分のせいだと考え、自分を責めていることには気づいてはいなかったようだ。 けれども、半年経ち、一年が過ぎても、佐吉の様子に変化はなかった。 #石田三成の青春
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そっと見守る。 きれいな言葉だ。しかし実際は、何もしていない。放っておいただけだった。 #石田三成の青春
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と言って、誰が父を、兄を、責められようか。村の事、家の事で忙しかったから、それ以上に、領主浅井家と尾張の織田家が戦いの最中なのだ。いつ石田の家にも動員の沙汰が下るかわからない。だから…。 #石田三成の青春
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いや違う。 むしろその忙しさは彼らにとって幸いだったはずだ。忙しさは一時、悲しさや寂しさを忘れさせてくれる。しかし、それは一時の事。彼らもまた。息子を、兄を、亡くした哀しみの中にいたのだ。 #石田三成の青春
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一年が過ぎても変わらぬ三男に、正継は苛立(いらだ)った。いやその苛立ちは、何もしてやることのできない自分自身に対してだったのかもしれない。 「いつまでも、そんなことでどうする」  声を荒げることもしばしばになった。時には手を挙げることもあった。 #石田三成の青春
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そんな時は決まって、正澄が間に入った。十八歳になった新しい嫡男は、弟に振り下ろされようとする父の手をつかみ、正面から父の顔を見つめ、無言で首を横に振る  正継も一瞬怒気を含んだ目で正澄を見返すが、その後止められてほっとしたように視線を外し、その場から消えた #石田三成の青春
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佐吉は無表情のまま、その場に佇み続けている。 「佐吉……」  弟を何とも言えぬ表情で見つめながら、正澄もまた、なす術もなく佇むだけだった。  正継も正澄も、この頃になって漸(ようや)く、佐吉が長兄の死を自分のせいだと考えていることに気がついたようだ。 #石田三成の青春
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「お前のせいではない」  何度言っても佐吉は慰められなかった。  そんな時、石田村の東へ山一つ越えた大原の庄にある寺、観音寺の住職が所用のついでに石田家に立ち寄った。教養が深く人望があり近在の村人から尊敬されている住職と、正継は日ごろから親しくしていた。 #石田三成の青春
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正継は、住職に佐吉の様子を見せ事情を話して、どうしたものか相談した。住職は、 「寺に通わせてはどうか」 と言ってくれた。 #石田三成の青春
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「違った場所で過ごさせるがよいかもしれぬ。学問好きの賢い子のようじゃ。寺に通い学問などして日を過ごせば、気も紛れるであろう」 「かたじけない。それは願ってもないこと。どうせなら通いより、お預けいたした方が…落ち着いて過ごせるのではござるまいか」 #石田三成の青春
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十四歳の少年の足で毎日の山越えは辛かろう。口には出さぬ親心だ。が、住職は 「いや、それはならぬ」 きっぱりと言った 「去年、長兄を亡くし、寂しさに耐えかねているものを寺に預けたら、家族に捨てられたと思うやもしれぬ。それではあまりに哀れじゃとは思し召されぬか」 #石田三成の青春
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正継は頷くしかなかった。 「大丈夫、山道を通う疲れは、夜何も考えず泥のように眠らせてくれるはずじゃ」  住職が正継の胸の内を見透かしたように、言葉を継いだ。 #石田三成の青春
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このようなわけで、今年天正二年の春から佐吉は毎日山を越え寺に通っている 住職が石田の家を訪れたのは去年の初秋。八月、小谷の城が落ち浅井家が滅んだ。その直後は、石田家として色々(いろいろ)あったにしても、佐吉が寺に通い始めるのはもう少し早くてもよかったと思うのだが #石田三成の青春
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三回忌だのなんだのと理由をつけて延ばし、二月の末にやっと通い始めることになる。湖北の冬は寒い。せめて山の雪が消えてからということだったのだろう。 #石田三成の青春
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