純白のフリルを贅沢にあしらわれたネグリジェ姿の少女、セレナは、どこか寝ぼけたような、きょとんとした顔で、辺りを見回していた。 胸元にはしっかりと羽毛の枕が抱きしめられている。 「……夢……で、しょうか」 夢の中で『夢だ』と気づくことは、稀ではない。が、しかし。
2015-02-10 22:07:45むにぃ、と頬をつねってみれば、うん、痛い。 「あの、すみません。どなたか、いらっしゃいませんか?」 氷柱を弾くような冷たく澄んだ声音が、真っ白な空間に、響く。
2015-02-10 22:07:47「……誰」 聞いた事の無い澄んだ声だ、というのが第一印象だ。知らず、表情は険しい物となる。 「…………何、此処」 ぐうるりと辺りを見回す。白い。ただ、白い。 「──誰?」 もう一度、澄んだ声に向かって飛ぶ、不遜極まりない怜悧な少女の声。
2015-02-10 22:12:39──同時に、もしかしてあの村から出る事が出来たのかという喜色が胸の内を満たした。 それが、表情に出る事は無いけれど。 腰まである金色を鬱陶しそうに払いながら、あくまでも不遜に。ディアドラは振る舞う。 身に着けた絹のネグリジェの上から、己を抱き締めるように腕を組んだ。
2015-02-10 22:12:42「あら、可愛らしいお嬢さんたち」 その真っ白な空虚の中へ、応えるように声が落ちる。純白の中に染料を落としたような、鮮烈な朱赤と緑がしゃなりと降り立つ。 「素敵な夢を見せてくれるのは、あなたたちね? あなたたちは、一体何を希むのかしら」 優しげに、穏やかに、微笑みを浮かべて。
2015-02-10 22:15:08「――悪魔」 溶け滲み出るようにその場に静かに佇んでいた。 聞こえた声を、復唱して呟いて。 何処か虚ろにも見える淵の瞳はくるりと広間を見渡した。
2015-02-10 22:18:16「わぁ」 気の抜けたような感嘆の声をあげる。 「夢の中で、こんなに知らない方が出てきたのは初めてな気がします。と言っても、見た夢はあんまり覚えていないタチなので、気のせいなのかもしれません」 未だ、これは自分の見ている夢だと思っているようで、とりとめのない独り言を零す。
2015-02-10 22:28:29「さて、夢とはいえ、すごく現実味のある面白い夢ですから、せっかくならどなたかに話掛けてみましょう。非常にわくわくしています」 思っていることを全て口に出しながら、最初に答えてくれた金色の髪の少女へ歩み寄り。
2015-02-10 22:30:22「初めまして、私はセレナです。白髪の巫女、セレニティ・ブライドと言えば、聞いたことはありますか?」 少なくとも、セレナの国の人間、という設定の夢の登場人物さんなのなら、知っているはずだと思いながら、わくわくと話しかけ。
2015-02-10 22:32:43聞こえた小さな呟きに振り返る。この白い夢の中で、聞き落とすということは、あるいはないのかもしれない。 「そうよ、悪魔。知っているかしら? 神に仇なすもの。人の願いを叶えて、堕落へと導くものよ、人間のお嬢さん」 視線の先には、海底に咲く花の色。炎とは違う、影を纏う朱い色。
2015-02-10 22:52:38どこかぼんやりとした表情を見て、緑の双眸を細めて笑う。まるで親しい友のように。あるいは姉のように、母のように。 「夢の中でまで、寝惚けているのかしら。かわいいのね」 ゆるり、腕を動かし胸の前で組み合わせれば、絹がさらりと音を立てた。
2015-02-10 22:52:41「……ハァ?」 柄悪い事この上ない。 「聞いたコトなんかある訳ないでしょ。誰? 偉いの?」 腕を組んだまま、ゆるりと息を吐いて白髪の少女を見た。──能天気そうな独り言にこめかみが引き攣るような感覚を覚える。 「──ディアドラ。ディアドラ・ハベトロットよ」 名乗り返し、逸らす視線。
2015-02-10 23:01:26「──で、じゃあその『悪魔』とやらが、わたしを攫ってくれた訳?」 鮮烈なまでの朱赤は、焔の如く。怯む事無く視線を向けて、ゆると首を傾けた。海色の双眸が、まるで睨むようである。
2015-02-10 23:01:29「ディアドラ、さん。不思議な名前ですね。それに私の名前を知らないということは、この国の方ではないのですね……」 相手が自分をうっとおしく思っていそうな素振りには気づく由も無いが、綺麗な空色の瞳が自分から逸れて炎の花を見やるなら、それ以上食い下がることは無く。
2015-02-10 23:08:50呟きに返るのは、先ほどと同じ声。 炎の様な鮮烈な色。 淵が緩くまばたく。 「堕落へ導く代償に、この願いが叶うのなら。それは、きっと神に似ているのでしょう」 ふわりと口の端に乗せた笑みも、どこか昏く。
2015-02-10 23:10:42「夢の中なら叶うのか。夢の中で無ければ敵わないのか。どちらなのでしょうね」 白い夢。登場人物は四人。まだ増えるのか、それも解らずに。 「申し訳ないけれど、これが私の普通だわ」 返事を返す。
2015-02-10 23:12:27そのまま、ディアドラの視線につられるように、炎の花のように美しい佇まいの女性へと、アイスブルーの瞳を向ける。 あくま……? そんなものは、神話か御伽噺にしか出てこない偶像だ。ああ、やっぱりこれは、夢なのだ。 皆の話に、静かに耳を傾けて。
2015-02-10 23:13:37- ──── ザ ァ … 雑音の訪れ 空間を駈けるよに 「 ── おやおや 此れは喜ばしい事だ 」 夢にも空気が有るなれば、 確かに震えた其れに乗り 男のものと思しき高さの 声が、響きたりけり。 蛇の這うよに 地のあるべき場を埋めんばかり 広がり始めるは、
2015-02-10 23:18:21「 なんとも、愛らしいお嬢さんばかりが 集まって居るじゃあないか? 」 仄か苦甘い香を引き連れて 一帯を ───銀 銀 銀の絲。 ただ一人 炎色と良く似た髪持ちし 悪魔の娘の足元だけを 避けるかのよに円描き── 其れは人間とは明白に 異なる気配の訪れ也。
2015-02-10 23:19:23- 人間[ヒト]によりては、 何者かが個の領域へと踏み込まんとする『不快』を覚えるやも知れぬ輪郭と色で以って 絲と等しき ── 髪と等しき しろがねの霞、 集い行きて姿を束ね行く。 「 御機嫌よう、可憐な者達 」 土塊色のかんばせが 濡れた緑が 微笑みた。
2015-02-10 23:20:59「わっ、あ、わ、わわあっ!」 空気が震え、男の声が聞こえたと思えば、意思を持つ生き物のように辺りを埋め尽くし這い回る銀の糸、糸、糸の群れに、足をもつれさせながら。 「わ……わかめ……」 驚愕に満ちた声で、それだけを絞り出す。
2015-02-10 23:25:28「何だここは」 いつの間にか何もない真白の空間に、昼間と同じスーツ姿で彼は立っていた。 眉間に深い皺を刻んだままぐるりと見渡す。 いつものように、いや、いつもとほんの少し違うやり方で眠ったはずだったが、少なくともスーツで眠る主義ではない。 皺になるのは彼の主義に反するからだ。
2015-02-10 23:32:07ぐるり、見渡して映るいくつかの人影と、声。 しかめっ面を崩さず男は吐き捨てるように言う。 「こんな不味そうなワカメが存在してたまるか。銀色だぞ銀色。私は決して認めん」 すたすたと髪の毛の海を容赦なく踏みつけて男は歩いて人の輪へ近づく。 「先程、悪魔だと聞こえたが、それは本当か」
2015-02-10 23:34:18「 僕は深海より這い出でし古の者共の仲間ではないけど─── 嗚呼、嗚呼、踏まないでおくれね。 結構ね、 痛いんだ 」 嗚呼、 増えたのは───男声か。 「 ほら、其処のご年配も 歩く際は気を付けて欲し痛い痛いよ止めておくれよそうだよ悪魔だよ 」 抗議を叫びけり。
2015-02-10 23:37:20