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「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」 #1

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
ニンジャスレイヤー
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Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」 #1
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「断る」ニンジャスレイヤーは、マッチャを前にして静かに言った。「ナンシー=サン、おぬしの言葉に、随分と踊らされてしまったようだ」 十二畳の茶室に、油断ならない空気が張り詰める。青いキモノを纏ったナンシーは目を落とし、バドミントンシャトル状の器具で静かにマッチャをかき回していた。
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茶室の中央には囲炉裏とチャガマがあり、墨が燃えている。四方の鴨居にはムードのあるチョウチンが下げられ、「#NS_GOKUHI」と横書きされたショドーが漆塗りの額に入って飾られている。 この幽玄なる会議室で、ニンジャスレイヤーとナンシー・リーの二人はチャガマを挟み正座しているのだ。
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「夜中の0時です」と、コケシ箪笥の上にある黄金ブッダ像が冷笑的な電子音声を発した。ナンシーのマッチャ音も消え、辺りを不穏な沈黙が支配する。ナムアミダブツ! 一触即発の気配!  「それは誤解だわ」ナンシーがようやく口を開く。ニンジャスレイヤーの出方を窺いながらマッチャを軽く啜る。
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「あれもこれも、結局はタケウチ・ウィルスの特効薬には結びつかなかった。おぬしは、ジャーナリストとしての好奇心を満たすために、俺をいいように使っていたのでは?」ニンジャスレイヤーは恐ろしいほど無表情な声で問うた。 「違うわ、不運が続いたのよ」豪胆なナンシーは、皮肉めいた笑みを返す。
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「タケウチ・ウィルスの情報は、ヨロシサン製薬が持つ秘密の中でもトップレベルに位置するわ」とナンシー。「でも今度こそは間違いない。ヨロシサン第1プラントの中にこそ、その秘密が隠されている。それを解くカギが、私のハッキング能力と『タヌキ』。でも物理的に侵入するには、貴方の力が必要」
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「「「これも虚言か。あるいは…」」」ニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジは、暗いマンションの一室で湿ったタタミに座り、UNIX画面の前で沈思黙考していた。重金属酸性雨の雨音が窓から忍び込んでくる。茶室に座っていた彼は、IRC空間内のコトダマ・イメージであり、彼自身には見えない。
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「もう手を貸さぬと言えば?」 タツジン! 0コンマ5秒! フジキドの指先が、精密スシ・マシーンのような無慈悲さでキーをタイプする! 「デッド・エンドよ。私もこれ以上の情報は手に入らず、あなたもタケウチ・ウィルスの特効薬は永遠に手に入らない」 コワイ! 0コンマ1秒以下の世界!
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ニンジャスレイヤーは歯噛みした。やはりサイバースペース内で、この女と互角に渡り合うのは不利だ。 アンタイニンジャ・ウィルスに冒された師、ドラゴン・ゲンドーソーの顔が彼の脳裏をよぎる。冷静になれ。独力でヨロシサンへの電脳攻撃など不可能。やはり、ナンシーの言葉に従うしか道が無いのか。
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ニンジャであるフジキドも、スゴイ級ハッカー以上のタイプ速度を誇る。だが彼は、その体の一部さえも、サイバネ義体によって置換してはいない。無論、ナンシーのような電脳サイバー手術は受けてはおらず、ただプリミティヴな肉体の力だけで彼女と渡り合っている。サイバースペースでは明らかに不利だ。
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一方のナンシーはどうか。彼女はいずことも知れぬ暗い部屋でソファに座し、口を開けてよだれを垂らし、半ば白目を剥いていた。その体は、鯉の刺繍された青いキモノではなく、刺激的な黒の強化PVCレザー・キャットスーツに包まれている。サイドボードには、空になったザゼンドリンクの瓶が七本ほど。
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灯りといえば、チャブの上に置かれたモニタが発する薄緑色の光と、そこを猛烈な速度でスクロールし切り裂く白い文字列のみ。彫の深いナンシーの顔が、ユーレイのように照らされる。彼女の右耳の斜め後ろにはバイオLAN端子がインプラントされ、そこからUNIXへとLANケーブルが直結されていた。
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「そうね……私も手の内を明かすわ。第1プラント内には、私のジャーナリスト精神に誓って絶対に看過できない、ヨロシサン製薬の暗黒情報ファイルが存在するの。そして今度こそ間違いなく、同じ場所にタケウチ・ウィルスの特効薬も存在するわ! 手を組みましょう」 そのタイプ速度、もはや計測不能!
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違法電脳サイバネティック手術により、彼女は思考するのと同速度でIRCタイプが可能だ。そして、このLAN直結手術を受けた人間……全ネット人口の極一部……さらにその極一部の人間だけが、サイバースペース内にコトダマ・イメージを見る。そのイメージは、誰がプログラミングしたものでもない。
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彼女はまだ未熟であり、薬物の力が必要だ。ヨロシサン製薬が販売するザゼンドリンクは、過剰摂取によりトリップ効果を得られるため、ハッカー御用達の健康飲料として悪名高い。ザゼン成分とLAN直結によって全精神をIRC空間内に投射することにより、選ばれしハッカーたちは無限の地平を見るのだ。
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Ninja Slayer / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
四方を清楚なショウジ戸に囲まれた茶室には、再び沈黙が流れていた。ニンジャスレイヤーは正座したまま眉一つ動かさない。 ナンシーはブッダ時計を見た。0時5分。何とか今夜のうちに第1プラントへの潜入を果たしたい。入手した極秘パスワードは、いつ更新されるかわからないからだ。 ……その時!
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北のショウジ戸が不意に開き、黒尽くめのニンジャ装束に円環型サイバーサングラスという、異様な人影が姿を現した! ナムアミダブツ! 入室不可、発見不可の秘密茶室が、何の前触れも無くハッキングされてしまうとは! 「ドーモ、ダイダロスです。…お久しぶりですねワームども。観念してください」

コメント

オスツ🍣 @alohakun 2010-12-12 16:33:01
「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」 #2 http://togetter.com/li/78149
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