分水嶺の向こう側

水谷なっぱ @nappa_fake

「最近巷で連続殺人事件が発生している。ある日は新婚夫婦、ある日は子供が生まれたばかりの家族、ある日は会社に入社したばかりの新社会人。要するに幸せな人ばかりが狙われてるわけだ。余程不幸な人が犯人なんだろうか。そんなことをテレビでも言っていたけど」 #分水嶺の向こう側

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「連続殺人事件怖いね」『ね。でもわたし別に取り立てて幸せでもないから狙われることはないかなあ』「あなたの家庭環境複雑だものね。最近大丈夫？」『うん、最近いいストレス発散方法見つけたから元気だよ』「へえ？今度教えてね」『今度ね』 #分水嶺の向こう側

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仕事帰り、住宅街を歩いていると道路になにか光るものが落ちていた。「？」拾ってみるとペーパーナイフ。「これ…どっかで見たような？」ああ、そうだ。友人が会社に届いた封書を開けていたのと同じものだ。ふと、小さな声が耳に響いた。 #分水嶺の向こう側

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「悲鳴？」声のする方へ走ると、玄関の開いた一軒家があった。「どうしよう？入っていいのかな」しかし勝手に入るのもー「！？」さらに金切声。これはきっと緊急事態だ。慌てて警察に連絡する。電話中に家の中から聞こえてきたのは誰かの笑い声だった。 #分水嶺の向こう側

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結局それは連続殺人事件の続きだったらしい。しかし今までと殺し方が異なっていたそうだ。今までは絞殺してから全身を切り刻まれていたのが、今回は絞殺してから体中に穴をあけられていたらしい。どちらにせよむごい殺し方だ。しかもそれを笑いながら行っていたのだから。 #分水嶺の向こう側

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わたしはあの笑い声を聞いてしまった。そして今まで何人もの人を切り刻んだであろう凶器も拾ってしまった。勘違いであってほしいと思うけど、わたしの理性がそれを否定する。そうだよね。聞き間違い様がないよね。それにこれはこんなにも鋭利に研ぎ澄まされている。 #分水嶺の向こう側

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「ねえ、これあなたのだよね」『あ、それ！良かった、無くしたと思って探してたんだ』「これ、何に使ってたの？」『手紙開けたりとか』「本当にそれだけ？」『なにが言いたいの？』「声を聞いちゃったから」『あー、ばれちゃったか。じゃあしょうがないね』 #分水嶺の向こう側

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わたしが最期に見たのは満面の笑みだった。『あはははははははははははははーーー』彼女がわたしになにかするわけないと思い込んで、無策で挑んだのが敗因だろう。だってわたしだって別に取り立てて幸せってわけじゃないから、対象にならないと思ってたんだ。 #分水嶺の向こう側

水谷なっぱ @nappa_fake

『幸せな人の絶望しきった顔って興奮するよね？あと自分は絶対的に安全圏にいると思い込んでる人が一瞬で驚愕する顔とかさ。なんで自分だけは大丈夫って思えるんだろうね。そんな人いないのにね。あちら側とこちら側なんて紙一重なんだから、そうそう油断しちゃダメなのにね』 #分水嶺の向こう側