山本七平botまとめ/【唯一神と血縁/神に誓って転ぶ③】「組織」と「血縁(部族)」が分かれていない日本/擬制の血縁イデオロギー集団である日本の組織

山本七平・岸田秀の対談集『日本人と「日本病」について』/唯一神と血縁/神に誓って転ぶ/33頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【岸田】これは非常に困った問題ですね。 こちら側からあっちを見ると変だし、あちらからこっちを見ると変だ。 しかもいろいろな局面で摩擦を生じてくる。 【山本】なぜ、それぞれにこういう形になったか、ですね。<岸田秀との対談集『日本人と「日本病」について』

2015-01-27 10:39:04
山本七平bot @yamamoto7hei

②【山本】これは色々な分析が可能だろうと思うんですが、日本型の社会はやはり農耕社会の産物じゃないかと思うんです。 ただ、同じ農耕社会といっても、それが血縁型か否かで違いますが、一まずその問題をおけば、村落に住んでしょっちゅう話し合っていないと形のとれない社会なんでしょう。

2015-01-27 11:08:57
山本七平bot @yamamoto7hei

③【山本】一方、遊牧民には非常に古くから「宗教連合体制(アンフィクチオニ一)」というのがあったという仮説があるんですが、たいていは六部族とか十二部族が聖所を中心に一種の契約を結ぶんです。

2015-01-27 11:39:01
山本七平bot @yamamoto7hei

④【山本】なぜ六とか十二といった数になるかというと、一年のうちひと月当番とかふた月当番で聖所の管理に当たるからなんですね。 この種の遊牧民聖所の遺跡が中東には二カ所あるんです。 ナブルスに一つとアンマンに一つしか残っていないんですが、周囲に定住者がいた形跡が全くない。

2015-01-27 12:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤【山本】つまり年に一度なら一度、そこに集って契約をし、また散ってゆくわけです。 これを中心にして契約しているという以外、相互の部族が団結することができないわけです。 遊牧民の祭儀には、家畜を刀でたて真っ二つに割りましてね、その間を歩くのがあったんです。

2015-01-27 12:38:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥【山本】だから「契約を結ぶ」が「契約を切る(カラート・ペリート)」という言い方になる。 契約を破ったら、この通り共同制裁されていい という証なんです。 そういう祭儀が行われたと思われる正方形の聖所が山の中腹に発掘されています。

2015-01-27 13:08:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦【岸田】日本は、人種的にいえば多人種の混合、混血だそうですけれども、この狭い島国の中で一応同一民族であるという幻想は持っているわけで、その「血縁幻想」の中に住んでいると、この血縁から外れた神といったものを持ってくる必要性がなかったろうと思うんです。

2015-01-27 13:39:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧【山本】結局、彼らの社会では、聖所を中心とした契約みたいなものが「組織」であって、部族というのは「血縁」です。 その二つははっきり分かれていて別々の原則があるんだけれども、日本はこの二つが全然分かれない。

2015-01-27 14:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨【山本】だから、社会学者は日本は厳密な意味の血縁集団ではないと言いますよね。 「血縁イデオロギー集団」。 【岸田】日本では血縁が擬制なんですね。

2015-01-27 14:38:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩【山本】ええ、血縁原則に基づいている家族は現代の日本には一軒しかないんだそうで、それは皇室典範以降の天皇家ですね。 皇位継承順位が血縁順位できちんと決められていて、天皇家に養子にいって天皇になるということは絶対にできない。

2015-01-27 15:09:03
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪【岸田】だから、いわば血縁集団を超えたより大きな集団の組織をつくる場合に、日本では血縁を拡大解釈して擬制としての血縁をどんどん拡げていく訳で、アラブもユダヤもヨーロッパも、血縁は純粋な血縁としてそれは横へ置いといて、血縁と関係のない原理をもってきたという事なんですよね。

2015-01-27 15:39:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫【岸田】考えてみると、血縁というのは人間が生まれるとまず父親と母親がそばにいるという意味で、最初の基本的な人間関係なのであって、これを擬制として拡大してゆくのは…安易なんですね。 だからむしろ、あっちの方で、なぜそういう安易な方法をとらなかったのかという事に興味がありますね。

2015-01-27 16:08:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬【山本】そうですね。 聖所で契約を結ぶという形はおそろしく自覚的で、意志的ですよ。 そしてなんとしてもこの契約は守らねばならん。 それが旧約聖書資料の非常に古い層にある「祝福」と「呪い」の原則です。 契約を守れば神の祝福、破れば呪いです。

2015-01-27 16:39:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭【山本】それにひきかえ、日本の会社などは疑似血縁集団ですから、社規なんて誰も読まなくていい。 ただし会社は「共同体」ですから、社の名誉を汚したとなると辞めなくちゃならない。 機能集団だったらそんな必要はないんですけどね。

2015-01-27 17:08:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮【山本】だから、私は、日本に面白いものが一つあるというんです。それは痴漢。 【岸田】ほう。 【山本】痴漢というのは刑法上の罪にまでならないんですね。大体、説諭で帰されちゃう。 これももしも共同体に属していないはぐれ者だったら、初めから誰も問題にしないでしょう。

2015-01-27 17:38:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯【山本】しかし一流会社の部長だったら危うく免職ですよ。 共同体の名誉を汚したかどで共同体から勘当、追放される。 これは日本が地縁集団ではない証拠で、この場合も、団地の名誉を汚したといって、追い出されることはまずないですよ。

2015-01-27 18:08:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰【山本】日本の社会の終身雇用制は現実よりも一種のイデオロギーですが、これが機能するのも共同体への加入なればこそ終身なんでしてね。 これも外国では理解されにくいなあ。 終身雇用制という以上「終身雇用契約」があるんだろう、どんな契約を結ぶんですか、という質問が必ず出てくる。(笑)

2015-01-27 18:38:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑱【岸田】つまり日本というのは、あらゆる組織、あらゆる集団が、血縁を拡大した擬制血縁の原理で成り立っているわけですね。 【山本】ええ。陸軍がそうでしたね。

2015-01-27 19:08:57