『寄生獣』と利己的遺伝子とガイア理論の衰退の話

『寄生獣』のストーリーの変化は、遺伝子視点での進化理解によるガイア理論の衰退と、寄生のイメージの変化をそのまま取り込んでいるという話。いつかまとめてブログに載せたいけど、このままの可能性も。
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tkido @tkido

寄生獣のアニメはいまいちだけど、今を逃すと寄生獣とガイア理論(の衰退)と利己的遺伝子と話を書く機会が二度となくなるような気がするなあ。どうしよう、悩ましい。公私ともに全然暇ないんだが。

2015-02-23 19:51:55
tkido @tkido

大意中の大意はすでに一度書いたといえば書いたんだ。これで。>デビルマン・寄生獣・ネウロに共通する進化論へのまともな理解 中編 神は細部に宿り給う tkido.com/blog/493.html

2015-02-23 19:53:49
tkido @tkido

ただこれだけじゃ流石に不満なんだよね。本当はこの話もっと面白いんだ。

2015-02-23 19:55:35
tkido @tkido

寄生獣は、ストーリー展開の変化、作者にすら予想していなかった変化は、進化論のダーウィン以来最も重要な進展をそのまま取り込んでいる。ハミルトン革命とか血縁淘汰とか呼び方はどうでもいいが、要は遺伝子視点での進化の見方とそれに伴う生命と利他行動に対する人間のものの見方だ。

2015-02-23 20:00:33
tkido @tkido

前書いたように、寄生獣オープニングのモノローグと、パラサイトの設定は、まさしくガイア理論のとりわけトンデモなバージョンを連想させるもので、実際そこに着想を得たとしか考えられないものだ。

2015-02-23 20:02:32
tkido @tkido

要するに、地球(全体)の利益を守るための、地球(全体)に意思のようなものが存在するという発想。

2015-02-23 20:06:43
tkido @tkido

いま、それなりの教養のある「普通」の人が、ガイア理論のことを聞くと、どうしてこんなあからさまにアホなオカルトっぽいトンデモが、知的なはずの人々にまでもてはやされたのか不思議に思えるだろう。

2015-02-23 20:28:37
tkido @tkido

だがそれは後知恵というやつで、血縁淘汰の理解以前の生物学について知る必要がある。

2015-02-23 20:29:51
tkido @tkido

ダーウィンの進化論の時点では、DNAはもちろん遺伝の実際の仕組みは不明だった。メンデルの法則が再発見されるのさえダーウィンの没後だ。

2015-02-23 20:38:09
tkido @tkido

ダーウィン時点で進化論で説明できない(と思われていた)最大の問題は、たとえばハチのコロニーにおける働き蜂のような不妊カーストだ。

2015-02-23 22:01:52
tkido @tkido

自分で子を作らず、コロニーに尽くし、巣が危機にさらされると自殺攻撃を行う。こうした利他行動は、進化が子孫(の変異)を通じて起きるものだとしたら、進化できないではないか、というわけだ。

2015-02-23 22:02:53
tkido @tkido

しかし、進化できないのが問題だと考えること自体が、ある意味進化論になれきった人間の後知恵の見方とも言え、それ以前はこうしたことは集団の利益、あるいは種の利益、言ってみれば「みんなの未来」を守るため、と解釈されていた。

2015-02-23 22:08:11
tkido @tkido

他にもたとえば、鋭い牙を持つ狼が、腹を見せると降参するのも「種の利益」を守るためだとか、鳥が虫を食うことによって虫が増えすぎて森が禿げてなくなってしまうことを防ぐのだ、とかいう言い方も普通にされていたりした。

2015-02-23 22:11:05
tkido @tkido

抽象的な「種の利益」を守るために「他人」(姉妹同士であることは認識されていたが)のミツバチ同士が協力したり、森の秩序を保つために多種の生物が協力しあったりしているという(間違った)認識が普通だったのだ。

2015-02-23 22:14:27
tkido @tkido

そんな時代には、地球のために生物全体のバランスを保つための仕組み、というのがそれほど馬鹿げて見えなかったのは理解できよう。

2015-02-23 22:14:55
tkido @tkido

パラサイトが繁栄しすぎた種を食い殺す本能を持つが、自分の子孫を作らない、という設定は、いわば不妊カーストがなんらかの抽象的価値を守るためのものだと認識されていた時代のものだと言える。(ただ新一が「この世のもんじゃねーよ」とか反応してるのですでに現代に近い価値観が混ざってはいる。)

2015-02-23 22:21:12
tkido @tkido

さて、もし寄生獣1話掲載時点にタイムマシンで戻って、当時の人に「この作品は完結からずっとあとになっても大傑作として広く認知されており、改めてほぼ原作準拠のストーリーでアニメ化されたりしてますよ」と伝えたとしよう。

2015-02-23 22:24:04
tkido @tkido

当然、その人は冒頭モノローグの「みんなの未来を守らねば」と思った誰かについての話があって、何らかの決着がつけられただろう、と解釈するだろう。その結末を教えてくれないかと言うだろう。

2015-02-23 22:25:35
tkido @tkido

ところがご存じの通り、この「地球上の誰か」、素朴に解釈すればガイアの意思とでも言うべき存在については、1話以降最後までまったく触れられない。そんなモノローグは最初から存在しなかったのごとく、ふっつり消えてしまう。そんな作品が傑作とされるなんて普通あり得るか。

2015-02-23 22:28:37
tkido @tkido

それがあり得るんだ。なぜあり得たか。この作品の連載とほぼ平行して(もちろん時代精神的な大雑把な意味でだが)、まさにこのガイア幻想は、ふっつり消えたんだ、そんなものは最初っから存在しなかったのだと。

2015-02-23 22:31:44
tkido @tkido

そのガイア幻想を消し去った最も重要な要素こそ、作中で田村玲子が聴講している利己的遺伝子の理解と、利他行為(≒共生)およびその逆たる捕食・寄生に対する解釈の変化だ。

2015-02-23 22:37:38
tkido @tkido

利他行為≒共生(そしていわば共生の拡大解釈の極限がガイア理論)が謎だった時代には、共生は善いことで、寄生は悪いことだと思われていた。

2015-02-23 22:51:57
tkido @tkido

たとえばアリやハチは集団で協力する働き者の進化した善い生物で、たとえば寄生虫というのは、他者を利用する怠け者の退化した悪い生物であるというわけだ。特に後者は福祉に頼る貧乏人は社会の寄生虫であるというアナロジーとなり重大な影響を及ぼしたが、今回その話はしない。

2015-02-23 22:57:32
tkido @tkido

言うまでもなく、これらは人間視点での擬人化でしかないわけだが、「擬人化でしかない」と切って捨てられるのは、「では本当は何なのか」ということをすでに後知恵として持っているからだ。

2015-02-23 23:02:11
tkido @tkido

遺伝子視点での進化の見方は、利他行為の謎を完全に解いた。不妊カーストは不思議でも何でもなくなった。個体に利他行為(に見える行為)を取らせる遺伝子は、その遺伝子を共有する血縁を通して子孫に伝わる。

2015-02-23 23:05:48