『寄生獣』と利己的遺伝子とガイア理論の衰退の話

『寄生獣』のストーリーの変化は、遺伝子視点での進化理解によるガイア理論の衰退と、寄生のイメージの変化をそのまま取り込んでいるという話。いつかまとめてブログに載せたいけど、このままの可能性も。
コミック ガイア理論 寄生獣 進化 利己的遺伝子 岩明均 アニメ
108
tkido @tkido
寄生獣のアニメはいまいちだけど、今を逃すと寄生獣とガイア理論(の衰退)と利己的遺伝子と話を書く機会が二度となくなるような気がするなあ。どうしよう、悩ましい。公私ともに全然暇ないんだが。
tkido @tkido
大意中の大意はすでに一度書いたといえば書いたんだ。これで。>デビルマン・寄生獣・ネウロに共通する進化論へのまともな理解 中編 神は細部に宿り給う tkido.com/blog/493.html
tkido @tkido
ただこれだけじゃ流石に不満なんだよね。本当はこの話もっと面白いんだ。
tkido @tkido
寄生獣は、ストーリー展開の変化、作者にすら予想していなかった変化は、進化論のダーウィン以来最も重要な進展をそのまま取り込んでいる。ハミルトン革命とか血縁淘汰とか呼び方はどうでもいいが、要は遺伝子視点での進化の見方とそれに伴う生命と利他行動に対する人間のものの見方だ。
tkido @tkido
前書いたように、寄生獣オープニングのモノローグと、パラサイトの設定は、まさしくガイア理論のとりわけトンデモなバージョンを連想させるもので、実際そこに着想を得たとしか考えられないものだ。
tkido @tkido
要するに、地球(全体)の利益を守るための、地球(全体)に意思のようなものが存在するという発想。
tkido @tkido
いま、それなりの教養のある「普通」の人が、ガイア理論のことを聞くと、どうしてこんなあからさまにアホなオカルトっぽいトンデモが、知的なはずの人々にまでもてはやされたのか不思議に思えるだろう。
tkido @tkido
だがそれは後知恵というやつで、血縁淘汰の理解以前の生物学について知る必要がある。
tkido @tkido
ダーウィンの進化論の時点では、DNAはもちろん遺伝の実際の仕組みは不明だった。メンデルの法則が再発見されるのさえダーウィンの没後だ。
tkido @tkido
ダーウィン時点で進化論で説明できない(と思われていた)最大の問題は、たとえばハチのコロニーにおける働き蜂のような不妊カーストだ。
tkido @tkido
自分で子を作らず、コロニーに尽くし、巣が危機にさらされると自殺攻撃を行う。こうした利他行動は、進化が子孫(の変異)を通じて起きるものだとしたら、進化できないではないか、というわけだ。
tkido @tkido
しかし、進化できないのが問題だと考えること自体が、ある意味進化論になれきった人間の後知恵の見方とも言え、それ以前はこうしたことは集団の利益、あるいは種の利益、言ってみれば「みんなの未来」を守るため、と解釈されていた。
tkido @tkido
他にもたとえば、鋭い牙を持つ狼が、腹を見せると降参するのも「種の利益」を守るためだとか、鳥が虫を食うことによって虫が増えすぎて森が禿げてなくなってしまうことを防ぐのだ、とかいう言い方も普通にされていたりした。
tkido @tkido
抽象的な「種の利益」を守るために「他人」(姉妹同士であることは認識されていたが)のミツバチ同士が協力したり、森の秩序を保つために多種の生物が協力しあったりしているという(間違った)認識が普通だったのだ。
tkido @tkido
そんな時代には、地球のために生物全体のバランスを保つための仕組み、というのがそれほど馬鹿げて見えなかったのは理解できよう。
tkido @tkido
パラサイトが繁栄しすぎた種を食い殺す本能を持つが、自分の子孫を作らない、という設定は、いわば不妊カーストがなんらかの抽象的価値を守るためのものだと認識されていた時代のものだと言える。(ただ新一が「この世のもんじゃねーよ」とか反応してるのですでに現代に近い価値観が混ざってはいる。)
tkido @tkido
さて、もし寄生獣1話掲載時点にタイムマシンで戻って、当時の人に「この作品は完結からずっとあとになっても大傑作として広く認知されており、改めてほぼ原作準拠のストーリーでアニメ化されたりしてますよ」と伝えたとしよう。
tkido @tkido
当然、その人は冒頭モノローグの「みんなの未来を守らねば」と思った誰かについての話があって、何らかの決着がつけられただろう、と解釈するだろう。その結末を教えてくれないかと言うだろう。
tkido @tkido
ところがご存じの通り、この「地球上の誰か」、素朴に解釈すればガイアの意思とでも言うべき存在については、1話以降最後までまったく触れられない。そんなモノローグは最初から存在しなかったのごとく、ふっつり消えてしまう。そんな作品が傑作とされるなんて普通あり得るか。
tkido @tkido
それがあり得るんだ。なぜあり得たか。この作品の連載とほぼ平行して(もちろん時代精神的な大雑把な意味でだが)、まさにこのガイア幻想は、ふっつり消えたんだ、そんなものは最初っから存在しなかったのだと。
tkido @tkido
そのガイア幻想を消し去った最も重要な要素こそ、作中で田村玲子が聴講している利己的遺伝子の理解と、利他行為(≒共生)およびその逆たる捕食・寄生に対する解釈の変化だ。
tkido @tkido
利他行為≒共生(そしていわば共生の拡大解釈の極限がガイア理論)が謎だった時代には、共生は善いことで、寄生は悪いことだと思われていた。
tkido @tkido
たとえばアリやハチは集団で協力する働き者の進化した善い生物で、たとえば寄生虫というのは、他者を利用する怠け者の退化した悪い生物であるというわけだ。特に後者は福祉に頼る貧乏人は社会の寄生虫であるというアナロジーとなり重大な影響を及ぼしたが、今回その話はしない。
tkido @tkido
言うまでもなく、これらは人間視点での擬人化でしかないわけだが、「擬人化でしかない」と切って捨てられるのは、「では本当は何なのか」ということをすでに後知恵として持っているからだ。
tkido @tkido
遺伝子視点での進化の見方は、利他行為の謎を完全に解いた。不妊カーストは不思議でも何でもなくなった。個体に利他行為(に見える行為)を取らせる遺伝子は、その遺伝子を共有する血縁を通して子孫に伝わる。
残りを読む(30)

コメント

地下猫 @tikani_nemuru_M 2015年2月24日
「寄生獣」におけるガイア理論の体現者は、広川と後藤の両者なんじゃないかなあ。で、より理念的な側面を体現していた広川は途中退場とあいなったわけだよね。
地下猫 @tikani_nemuru_M 2015年2月24日
1984年の風の谷のナウシカにおける「王蟲」が、1990年の寄生獣においては広川=エロスと後藤=タナトスに分割されて登場し、最終的には後藤=王蟲のタナトス的側面が残り、それも滅ぼされた。というのが日本の大衆文化におけるガイア理論の盛衰ではないかと思いつき。
深井龍一郎 @rfukai 2015年2月24日
無生物にも人格を仮託して世界を解釈する神道が生き残っている本邦においては、ガイア理論は一周遅れてやってきたものの見方にしか見えなかったのではないかな。
言葉使い @tennteke 2015年2月24日
パラサイトで自我が目覚めた者からガイア理論の束縛から抜け出たんじゃないの?田村玲子が自分を殺しに来た三人に感激しているエピソードとか。市役所戦で殺されたパラサイトは全体の極わずかで、食い殺された人の数が減っていったって、共存といえば共存か?
お猿さん@轟驫麤 @mamachari3_Jpn 2015年2月24日
少年マガジンMMRあたりで定番だったネタ理論、生命潮流「100匹目のサル」もそろそろ忘却の彼方に。ザハヴィのハンディキャップ原理とかメイナードのシグナル理論とか懐かしいわ。
お猿さん@轟驫麤 @mamachari3_Jpn 2015年2月24日
(非常によろしくない比喩だけれど)日本人が鯨肉やめられないように、人肉食原理主義に染まった一部の過激パラサイトが一か所に集結してですね(薄い本書きたくなってきた)
Shouji Ebisawa @Ebi_floridus 2015年2月24日
ハチやアリなんかはコロニーひとまとめで1つの生物と見る場合もありますけれどね。
はるを待ちかねた人でなし @hallow_haruwo 2015年2月24日
てっきり不法投棄されたダイオキシン類が付いた鉄棒を利用する環境利用闘法のまとめかと、という冗談はおいといて連載当時ってガイア理論的オチが使い倒されたその先を色んな創作者が探っていた時期だった気がする。
七七四未満六四以上 @zy773 2015年2月24日
全くまとめと関係有りませんが、アニメは かなりの良作だと思っています。否定的な方も多いですが、私は肯定派です。◇丁寧に作られたアニメで面白いですよ。否定派の気持ちも理解は出来ますが、
あでのい@17歳女子高生 @adenoi_today 2015年2月25日
寄生獣の思想変遷を巡る言説として非常に面白い。ただ、ガイア理論のアレやコレやに関してはこういう話で良かったっけ?という違和感が結構残る。これはあくまで「世間で多く誤解されているガイア理論」の話ではなかろうか。そういうのを指して特に注釈も無く「ガイア理論」と呼ぶのはちょっとモヤる。
あでのい@17歳女子高生 @adenoi_today 2015年2月25日
あとこれは世代が違うから肌感覚がよう分からんのだけど、ドーキンスがヒットしたのって80年代じゃなかったっけか? 寄生獣の連載期間と世間のガイア理論衰退と利己的遺伝子への理解って本当に同期してたの?というのも少し疑問が残る。そもそもガイア理論提唱者のラブロックと利己的遺伝子のドーキンスって、日本だと出版されたのラブロックの方が後だぞ。
あでのい@17歳女子高生 @adenoi_today 2015年2月25日
基本的には寄生獣評として凄い面白かったのだけど、そこら辺がひっかかったのでちょっとコメント残しとく。
tkido @tkido 2015年2月25日
>地下猫さん 広川はこの観点ではあまり特筆すべきことないから省いちゃった。
tkido @tkido 2015年2月25日
>深井龍一郎@反省中@rfukai うんそこ重要だと思う。寄生獣と関係ないんで言わなかったけど。 日本の実感とは合わないという感想多いのはある意味当然で、 そのせいもあると思う。
tkido @tkido 2015年2月25日
>Shouji Ebisawaさん 超個体の話は進化論やグループ淘汰メインの話なら避けられないけど今回はパス。 未だにE.O.ウィルソンほどの人さえ引っかかるほど微妙な話だし。
tkido @tkido 2015年2月25日
>あでのいさん 最初に「とりわけトンデモなバージョン」と断ってるし、 「ガイア幻想」と呼び分けたり配慮はしたつもりだが、 それでは足りなかったかな。すまん。
tkido @tkido 2015年2月25日
>あでのいさん 後半は他で答えたのとほぼ同様。単純な時系列の話をしているのではないし、 日本はタイムラグもあるしバックボーンも違う例外的な環境だから 実感とずれるのはむしろ当然。そうでなかったらそもそも 寄生獣みたいな作品も生まれなかっただろうと思う。
堀石 廉 (石華工匠) @Holyithylene 2015年2月25日
わりと普遍的に思われる「個体の人間以外に意思を見出したい」という願望にも、やっぱり進化上の理由があるんですかねえ
前橋和弥/ポインタ完全制覇改訂版発売! @kmaebashi 2015年2月26日
エヴァと同程度には「間違った進化」なのだろうしガイア理論もラブロックもバイネームで出てくるしおまけに右手が変形するけど、ARMSは名作だよ!!
tkido @tkido 2015年2月26日
>堀石 廉@Holyithyleneさん むっちゃあると思う。全然別の話になるけどこっちに近い。 http://tkido.com/blog/741.html
tkido @tkido 2015年2月26日
>前橋和弥@kmaebashiさん わかるARMS大好き。中二病なとこも。謎の最強親父&お袋とか。キース・ホワイト好きです。たまに大ボケかましたりするところとか。 https://twitter.com/tkido/status/73956557884370945
ITDOREIKUN @wtpgjmwtpgjm 2015年3月2日
一人称を わたし/われわれ/ガイア にするのがガイア理論でしたっけ?
ジョエーウ @joejoeu 2015年5月22日
時系列の話だと最初の邦訳タイトルが1980年出版『生物=生存機械論』。1989年第二版の時に改題し『利己的な遺伝子』として出版されているようです。また竹内久美子の「そんな馬鹿な!」は1991年ですから、キャッチーなものとして世相を変え始めたのは90年代だと私も感じます。
海老 @evil_empire1982 2015年6月25日
ダーウィン自身の記述の中に既に包括適応度(あるいはそれと数理的に等価なマルチレベル淘汰)理論っぽいものが含まれているという指摘があったな
haraitashingo @haraitashingo 2015年6月25日
木戸さんのガイア教天使クジラのやつも面白いから未読の人はオススメだ
ログインして広告を非表示にする
ログインして広告を非表示にする