山本七平botまとめ/【教えて治に至る/温和なる国の困惑①】新井白石が宣教師シドチを幽閉した理由/日本の秩序の根本に抵触するキリシタンの危険性を見抜いていた新井白石
- yamamoto7hei
- 2437
- 14
- 0
- 2
①【温和なる国の困惑】【山本】それと不思議なのは、イスラムでもローマでもヨーロッパでもそうですが、ある土地を平定したとなると、徴税権を手にする訳ですよ。 あの当時は徴税請負制ですから、どこかの国をとったら政府が徴税権を入札にする。<岸田秀との対談集『日本人と「日本病」について』
2015-01-30 17:39:01②【山本】落札した者は、行って苛斂誅求を極める訳です。 日本ではこの徹底性はない。 また敗戦国の人間を全部奴隷に売っちまうという事もない。 【岸田】秀吉が九州を平定したといっても、九州の大名が彼に心服したというに過ぎず、九州の大名の家臣は別に秀吉に忠義を誓う訳じゃないですね。
2015-01-30 18:08:58③【岸田】常にすぐ上の存在に忠誠を誓ってる訳で飛び越えて上に行く事はしない。 【山本】飛び越えて上に行ってはいけないという事を新井白石(1657~1725、江戸中期の学者・政治家)は言っているんですね。 キリシタンがなぜ悪いかというと、個人が直接、神と契約を結ぶからである、と。
2015-01-30 18:38:58④【山本】潜入してきた宣教師のヨワン・バッティスタ・シローテことシドチを尋問しながら、白石は相手をも相当尊敬してるんですね、 「彼もまた士ならずや」と言っている。 このシドチが、自分をなぜこんな所に幽閉しておくのかと聞くわけです。
2015-01-30 19:08:55⑤【山本】自分は日本の法律を破るつもりはない――日本は法治国家のつもりですからね――教えを広めるだけである、 教えを広めた結果、日本国の法律に違反する行為をする人間が出できたら、あなた方は絶対の権力を持っているのだから、その時処罰すればよかろう、 というんですね。
2015-01-30 19:39:02⑥【山本】これに対して白石は、 日本には法律がないのだ と答えるんです。 日本という国は「教えて治に至る」、だんだん教育していって、最終的に一つの秩序をつくっている国なのだから、教えるという根本にさわられるのは困るんだ、と。 これがまず一つですね。
2015-01-30 20:08:59⑦【山本】更にまたシドチが反論して、中国もシャムもキリシタンを禁じていない。なぜ日本だけが禁ずるか、と。 白石がシドチに中国をどう思う、日本人とどう違うと思うかと反問する訳です。 「中国は方(けた)にして渋れる国」 「日本は円(まどか)にして温和なる国」 とシドチが答える。
2015-01-30 20:38:57⑧【山本】その通りだ、だから困るのだ と白石が言うんですね。 日本人は温和にしてまどかだから、絶対主義的なものがくると抵抗の方法がない。 たちまち派を分かち宗教集団ができて相争うであろう。 日本においては全てあやふやであらねばならない、 だから、キリシタンは困る。
2015-01-30 21:08:56⑨【山本】その次にあげる理由が、直接神を拝するからいけない、と。 儒教においても天を拝するということはあるけれども、天を拝していいのは皇帝だけだと言ってるんですね。 諸公は皇帝を拝すること即ち天を拝する所以であり、家臣は諸公を拝すること即ち天を拝する所以である、と。
2015-01-30 21:39:03⑩【山本】つまり、すぐ一つ上を拝するんだというんです。 妻は夫を拝すること即ち天を拝する所以なり。 こうして順々に階層的になって日本の秩序はできている。 キリシタンはイスラムと同じで、個人が直接天を拝する。 すると、その人間にとっては天が二つできる。
2015-01-30 22:08:59⑪【山本】忠臣、二君に仕えずというけれども、自分のすぐ上の天と、本当に天に仕えるという形で二君に仕える結果になってしまう。 貞女、二夫にまみえず、が二夫にまみえちゃう。 こういう形にはしたくないんだ、と。 だいたいそれが三つの理由ですね。
2015-01-30 22:39:00⑫【岸田】なるほど。新井白石の日本という国についての自己分析の鋭さがすごいですね。 【山本】本当にすごいです。 いま考えてみても、なるほど、これは困るわい、と思いますね。(笑)
2015-01-30 23:09:00⑬【山本】ジゼッぺ・キアラこと岡本三右衛門という転びキリシタンがおりまして、これが幕府のキリシタン顧問をしていたんですね。 『三右衛門筆記』という記録を残しています。 現在は原本がなく、要約しかないんですが、これを白石はよく読んで勉強していたらしいんです。
2015-01-30 23:39:01⑭【山本】何よりもまず 「汝思いを尽くし、精神を尽くし、心を尽くして、主なる汝の神を愛すべし」 という一説があることを彼は知っていた。 これなど白石は大いに困ったでしょう。
2015-01-31 08:08:59