神野正史『世界史劇場 イスラーム世界の起源』にある無明時代の記述の問題点

神野正史氏の入門書(「はじめに」を読むとそう意図されているらしい)『世界史劇場 イスラーム世界の起源』において、いささか問題のある記述が冒頭から出てきたのでツッコミを入れておきます。わかりやすさという面では必ずしも悪い本ではないとは思いますが、この他にも事実誤認が散見され、取り扱いには注意を要するように思います。
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ジャーヒズさんちの司書 @palmofcordoba

『世界史劇場 イスラーム世界の起源』であるが、「はじめに」で無知や偏見を戒めておきながら初っ端から「無明時代の多神教徒は全員問答無用で地獄行きという独善的な考え方を持っている」とか偏見煽りまくりなのはどうなんですかね???

2015-03-02 11:56:45
ジャーヒズさんちの司書 @palmofcordoba

ムスリムがそういう考え方を持っている、という記述ね

2015-03-02 11:57:46

誤解を招きかねない書き方だったので正確に引用しておきます。
「イスラームの歴史では、イスラーム成立以前の歴史のことを、「ジャーヒリーヤ」と呼んで蔑み、イスラーム以降の時代とは明確に区別しています。
「光」そのものたるアッラーが存在しない暗い時代。
「多神を信じ、唯一神アッラーを信じていなかったため、一人残らず地獄に落ちている暗黒の時代」と考えます。
しかし、そういう発想が我々には独善的で不快に感じられます。
そもそも、イスラームがまだ存在していなかった時代、「ムスリム」になりたくてもなりようもないわけで。
それでもなお「地獄行き」なのか、と。
もちろん、イスラームの答えは、問答無用で「地獄行き」です」(p.17)

ジャーヒズさんちの司書 @palmofcordoba

スンナ派二大神学派の一つ、アシュアリー神学派では「中間時の民」(預言者が現れていない時期の民)は、正しい信仰を知りようがなく、したがって責任能力がないため無条件に救済される、という説が有力説だったはず

2015-03-02 12:02:36
ジャーヒズさんちの司書 @palmofcordoba

クルアーン17章15節「我らが罰を下す場合には必ず前もって使徒を遣わして(警告を与える)ことにしてある」(井筒訳より引用)

2015-03-02 12:07:01
ジャーヒズさんちの司書 @palmofcordoba

一方、もうひとつのマウトリーディー神学派では、人間に理性が存在する以上造物者への信仰へはたどり着き得るはずであり(このあたりの「理性の重視」がアシュアリー神学派よりムウタズィラ神学派に近く、面白いところではある)、少なくとも造物者への信仰は救済への必須条件とされる

2015-03-02 12:22:04
ジャーヒズさんちの司書 @palmofcordoba

ただこれは別にユダヤ教徒であれキリスト教徒であれ(場合によっては別の一神教であれ)かまわないということでもある。要は、彼らはイスラーム法を順守せず、イスラームの信仰も知らず、という状態であれただ茫漠と造物者を信仰するだけで救われる

2015-03-02 12:25:17
ジャーヒズさんちの司書 @palmofcordoba

この説を取れば多神教徒は地獄行き、になるだろうが、無条件で何の留保もつけず入門書でああいうことを書いていい理由にはなるまい。

2015-03-02 12:30:37
ジャーヒズさんちの司書 @palmofcordoba

シーア派系の神学派でこの議論がどう解決されているのかは知らないので誰かご教授下さいm(_ _)m

2015-03-02 12:38:08