【詩小説・レッズ・エララ神話体系、ほうき星町シリーズ】「恋でも食ってろ、デブ」
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modernclothes24
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書店員リッテは太ってはいない。小柄な体躯の少女で、いつもエプロンを着ていて、そこそこの長さの髪をポニーテールにしている。若馬のような元気の良い毛並みは、それだけで彼女を象徴している。元気の少女である……はずだった。その彼女が、どうにも最近調子がおかしい、と自覚している。1
2015-03-02 21:49:44
小さなアパルトメントの寝床から出て、さあ今日も頑張りますか、と、椅子に引っ掛けられたジーンズを手にとって、するすると履く。「……?」しかし、ちょっと止まる。ぐいぐい。ぐいぐい。……なんということだ。サイズが合っていないではないか。無理に着ることも可能だが、多少くるしい。2
2015-03-02 21:51:16
それでも、これまで普通に着ていた彼女のワードローブだ。ピン・ピン、と、おなかのボタンが、ボタンかけのところをはじく。こら、しまりなさい。そんな格闘をする少女リッテ。――ああ!日常の一幕! 平和の示し! その情景はどことなくユーモラスで、おだやかな微笑を投げてしまいそう。3
2015-03-02 21:53:44
ここのところ不摂生が続いていたというのも事実だ。ちょうど店内大改装で、彼女はさまざまな力仕事、事務仕事に忙殺していた。あのグータラ店主でさえも忙しくしていたのだから、彼女にくる負担たるや加重である。まるで太古の図書館に収められた粘土板が襲い掛かるかのよう。バタンズシンドズン。5
2015-03-02 21:55:41
「……それにしたって太りますかね?」とリッテは思う。忙しくしていたのなら、多少は減るのが道理であろう。そうでなくても、標準値と同じ値をたたき出すくらいは。「……なんでこうなっちゃったんだろう」。リッテはズボンを履けないまま下半身パンツ一丁で沈思黙考する。おなかが冷えそうだ。6
2015-03-02 21:57:23
部屋を見渡す。部屋……というか、本にまみれた正方形の倉庫。家具といったらタンスとベッドくらい。あとは本、本、本。うずたかく床から積まれた本は、まるで神殿の柱のようにそびえたっている。その上に、例えばパンの紙包みだとか、缶コーヒーの空き缶が置かれている。レディの部屋である。7
2015-03-02 21:59:16
とてもこれは、店長には見せられないなぁ、と思う。彼女自身は押し殺しているが、実は彼女の思い人。世捨て人のもと貴族、流麗な相貌に、「世界図書館」と言わんばかりの博覧強記を誇る貴公子。道楽息子。貴族をやめた貴族……いつの間にか、アタマのリソースがそっちにいっている。8
2015-03-02 22:00:54
いかんいかん、とリッテは思って、ズボンをどうにか見繕って、パンツ一丁からランクアップする。 しかし…… 何が悪いのだろう、今の生活は? と、リッテは漠然と思うのだった。もちろん、読者諸氏においては、回答は鼻をかむより明らかであるが。9
2015-03-02 22:02:14