鋼鉄の咆哮×艦隊これくしょんSS「超兵器の金剛4」

もう何も怖くない。
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さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

横須賀鎮守府、空は快晴。 第零遊撃艦隊は入渠していた長門と五十鈴が復帰したが、他にもちょっとした変化があった。 臨時メンバーだった大和と雪風が、暇を見つけては宿舎に顔を出すようになったのだ。 金剛をはじめ、ほかの艦娘たちもそれを特に気にする様子はなかった。(2) #超兵器の金剛4

2015-03-05 21:14:03
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

金剛が紅茶をふるまう人数が多くなったと笑いながら言うと、みんなもつられて笑い出すぐらい、宿舎の雰囲気は良い。 それは超兵器との戦いが、深海棲艦との戦い以上に熾烈で危険だったからだろう。 それが艦娘たちの間に元々あった絆や仲間意識をさらに強めたのだ。(3) #超兵器の金剛4

2015-03-05 21:17:34
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「こうしてゆっくりティータイムができるのはいいことデスが、やけに最近静かなのが気にかかりマスねー」 一口紅茶を飲みこんだ金剛が言った。 デュアルクレイター戦以降、超兵器はおろか深海棲艦の動きがぱったりと無くなっていたのだ。(4) #超兵器の金剛4

2015-03-05 21:19:46
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

第零遊撃艦隊はここ数か月の間情報を集めていたが、ノイズの観測はおろか深海棲艦の動きすらつかめずにいた。 だが、超兵器がいなくなったわけではない。 観測はできなくとも、その不愉快なノイズが、この世界のどこかで今も発せらせていることを彼女たちは感じている。(5) #超兵器の金剛4

2015-03-05 21:25:09
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「いま私たちにできるのは、超兵器の出現に対して万全の態勢でいること、か。言葉は良いが実際はただ待機しているだけとはな……歯がゆいな」 「仕方ないデスねー。今はティータイムを楽しみまショー」 金剛は一口一口を楽しむように、紅茶を少しずつ飲んでいく。(6) #超兵器の金剛4

2015-03-05 21:37:13
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「ウィーッス! 頼まれてたもの持ってきましたぜー」 ドアを破る勢いで乱暴に入ってきたのは、重巡の摩耶だった。 後ろから軽巡の龍田と天龍の姉妹もついてきており、三人は大きな段ボールを抱えていた。 「おお、摩耶サン。そこらへんに置いて大丈夫デスよー」(7) #超兵器の金剛4

2015-03-05 21:41:25
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

どさっ、と乱暴に置かれたダンボールの中には、古い主砲や一部が破損した艤装、その部品などが入っていた。 興味津々とばかりに大淀が覗きこむ。 「金剛さん、どうしたんですか? これ」 「いらなくなったものを提督に頼んで譲ってもらったネー」(8) #超兵器の金剛4

2015-03-05 21:44:24
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「わあ、12cm単装砲だ。今じゃこの鎮守府で誰も装備してない兵装ですよね?」 「こっちは7.7mm機銃だわ。本当に要らなくなったものばかりなのね」 「使えるものは再利用しないとネー。超兵器が来た時に装備が追いつかない、じゃシャレにならないカラ」(9) #超兵器の金剛4

2015-03-05 21:51:01
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「ふむ、それも前の世界の経験というものか?」 長門が聞くと、金剛の表情に少し影が落ちた。 「エエ……使えるものは使って、少しでも兵装を多く積んで、超兵器と死に物狂いで戦って……。だから、クセというか身体に染みついちゃったんデスよ」(10) #超兵器の金剛4

2015-03-05 21:53:48
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「わかります。金剛さんの言ってること」 強い口調でそう告げたのは吹雪だった。 「魚雷よりも早い戦艦や、潜水してくる戦艦がいるんです。それこそすべてに対応するにはいろいろ積むのが一番ですよね」 「イエス。前の世界では私一人で戦うことも多かったカラね」(11) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:08:05
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「まあ、何かあったらアタシらに気軽に声かけてくださいよ。なんでも力になりますから」 「ありがとうネ摩耶さん。今度何かお返ししますネー!」 摩耶は天龍と龍田を連れて、少し急ぎ足で宿舎を出て行った。(12) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:13:17
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

鎮守府の寮へ戻る摩耶は、ふと立ち止まって後ろを振り向いた。 天龍は怪訝そうな顔で摩耶を見つめ、龍田は首をかしげていた。 「なあ、二人とも。さっきの話、どう思った?」 「……は?」 「金剛さんたちの話だよ。超兵器の」 「どうしたんだよ姉御、急にそんな……」(13) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:18:24
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「アタシは、正直ブルっちまったよ」 二人は驚いた。 摩耶がまさかこんな弱気なことを言い出すなどと思わなかったのだ。 「思い出してみろよ。長門さんや五十鈴はボロボロになって帰ってきたし、この前は大和だって死にかけたらしいじゃねえか」 摩耶の拳は震えていた。(14) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:22:35
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「力になれる、なんて偉そうなこと行ったけどよ……アタシは怖くてたまんねえんだよ」 「ど、どうしちまったんだよ姉御! らしくもねえ!」 「そ、そうよ~。姉さんちょっと休みましょう。ね?」 摩耶はすでに泣いていた。大粒の滴が地面にぽたぽたと落ちていく。(15) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:26:42
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「でもよ……でも一番怖ェのはよ……超兵器が怖ェっつって私が戦えなくなることが一番怖ェッ!」 「姉御……」 「自分の中で押さえつけらんねぇんだよ……! 震えが止まらねぇんだ!」 叫ぶように声を吐き出す摩耶を、龍田が優しく抱き寄せた。(16) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:30:35
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

天龍はまっすぐ摩耶の目を見つめる。 矢のような視線で、射抜くように。 「大和が言ってた。戦った後は体の震えが止まらなかったって。雪風もいまだに夢に見ることがあるんだって。怖がることは、怖いことじゃねぇんだよ。いいんだ、怖くたって」 「天龍……」(18) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:35:22
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「俺だっていまだに怖ェさ。深海棲艦は斬っても斬っても次々に出てきやがる。俺たちの戦いに終わりはないのかって思うこともある。そしたらやってることが全部無駄なんじゃないかって、すっげー怖くなることがある。姉御と同じだよ」 摩耶は返す言葉が出てこなかった。(19) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:38:14
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

「だから姉御。怖くなったときは一緒に戦おうぜ」 「ええ。みんなで戦えばちょっとは、怖くなくなるかもしれないわ」 「天龍……龍田……すまねぇっ……! すまねぇっ!」 止まらぬ涙を袖でぬぐいながら、摩耶は弱弱しくも笑顔を浮かべた。 天龍と龍田も、泣いていた。(20) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:40:50
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

<<どこかの島、どこかの港>> がりがり、ぼりぼり、ばきばき。 皮を剥ぐ。 肉を斬る。 骨を砕く。 深海棲艦を適当に捕まえて、少女はそれらを力任せに解体していく。 息があろうとなかろうと、小さく小さく千切っていく。 「ンフフ~♪ ルンルンルン~♪」(21) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:44:19
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

少女は鼻歌を上機嫌に奏でながら、千切った肉をゆっくりと口へ運んでいく。 「アーン……ムグムグ。ウン、美味シイ!」 一口目で味が気に入ったのか、次からは食べるペースが速くなっていた。 山のようにあったそれらは、あっという間に食べつくされてしまった。(22) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:48:21
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

あとに残ったのは、破壊されつくした深海棲艦の基地と、焼け焦げた死骸のみ。 硝煙と燃料が燃える嫌な臭いが混ざり合って、あたりに充満していた。 「ウーン、マダ、足リナイナア……」 立ち上がり、周囲を見渡して、少女が呟く。(23) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:50:45
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

次の瞬間、背負っていた艤装が炎を噴き、少女を浮き上がらせた。 「横須賀ハ……アッチ、ダッタヨネェ♪」 ふわっと大きく浮き上がった後、少女はあっという間に上昇し、雲の中へ潜った。 「フフフ……艦娘モ……美味シイカナァ♪ ルンルルーン♪」(24) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:53:50
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

雲海から飛び出した巨大な飛行機雲が、空を一直線に貫いていった。(25) #超兵器の金剛4

2015-03-05 22:55:05
さのすけ @_SANOSUKE_SAN_

父島の対空レーダーがそれを捉えたのは、早朝のことだった。 巨大なノイズ反応とともに機影をとらえたのだ。 すぐ横須賀鎮守府に打電を送ったが、すべてを送信することはできなかった。 父島レーダーは、爆撃により完全に破壊されたからだ。(26) #超兵器の金剛4

2015-03-05 23:00:54