徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』(先行版)

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徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』#1
ガンジー&クーカイ

ろくせいらせん @dddrill

意外かもしれないけど、平和な世の中でも宗教の影響力は増す傾向がある。例えば江戸時代、お伊勢参りが社会現象となったみたいに。 多分、その時詣でた人々皆が、信心深かった訳じゃない。それでも、神仏はいつも人の心に寄り添ってきた。 ……だから、それは必然だったのかもしれない。1

2015-03-10 17:32:04
ろくせいらせん @dddrill

二百年前。人類は遂に、「功徳」からエネルギーを取り出すことに成功した。社会は改革され、やがて万人か徳の高い生活を送る理想郷が完成した。 ……だが、その理想郷は長くは続かなかった。「徳カリプス」。後にそう呼ばれることとなる大災禍によって、徳エネルギー文明は脆くも崩れ去った。2

2015-03-10 17:32:58
ろくせいらせん @dddrill

徳カリプスによって社会は大打撃を受け、徳エネルギー自体も激減した。でも、それでも人類は徳エネルギーを使い続けた。狭い世界の中で、徳を積みながら生きる者達。そして……自ら徳を生み出すことを諦めた者達。彼らは、過去の徳の残滓を漁り、命を繋ぐ。これはそんな、アウトロー達の物語。3

2015-03-10 17:42:29
ろくせいらせん @dddrill

「大当たりだぞ、ガンジー」「やったな、クーカイ」ハイタッチを交わす男が二人。彼等が廃寺を掘り返して見つけたもの……それは 「……本物のソクシンブツだ」「これで街のエネルギーも三ヶ月は安泰だ」彼等は手を取り合って喜ぶ。一体のソクシンブツから得られる徳エネルギーは膨大だ。4

2015-03-10 23:53:42
ろくせいらせん @dddrill

「……だけど、本当にいいのかな」何故、彼等がこのような罰当たり行為を行っているか。徳カリプス後の世界で生きるにも、徳エネルギーが必要だ。生み出せなければ、掘るしか無い。彼等は徳エネルギー採掘屋。 「大丈夫。大勢の命が生きていくためだ、この住職も、きっと喜んでくれる」5

2015-03-10 23:58:09
ろくせいらせん @dddrill

荒廃したこの世界で、徳を積み続けるには資質がいる。才ある者達は今日も徳を積み上げる。いつか、解脱に至るその日まで。だが、そうでない者達は? 「……まぁ慣れるもんじゃねぇがな」クーカイは続ける。彼等は、自ら徳を生み出すことを諦めた者達だ。生きるためには、徳を奪うしか無い。6

2015-03-11 00:03:57
ろくせいらせん @dddrill

「俺もお前も、こんな徳の高そうな名前もらっといて、こんな生き方してるんだ。罰なら、とっくに当たる筈さ」 「そう……かな」 『徳ネーム』……徳エネルギー社会で少しでも子弟の徳を高めようと、高僧や偉人の名前を付けることが流行った。例え徳に溢れた社会でも、人は縋らずにはいられない。7

2015-03-11 00:09:28
ろくせいらせん @dddrill

「行くぞ」「……うん」クーカイとガンジーは、寺を後にする。寺を漁れば、他にも仏像や金品があるだろう。だが、彼等は盗賊ではない。そんなことをすれば効率が悪いし、『徳が失われる』。彼等もまた、心のなかのブッダを完全に沈黙せしめた訳では無いのだ。8

2015-03-11 00:16:23
ろくせいらせん @dddrill

立ち去り際に、ガンジーはふと廃寺の庭を見た。そこには、恐らく見事な枯山水だったであろう、雑草だらけの岩と砂の山だけがあった。「……諸行無常、か」侘び寂びは解せずとも、それが嘗てのこの寺の住職の徳を偲ばせる。 尤も、彼等は航空写真からこの枯山水を発見し、寺に狙いを定めたのだが。9

2015-03-11 00:25:20
ろくせいらせん @dddrill

「出すぞ」「今行く」二人と即身仏を載せ、水素で走るバンは動き出す……今も危機に瀕している、彼等の街へ向けて。 「……なぁ」車中、ハンドルを握るクーカイにガンジーは尋ねる。「徳ってなんだろうな」「そんなもん、俺達にわかるわけねぇだろ」10

2015-03-11 00:29:14
ろくせいらせん @dddrill

「徳とは何か。それは徳エネルギーと切り離して語ることは最早できない。仏教のみならず、功徳に近い概念……『善行は報われる』という信仰は人類に普遍的なものだ。即ち、元来人類が形而上作用として持っていた功徳を、形而下に作用するようにしたもの……それが徳エネルギーの正体だ」11

2015-03-11 07:17:04
ろくせいらせん @dddrill

「だが、儂は後悔しいている!!特に『マニタービン』。あれさえ発明しなければ、徳カリプスの発生は……っ!」「おじいちゃん、興奮すると体に毒ですよ」興奮し、立ち上がる老人を諌める孫娘。12

2015-03-11 07:26:21
ろくせいらせん @dddrill

「……いつもすまんのぅ」互いの気遣い。実に美しく、徳の高い光景だ。だが今年齡80を数えるこの老人こそ、徳エネルギーの権威にしてチベット仏教の高僧、ラマ・ミラルパ20世である。13

2015-03-11 07:27:30
ろくせいらせん @dddrill

「爺さん、爺さん!」そこへ駆け寄るのは、クーカイとガンジー。「ソクシンブツを見つけてきた。これで三ヶ月は持つぞ!」「……そうか。良かった」「徳ジェネレーターを動かしてくれ。爺さんじゃないとダメなんだ」 だが、娘が割り込む。「クーカイさん、お爺ちゃんは疲れてるのよ」14

2015-03-11 07:39:12
ろくせいらせん @dddrill

「……わかったよ……しかし、爺さんくらい徳があれば、自給自足だってできるだろうに。有り難いのは確かだが、なんで採掘屋の街なんぞにいるんだか」「年寄りには、色々とあるんじゃよ。それに、自分のためにしか使わぬ徳は、錆び付く」「そうかい。ぽっくり成仏しないよう気を付けてくれ」15

2015-03-11 07:41:57
ろくせいらせん @dddrill

二人の若者が立ち去った後。「……徳カリプス。ポテンシャルとして蓄積された徳エネルギー雪崩による、集団解脱現象」老人は誰に聞かせるともなく呟く。彼が素性を隠してこのような場所に潜むのは、決して徳カリプスを引き起こした負い目のみによるものではない。16

2015-03-11 07:47:35
ろくせいらせん @dddrill

「人類は、行き詰まりつつあるのやもしれぬ。だが……それでも。『取り残された』1人として、あのやり方を許すわけには、いかぬ」老人……ミラルパ20世は、何事かを書き留め、机の中に仕舞う。彼に残された時間は少ない。だが、成仏するには未だ、早すぎる。17

2015-03-11 07:50:34
ろくせいらせん @dddrill

「……あの爺さんも謎が多いな」「そう言うな。あの爺さんが居るから、徳ジェネレータが動かせるんだ」老人と別れたガンジーとクーカイは、ささやかな祝杯を上げている。ソクシンブツ発見報酬が手に入る前の、前祝いだ。「でも、今回は危なかった」「……水素のストックも、もう少なかったからな」18

2015-03-11 22:51:45
ろくせいらせん @dddrill

内なる徳に見切りを付けた彼等は、徳エネルギーをそのまま扱うことはできない。徳ジェネレータで徳からエネルギーを取り出し、その熱でお湯を沸かして蒸気でマニタービンを回して発電する……或いは、エネルギーを使って水素を作り、それを利用する他ないのだ。19

2015-03-11 22:54:46
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