ニンジャ・サルベイション #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おう来たぞ来やがった、ブラッドバスだ!」「デスネー」「慣れねえな、何度見てもよ」「嘘つかないでください」「嘘もつきたくなるだろうが」「僕は実際慣れませんね……根が穏やかというか……痛てェ!」「アーアー、ドーモ。トコシマ・デッカーのシンゴと、タバタだ。通るぞ」「ご苦労様です!」1

2015-03-20 22:24:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

中年のデッカーと若いデッカーのコンビは、敬礼オジキ姿勢の制服マッポへのアイサツもそこそこに、「外して保持」のテープをくぐった。打ちっぱなしのコンクリートの壁といい、敷き詰められたタタミといい、血や損壊死体で凄惨な赤に染め上げられている。「ブラックチェリー・スシが食いたくなるぜ」2

2015-03-20 22:29:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これはひどいな」タバタは沈痛に呟いた。「何人だ、これは?」シンゴが現場マッポに尋ねた。「……確認中ですね」「そうか」シンゴは煙草を咥えた。「火あるか」「現場はやめときましょう」「まるでヤクザの事務所だな、しかし」シンゴは煙草を咥えたままぼやいた。カラテ・ドージョーなのだ。 3

2015-03-20 22:38:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まともな奴の犯行じゃないですよね」タバタは言った。「素手……」「ああ、そうな」シンゴは生返事をし、 ヒョイヒョイと無残な死骸を踏み越えてベランダに出た。ガラス戸は割られ、ベランダにも血の痕は凄まじい。「何かありますか」中からタバタが声をかけた。「アー……そうだな……」 4

2015-03-20 22:43:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ビョウビョウと風が吹き付け、シンゴのコートをはためかせた。このドージョーは雑居ビルの六階だ。「アカチャン……オッキクネ」「こんなに大集合!」「僕はもう、若さは取り戻さなくていい!」ネオン乱舞するネオサイタマの夜景。広告音声が混ざり合う。中年デッカーは眉間に皺寄せた。 5

2015-03-20 22:47:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これは……アレですよね?」タバタがベランダまでやって来て、囁いた。「N案件……」「そりゃあな」「どうします」「まだ決まったわけじゃねえ」答えながら、シンゴは離れた高層ビルの瓦屋根を見やった。赤黒い風は闇に溶ける。 6

2015-03-20 22:52:53
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「カイシャ爆発してよかったじゃねえか」キャリバーがユダカに笑いかけた。「踏ん切りもついてよ」「ああ……まあ、そうだな」ユダカは飲み干したミドリナムの瓶をポリバケツに投げ捨てた。「いや、そんな割り切れるかよ」爆発が起きたのはいつだろう。巻き込まれる可能性もあったか? 7

2015-03-20 23:01:14
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「エッ?マジで、君のカイシャなの?」ミカリは驚き、笑い出した。「ヤバイ」「さっきから言ってるよ」ユダカはぼやいた。「課長死んじゃったかな……シャレにならないな」「寝てから考えろ」キャリバーはレシートの裏にIRCアカウントを書いてユダカに渡した。「いつでも呼べよ」「ああ。俺も」 8

2015-03-20 23:09:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユダカは自分の分を渡した。キャリバーはユダカに拳を合わせた。「マジで連絡入れる。また昔みたいにやろうぜ。ユウジョウ」「ユウジョウ」「イヤーッ!」キャリバーはカラテじみたシャウトと共に、手すりを乗り越えて落下した。「オイ!」「またな」走り去るトラックの上でキャリバーが手を振った。9

2015-03-20 23:14:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「すごいね。君の友達」ミカリが走り去るトラックに手を振りながら言った。「いや……会ったの久し振りだけどさ、いくら何でも、あんなアクロバットは……」ユダカは唸った。「鍛えてるんだよ、きっと」ミカリが言った。「太陽眩しい」彼女は呟き、ユダカの手を握り直した。 10

2015-03-20 23:19:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……起き上がってデジタル表示を見れば実に9時間後、やや慌てて遮光カーテンを開くと、時計の表示に嘘はないと見え、ネオサイタマは真昼だった。「ヤバイ」言ってから、カイシャの爆発を思い出した。爆発したなら、行かなくてもいいか。いや、むしろ、愛社精神をアッピールすべく緊急出社か。11

2015-03-20 23:26:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

断片的にぶり返す昨日の記憶。社員証を課長に……。「オ、オ、」口を押さえてトイレを探し出し、「オゴーッ!」胃の中のものをすべて吐き出す。思考が多少クリアになる。脳がグラグラしている。顔を洗い、うがいを繰り返して部屋へ戻ると、ミカリが冷蔵庫から水のボトルを取り出し、手渡す。 12

2015-03-20 23:32:34
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「大丈夫?」「いや……夢じゃねえんだなって」「カイシャの爆発?」「そう」「私の名前覚えてないんじゃない?」「いや、ワカル。ミカリ=サン」「覚えてた」ミカリは笑い、洗面台で歯を磨き始めた。ユダカは心の中でカシイに……キャリバーに感謝した。少しバツが悪かった。 13

2015-03-20 23:36:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

IRC端末を手に取ると、キャリバーからのメッセージが残っている。(うまくやったか?ブロ)「ク、ソ、野、郎……」口に出して確認しながら返事を入力し、送信する。「君は予定無いのか、今日」「私もカイシャ、辞めてきたからね」ミカリが答えた。「そうなの?」「爆発はしてないよ。多分」 14

2015-03-20 23:43:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「この後どうする」「出よう。おカネ勿体無いし。お互い無職だよ」ミカリはデジタル表示を指差す。退廃ホテルは時間貸しだ。二人は真昼のネオサイタマに出、少し離れて路地を歩いた。「どこに住んでる」「カスガ」「奇遇。駅も同じだ」話しながら、ユダカは訝しんだ。ゆっくりついてくる車がある。15

2015-03-20 23:50:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

歩きながら、ユダカはミカリを手招きした。少しの間をおいて、彼女は近づいた。ユダカは囁いた。「後ろ。車」「え」「見ないで」ユダカはサスペンス映画のやり方に従った。「ついてきてるかも。見ないで、そのまま、エート、あの路地を左だ」「わかった」二人は裏路地に入った。車では狭すぎる。 16

2015-03-20 23:56:22
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「ええ……」歩きながら、ユダカは呻いた。壁に張り付いたミラー越し、停止した車から4,5人の男達が降りて来るのが見えた。ユダカはミカリを促し、走り出した。「エーッ!」走りながら、ミカリは笑った。「何笑ってんだよ」「だってこんなの、映画みたいだから」男達も走り出した。追って来る!17

2015-03-21 00:03:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

全くだな!走りながらユダカは心の中で同意する。カイシャの爆発なんて、そうそう経験できるものでもない。「私達のどっちに用があるんだろう」と、ミカリ。「まあ私じゃないよ。円満退社とはいかなかったけど、でも君ほどには……」「この際関係ない」ユダカは答えた。「どっちも、何かされる!」18

2015-03-21 00:09:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二人の目の前を、フェンスが遮る。フェンスには「遊んだらダメ」と書かれている。ユダカは数秒考え、手を組んで中腰になった。「ドーゾ」「映画みたい!トクシュブタイの!」ミカリは笑った。ユダカは路地を振り返りながら促した。「映画だ、映画だから早く!」「アイ、アイ」 19

2015-03-21 00:16:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ミカリはユダカの手を踏み台にした。ユダカは力を込め、ミカリを押し上げる。ミカリはフェンスにしがみつき乗り越える。ユダカは自力だ。「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」もはや追ってくる者たちはヤクザスラングを隠さない。コワイ!フェンスを越えた二人は駐車場を急いで横切る!20

2015-03-21 00:24:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヤバイヤバイ……!」ユダカはミカリの手を取り、走る速度を上げる。さすがにミカリはもう笑わなかった。「どこ、どこに、逃げる?」「撒いたら考え……」前方、駐車場の出入り口に、車が数台走り込んで来た。嫌な予感がした。すぐにそれが裏付けられる。車内から追っ手と似た連中が続々現れる。21

2015-03-21 00:28:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スッゾオラー!」スーツ姿の彼らは、サラリマンと考えるにはあまりに戦闘的なアトモスフィアだ。一斉にスーツの懐へ手を入れ、一斉に拳銃を抜いた。「マジかよ」ユダカは呟いた。背後ではフェンスがガシャガシャと音を立てる。追ってきた連中が乗り越えようとしているのだ。万事休すである! 22

2015-03-21 00:36:36