スパイスを探しに#1

冒険者の二人がスパイスを取りにあるダンジョンを訪れたときの話です。そこには不思議な老人がいて…… #2はこちら http://togetter.com/li/801267 #3はこちら http://togetter.com/li/807614 #4はこちら http://togetter.com/li/809985 この話は#4まで続きます
減衰世界
rikumo 545view 0コメント
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  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-20 21:13:40
    赤錆が浮いた鎧の騎士が草むらを歩いていた。しかし、ここは草原ではない。まるで草原に思えるほど下草が生えているが、ここはまるで坑道のように狭かった。天井も低く、鉄骨の梁がむき出しになっている。道の幅は狭く、2メートル程度だろうか。やはり鉄骨の柱がむき出しの岩壁だ。 1
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-20 21:15:59
    当然光など無いはずだが、この坑道は天井や床の岩壁が淡く発光していた。魔法がしみ込んで光っているのだ。赤錆の鎧の騎士……ミェルヒは、相方を探して坑道を歩いていた。先を進んでいたはずだが、目を離した隙に見失ってしまった。不意に目の前の草むらが盛り上がり、羽虫が飛び去る。 2
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-20 21:18:29
    「ミェルヒ、遅い! もっと速く歩けるでしょ!」 「エンジェ、君は何をしていたんだい」 ミェルヒは赤錆のバシネットの中で驚きの声を上げる。エンジェ……絵具で汚れた灰色のネズミ色・ボロボロ・ワンピースを着た若い娘は、得意げに足元で見つけた草を掲げる。 3
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-20 21:21:46
    「ねぇねぇ、これでしょ。例のスパイスって」 「いや、似てるけど違うよ」 ミェルヒは何故か剣を抜く。エンジェはびっくりして後ろを振り向く。そこには……巨大なカマキリがいた。2メートルの天井に届くかという背丈だ。甲殻は半透明になっており、先程まで擬態していたことがわかる。 4
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-20 21:24:00
    「動くなよ、エンジェ……こいつらは動く敵を捕まえる。じっとしてるんだ。動かないものに対してこいつらは鈍感だ」 ミェルヒは錆びたガントレットを操作する。すると、きらきら水色に光るシリンダーが姿を現した。「痺れろ!」 麻痺毒の魔法が射出され、カマキリを捉える! 5
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-20 21:28:49
    黄金色の稲妻がエンジェごとカマキリを貫いた。殺傷性は無い。痺れて草むらに沈むエンジェ。そして、麻痺してガタガタと鎌を揺らすカマキリ。半透明の甲殻がまだら色になり、チカチカノイズが走る。ミェルヒは油断なく歩み寄り、カマキリに剣を振り下ろした。カマキリの首が刎ね飛ばされる。 6
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-20 21:32:16
    「もう動いていいよ、エンジェ」 数分で、カマキリはバラバラに解体されてしまった。エンジェは踏みつぶされたカエルのような格好で痺れている。「うごげないー」 震える声で彼女は呻いていた。ミェルヒはバシネットのフェイスカバーを上げる。まだ若い、好青年の顔が覗いた。 7
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-20 21:35:44
    「よし、エンジェが元気になるまで休憩!」 ミェルヒはそう宣言して坑道の草むらに腰を下ろした。水筒を開けて水を飲む。香草で臭みを消した水は微かに苦い。勝手に飛び出して化け物を引きよせたことは特には叱らない。いつものことなのだ。エンジェは、ようやく痺れが取れて立ち上がった。8
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-20 21:38:55
    「ミェルヒずるい」 エンジェは愛らしい顔を不満げにしてじろりとミェルヒを見る。「何が?」 「魔法を使うのはわたしの役目なのに、いつもミェルヒが全部一人でやっちゃう」 ミェルヒは水筒の蓋を閉めてハハハと笑う。「エンジェは画家じゃないか。エンジェの役目は違うよ」 9
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-20 21:40:58
    「エンジェの役目は、僕の活躍をしっかりと記憶すること。そして、アトリエに帰ってその雄姿を絵画にすることじゃないか」 「そんなのつまらないよ」 エンジェは不服そうな顔で草むらに座った。「わたしだって活躍したいのに」 「エンジェ、君の夢は魔法使いの真似事で有名になることかい?」 10
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-20 21:43:29
    それを言われると、エンジェは黙ってしまう。ミェルヒはエンジェの手を握って言った。「エンジェの夢は叶うよ。有名な画家になるって言う夢。そのためには、寄り道なんかしてられないだろう? さぁ、行くよ」 そしてミェルヒは立ち上がった。エンジェも勇気づけられたようだ。 11
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-20 21:45:22
    「ごめんね、わたし、夢を忘れる所だった。わたし、立派な画家になる。そのためには、ミェルヒがかっこよければかっこいいほどいいんだもんね、イヒヒ!」 夢のことを考えると、エンジェは碧の瞳を陶酔させて、遠くを見つめるのだ。ミェルヒはエンジェのそんなところが愛おしかった。 12
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-20 21:49:53
    「さぁ行くよ! こうしちゃいられない。イヒヒ!」 またエンジェが駆け出す。ミェルヒはやれやれと言った感じで、彼女を追いかけた。 13
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-21 21:13:21
    エンジェとミェルヒは、二人組の冒険者だ。名声を求めて各地を旅していた。今回訪れたのは、寂れた農村の一つだった。この農村は過去に地域開発の名目で工業化が進められたことがあったが、計画は頓挫し、廃墟を残して再び寂れた農村に戻っていた。そんな場所だった。 14
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-21 21:16:30
    「地域活性、夢のスパイス工場ね……」 エンジェは坑道の岩壁に飾られた壁画の文字を読んだ。いまは、そのほとんどが苔で覆われて見えない。この坑道は珍しいスパイスを大量栽培するための工場だった。しかし、見ても分かる通り、いまや雑草と苔しか見ることはできない。 15
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-21 21:19:56
    エンジェは今回の任務を確認する。「で、暴走状態の工場から使えるだけのスパイスの種を拾ってこいって話だよね」 「ああ、特殊なスパイスで、種子に熱を加えないと発芽しない変わった植物なんだ。ここらへんのは雑草にやられて全滅だろうね。深層なら発芽させる設備が生きている」 16
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-21 21:23:15
    そう、このスパイス工場はまだ生きているのだ。ほとんどの機能を失っているとはいえ、自動化された工場はいまだにスパイスの栽培、収穫、加工を行っていた。そのため、村は冒険者を雇って深層まで潜らせ、スパイスを回収して売っていた。スパイスは高価で、雇用費用を引いてもおつりが来る。 17
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-21 21:26:20
    「どうしてこんな化け物の巣になっちゃったんだろう」 エンジェが疑問を口にする。ミェルヒは歩きながらそれに答えた。「なんでも、魔力集積装置が暴走して、魔力がたくさん漏れたらしいんだ。それ目当てに化け物があちこちから湧いてきて、手が付けられなくなって、逃げ出したってわけさ」 18
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-21 21:30:49
    「なるほど、それで私たちみたいな冒険者に頼んで、化け物を蹴散らして、スパイスを取りに行かせてるんだね」 エンジェは合点がいったようで、喜びながら背中の籠を揺らす。この籠一杯にスパイスの実が付いた草を詰められれば、かなりの金になる。しかし、ミェルヒは不満そうだ。 19
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-21 21:34:08
    「エンジェ、話を聞いていなかったのかい。最近、スパイスを取りに潜った冒険者が帰ってこないんだ。それで、僕たちに様子を見てこさせたんだ。スパイスは、臨時収入さ。スパイスに目がくらんで行方不明者になったら元も子も無いよ」 ミェルヒは草をかき分けながら進む。 20
  • 減衰世界 @decay_world 2015-03-21 21:39:07
    「ごめーん、私難しい話は長く覚えてられなくて……」 エンジェは言葉だけで謝りつつも、気にもしないそぶりで草をかき分けて進む。二人はこんな関係だ。エンジェは自由だし、ミェルヒはそんな自由なエンジェの足りない所を埋めていた。二人で組んでようやく一人前。そんなコンビだ。 21

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