Nitoro's Strange Show 『開封』
「御札ってあるだろ」 久しぶりに会ったNは、アイスコーヒーをストローで掻き混ぜながら、話を切り出した。 「神社で貰える様なヤツか?」 「神社で貰える様なヤツだ」 「それが?」 どうしたんだ、と少し冷めた口調で問うた。 「まぁ、何ともいえない話があってな」
2015-03-24 04:32:37アイスコーヒーを掻き混ぜながら、Nは話を続ける。 「立会いを頼まれたんだよ、人がいないから、とりあえず、部屋を見て欲しいって。俺ぁ、専門じゃないから、金貰ってもやらねぇって話だったんだけど、立ち会うだけで責任も何もないし、見るだけだからって」
2015-03-24 04:34:21「まぁ、見るだけなら、っつってその件の部屋へ行ったわけよ。まず、部屋の、入り口にな、ガラス戸があるんだけどな、そのガラスに貼ってあるわけよ」 「御札が」 「あぁ、でもな、難追、とかああいうのって、外に貼るんだよ。俺、初めて見たんだよ、戸の内側に、内向きに御札貼ってあるの」
2015-03-24 04:36:26「あー、って思いながら”これ、開けない方がいんじゃないですかね”ってやんわりと言ったんだけど、誰も中の状況を確かめてないからって、確かめないと、どうにもならないからって、人の意見を聞かないなら呼ぶなって思ったけど、向こうも仕事だし、まぁ俺は見るだけだから、待ってたよ、開けるのを」
2015-03-24 04:37:55「がちゃ、ってハンドルは周って、そのまま開くかと思ったらさ、ベリベリベリって剥がれる音がするんだよ、ガムテープだ。ガムテープがさ、扉のふちと枠にべたべた貼ってあったんだよ。”シール剥がしが大変ですね”ってお前、それ以外に言うことあるだろ、って俺は思ったけど」
2015-03-24 04:39:33「まぁ生身の人間が一番怖いわな、そのまま開けて、入った。入ったら、何も無かったよ。本当何も無かった。生活感ゼロ。そんな部屋。でもな、妙に匂うんだよ、生暖かいっていうか、生臭いっていうか、"何もないですね"って”良かったですね”って、二人とも、言うのよ」
2015-03-24 04:41:50「まぁ、それで済めばいいんだけどさ、済むわけねぇよな。部屋の中に、もう一個、部屋があったんだよ。正確には、その部屋は中間の部屋で、奥にもう一部屋、で、その部屋の扉にまたガムテープと、裏向きの細長い紙が貼ってあるんだよ。俺は無言で進んで、紙をめくった」
2015-03-24 04:43:42「ミミズの這ったような文字がびっしり書いてあったよ。正しい御札じゃないことはすぐに解った。俺はすぐ”ちょっと帰りましょう”、”これ違う人呼んだ方がいいです”って言って、逃げようとした。相手も引きつった顔で、なんか、その、部屋の奥にいるのを解ってたんじゃないかな」
2015-03-24 04:45:18「まぁ、俺は好きだけど専門じゃないし、どーしようもないから、その人の腕を引っ張ってそそくさと戻ってったんだけど、青ざめた顔で”あの扉の紙もめくって確認した方がいいんじゃないですか?”ってお前、この状況で何いってんだと思ったけど、眼が俺の顔を見てない様子だったから」
2015-03-24 04:47:35「黙って、連れ出したよ。急いで、部屋の外に出た。部屋から出て、外に出て、ちょっとしてから”入り口の紙、めくる必要あったと思いますか”って聞いたら、え?って顔してから、少し口ごもって”あぁ、確認しないと、まずいかなって…”」
2015-03-24 04:49:41「これ仕事病なんかアテられたのか全く解らんが”ともかく、僕が立ち会っててもどうにもならんので、ちゃんとした人連れて来たほうがいいです”って言ったんだけど、言いにくそうに”お金が出ないし、もう3人目なんですよ”って、前に2人もいて、ダメだったのか、とか色々考えたんだけど」
2015-03-24 04:51:47「ふと、気が付いたんだよ。あ、こいつ御札めくらせようとしてる、って。多分、前の二人はめくらなかったんだ。俺はめくった。で、俺がめくれるから、入り口のもめくらせようとしたんだ。俺は無茶苦茶腹が立って、部屋に火でも付けてやろうかと思ったけどまぁ、捕まるからね」
2015-03-24 04:53:18「アテられてたのか、仕事を遂行しようとしてたのか、両方なのか解らないけど、俺はもう外にいるから関係ないし、二度と来ないし、そのまま帰ったよ。あの部屋のある建物の前はたまに通るけど、そのままじゃないかな。俺は、内側に貼られてる御札だけは、二度とめくらないと誓った。そんだけ」
2015-03-24 04:54:36