意識の低い就活生花宮の相棒

健太郎をバスケ部に誘った結果がコレかよ。
1
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「なぜガウンを着ていないんだ」 なぜかわざわざオレの家まで迎えにきた古橋は無表情で迫ってきた。 「なぜオレが1学生につき関係者2名分しかない卒業式の招待チケットを欲しがったか分からないのか?」 「マジでなんでだよ。オレん家もともと親少ねぇし、そこはいいけど」 「いいか、花宮」

2015-03-25 08:00:12
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「やはり特別なことをするときには特別な服を着るべきだ」 古橋の死んだ目が爛々と輝いている。 「お、おう」 「そして特別な日と言えば記念撮影だ」 古橋に肩を掴まれ玄関まで押し戻された。 「解ってくれたなら着替えてきてくれ」 「ハナから借りてきてねぇよ」 「今吉さんのがあるだろう?」

2015-03-25 08:05:04
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

去年、コタツなどの家財道具と一緒に押し付けられたガウンは、古橋によってクローゼットからあっさり発見された。 togetter.com/li/766658 サイズはピッタリだが着心地は最悪だ。 精神的に。

2015-03-25 08:15:09
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

式開始から15分。隣の席で瀬戸はさっそく寝始めた。肩トンどころじゃなく全体重でオレに寄りかかってくる。肘で小突くが起きない。重い。クソ重い。ラフプレーの創始者たるオレのエルボーが炸裂する。 「健太郎! 起きろ!(小声)」 「ふがっ」 「そんでアイマスクは流石に目立つだろバァカ!」

2015-03-25 09:15:08
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「卒業生総代、花宮真さん」 「はい!」 しょーがねぇな、最後にひと仕事やってきますか。来賓共に面接のように頭を下げてやる。壇上に登った。 …そーいや、去年の総代はあの人だったな。ここで、このガウンを着て、答辞を読んでいた。まぁ、オレは完璧に覚えてっから読む必要ないけど。

2015-03-25 09:40:12
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「本日は、諸先生方並びに来賓各位の御臨席を賜り、盛大な卒業式を挙行していただき、私たち卒業生一同、感謝の念でいっぱいでございます。振り返ると…」 形式上、手元の式辞紙を確認する。視線を落とした先。目に飛び込んできたものに固まった。 今吉の字だ。

2015-03-25 09:45:05
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

去年の答辞持ってきちまった…! なんでだ!? …そうか、ガウンと一緒に紛れこんだのか。…やっべぇ、今の衝撃で暗記したもん全部ぶっ飛んじまった。 マズい。周囲がどよめき始める。…落ち着け。こんなもん別にアドリブでいい。とりあえず今はこの沈黙に理由が必要だ。 「振り返ると…ぐすっ」

2015-03-25 09:50:06
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

主席の格を落とさずに失敗を誤摩化す方法…コレしかねぇ。俯いて鼻をすするフリをする。 「花宮がんばれ!」というヤジが会場のあちこちから飛んでる。うっせーな! 今ガンバって考えてんだよ、静かにしろ! 「大学での時間はっ…瞬く間に過ぎて…」 雫が頬を伝い手元の紙に落ちる。文字が滲んだ。

2015-03-25 09:55:07
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「…4年間ありがとうございました。終わりに皆様の御健康とT大学の輝かしい発展をお祈り致しまして、答辞とさせていただきます」 …何とかまとまったぜ。ったく、こんなとこまで時間差で邪魔しやがって。 学長に一礼し、ふり返って再び深々とお辞儀をすると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。

2015-03-25 10:00:17
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

閉会のアナウンスと共に、学生達が移動し始める。 「今日ヤケに出血大サービスだったな。女優になれるよ。MCZ48総選挙かと思った」 瀬戸に濡れた目元を指で乱暴に拭われた。 「んっ…何だよソレ」 「答辞の内容、ド忘れしたでしょ。花宮でもあるんだ、そういうこと」 「……人生初の体験だ」

2015-03-25 10:10:10
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「ふはっ、健太郎が三次会まで出るなんて明日は雪だな」 twitter.com/Entry2Hurt/lis… 「…まぁ、最後だしね」 乱れた髪を掻き上げながら瀬戸は欠伸した。このクソ寒ぃ中でよく眠気が湧くな。 「何が最後だ。高校んときオマエ途中でばっくれt「違うよ。花宮といるのが、だよ」

2015-03-26 04:00:06
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「明日から今までみたいには会えないだろ。オレはずぼらでめんどくさがりで、そのうえ意外に繊細だから、自分から連絡とか、きっとあんましねぇだろうし」 夜は明けるまではまだ今日でいいだろうか。 「…バァカ、そこは古橋のフットワークの軽さを見習え」 瀬戸は眉を下げて笑った。 「ごめんね」

2015-03-26 04:05:06
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「7…いや、オレの場合は6年かな。花宮の隣にいられて楽しかった。つっても、花宮にとっては、オレは四分の一でしかないんだろうけど」 「やめろ、そーゆーの。ムシズが走る」 早朝の街はまだ人影もまばらだ。平気だろ。シガレットケースを取り出し最後の一本を咥えた。 「花宮は今楽しい?」

2015-03-26 04:10:07
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「オレが花宮についていこうと思ったのはね、花宮がいつも楽しそうだからだよ」 瀬戸がセンチな話をやめねぇから、返事の代わりに煙を吐き出した。 「人より頭良く生まれるとさ、人生ってつまんねぇじゃん。世の中は普通の奴用にできてる。普通に楽しみたければ、普通の奴らに合わせなきゃなんない」

2015-03-26 04:15:06
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「馬鹿なフリをするなんて、そんなの面倒だし、人生を早送りするようにオレは寝てばかりいた」 「今も寝てばっかだろーが」 「花宮にバスケに誘われてからは、これでも睡眠時間は減ったよ」 何がおかしいのか瀬戸はくつくつ笑った。 「でもさ、花宮はそのシステムを逆手に取って人生を楽しんでた」

2015-03-26 04:20:08
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「オレの比じゃねーくらいの頭脳をもっていながらだ。世の中のルールなんて全部ムシして。新しいルールを構築して。だから、花宮のバスケの下でプレイしたいと思った」 「物好きだな」 「オレは邪悪な顔で笑ってる花宮が好きだよ。最近の、切羽詰まった表情よりも」 斜め上から顔を覗き込まれた。

2015-03-26 04:25:07
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「話してくれ」 ダラダラ歩いてたのに駅に着いちまった。 「花宮が何に巻き込まれてんのか。何をしようとしてんのか。何になろうとしてんのか」 瀬戸に肩を掴まれ体を揺さぶられる。 「最近の花宮は見てられない。…頼む、一人にならないでくれ。オレも一緒にいくから…!」 「健太郎、」

2015-03-26 04:30:22
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「お前をつれていくことはできない」 空が白んできた。そろそろ始発列車が動き出す。 「オレ一人で何とかしてくる」 「…まぁ、そんな気してたよ」 瀬戸は崩れかけのセットを完全に乱し、内ポケットからケータイを取り出した。メールを見せられる。 「オレの最後のサポート、受け取ってくれ」

2015-03-26 04:35:03
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「花宮に付き合ってたらムダに貰ったからな。オレが蹴った内定枠、代わりに“進路に迷っている就職活動中の友人・花宮くん”を紹介しといた。どこもこの時期に内定蹴られたら採用計画が狂って困るからね、素を見せない限りは受かるよ」 「健太郎…」 「内定、必要なんだろ?」 お前は賢い。そして、

2015-03-26 04:40:09
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

どうしようもなくバカだ。“四分の一でしかないんだろうけど”、か。 「よくやった、“健太郎”」 こんなにも分かりやすくトクベツ扱いしてやってんのに。 誰もいない駅のホーム。ベンチに座るオレの前に瀬戸は跪いた。

2015-03-26 04:45:06
意識の低い就活生だった花宮bot @Entry2Hurt

「2015年卒業者・花宮真向けサービス“瀬戸健太郎”は、2015年3月25日(木)をもって、サポートを終了致しました。以降は、クモの巣など全てのサービスがご利用いただけなくなります。長い間ご愛顧いただきまして、誠にありがとうございました」

2015-03-26 04:50:12