突発SSまとめ

突発でかいたやつをまとめたよ
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りんねさん @tmn15679

01:「あの事故、ですか? 今でもはっきりと覚えていますよ。10年前のあの日、僕が父を失った事故ですからね」 インタビューに答えて、少年はそう語り出す。未だ16歳。まだ年若い少年の表情には、翳りが浮かんでいた。 #突発SS

2015-03-31 01:56:03
りんねさん @tmn15679

02:「あの頃、父は大学の准教授で、宇宙生物学を中心に研究していました。そして、幼稚園が夏休みのあの時期、半月ほどかけて火星に研究のために家族で旅行していました」 片道一時間ほどのありふれた旅行。少年は、そんなふうに切り出した。 #突発SS

2015-03-31 01:58:34
りんねさん @tmn15679

03:「あの頃の地球と火星の間を運航する宇宙船の運行時間は、片道一時間です。僕の家から宇宙港に行くまでのほうが時間がかかるくらいでしたから、あっという間に終わる宇宙旅行でしたし、実際、火星に行くときは何の問題もなかったんです」 #突発SS

2015-03-31 02:00:47
りんねさん @tmn15679

04:「帰りの宇宙船でのアナウンスでも、一時間ほどの短い旅行をお楽しみくださいって、アテンダントが言うくらいですから、ほんとうに短いものです」 「事故が起こったのは、その帰りの便だったね?」 「ええ、そうです」 少年は、気負いもなく答えた。 #突発SS

2015-03-31 02:02:47
りんねさん @tmn15679

05:「時間にして30分ほど過ぎた頃でしょうか、当時の僕は宇宙船に付けられた丸窓から、飽きることなく外の様子を眺めていました。すると、なにか光るものが近づいてくるなーっと思って、父に言ったんです。そしたら父の顔から血の気が引いて、大声でアテンダントを呼び始めました」 #突発SS

2015-03-31 02:04:40
りんねさん @tmn15679

06:「父は、とても恐ろしい表情でアテンダントを呼びつけて、それを聞いたアテンダントも、怖い表情で操縦室の方に走って行きました。それから、僕たちは緊急のアナウンスに従ってベルトを着用したんです」 「それがつまり――」 「ええ、あの船に衝突することになったデブリでした」 #突発SS

2015-03-31 02:07:07
りんねさん @tmn15679

07:「突然の衝撃と、ものすごい爆発音がしました。それから身体が急に軽くなって、ベルトの中で浮き上がりました」 「重力装置が切れたのかな?」 「そうだと思います」 「それから、どうなったの?」 #突発SS

2015-03-31 02:08:49
りんねさん @tmn15679

08:「アテンダントの人たちが客室にやってきて、僕達に簡易宇宙服を着せました。生命を維持できる時間が10分位の、本当に簡易なやつです。そして、アテンダントに掴まって脱出をはじめました」 「アテンダントに?」 「ええ、彼女達の靴は電磁石で床につくようになっているんです」 #突発SS

2015-03-31 02:11:01
りんねさん @tmn15679

09:「それは知らなかった。そして君たちは脱出を始めたわけだね?」 「ええ。ですが、問題が発生しました。当時の僕には何が起きたのかわかりませんでしたが、あとで聞いたところだと、宇宙船が大気圏で燃え尽きずに、地上に落下するコースだったらしいんです」 #突発SS

2015-03-31 02:12:56
りんねさん @tmn15679

10:「父は急に列から離れて船の中で遊泳をはじめました。とても綺麗な動きでしたよ。なんでも、国際ステーションや月、あるいは火星などの外で活動する必要がある職業柄、船外活動の資格を色々保持していたらしくて……まあ、それで父は操縦席に行ったんですね」 #突発SS

2015-03-31 02:16:13
りんねさん @tmn15679

11:「あれが父の姿を見た最後でした。これもあとから聞いた話なのですが、このままだと宇宙船が都市部に落下して甚大な被害が発生する可能性が高いので、宇宙局は衛生からのレーザー狙撃で宇宙船を破壊しようとしたそうなんです」 「なんと、それは初耳だ」 #突発SS

2015-03-31 02:18:11
りんねさん @tmn15679

12:「でも、僕達が脱出用のシャトルに辿り着くまでには8分かかり、狙撃をするための残り時間は5分でした」 「つまり、3分足りない?」 「はい、しかも、デブリの衝突でで宇宙船はコントロールが効かない状態でした」 「それでお父さんが?」 「はい、そうです」 #突発SS

2015-03-31 02:20:41
りんねさん @tmn15679

13:「父の計算だと、宇宙船のある部分を爆破すれば、その衝撃で宇宙船のコースがそれて、そのまま外宇宙へと向かう。宇宙局の人から後で聞いた話だと、そういうことでした。そして、そのための作業時間は4分である、と」 なるほど、中々に危険な賭けだったようだ。私は、そう感じた。 #突発SS

2015-03-31 02:22:54
りんねさん @tmn15679

14:「船外活動ができるのは、操縦士と副操縦士、そして父の三人でした。そして、父と二人の操縦士が、船外での作業に従事しました。でも、その時既に父にはわかっていたんです。脱出シャトルに戻る時間はないって」 「どういうことなんだい?」 #突発SS

2015-03-31 02:25:14
りんねさん @tmn15679

15:船外作業に成功しても、それから3分以内にシャトルを切り離さなければ、脱出シャトルに備蓄されている酸素量では、近くの船に救助されるまでに足りない状態だったんです」 「なるほど、それでか……」 「だから、船外作業服からの通信で、父は泣きながら謝っていました」 #突発SS

2015-03-31 02:28:28
りんねさん @tmn15679

16:「胸が痛くなる話だねえ」 「いえ、いいんです。今では、父のことは誇りに思っています。あの操縦士さんたちも同様です。……まあ、そんなこんなで父の船外での作業は成功しました。爆発の衝撃と同時に、身体にGがかかって、コースが変更されたんだな、というのは理解出来ました」 #突発SS

2015-03-31 02:31:02
りんねさん @tmn15679

17:「それからずっと、父の作業服との通信距離の限界まで、僕たちは言葉を交わし続けました。その時の父の言葉が、今でも生きる源になっていると確信しています」 「そうか、ありがとう。あのデブリ衝突事故から10年、様々な面で技術は発達したね」 「そうですね」 #突発SS

2015-03-31 02:34:40
りんねさん @tmn15679

18:「軽量で頑丈な素材、デブリを発見、回避するためのソフトウェア……あの事故を教訓にして色々と進歩したことについて、君はどう思うかな?」 「ただ、父と、操縦士の方たちの犠牲が無駄にならなかったことが嬉しいです」 #突発SS

2015-03-31 02:37:14
りんねさん @tmn15679

19:「ところでね、今回は取材がてら君にニュースを持ってきたんだ。これが、宇宙局に出された条件でね」 「ニュース、ですか?」 「ああ、例の宇宙船なんだが、外宇宙に行くはずがいろいろな惑星の重力に影響されて、地球に舞い戻ってきたらしいんだ」 「本当ですか!?」 #突発SS

2015-03-31 02:39:59
りんねさん @tmn15679

20:私の言葉を遮って、少年は身を乗り出した。 「本当だ。そして、宇宙飛行士二人と、君のお父さんの亡骸が、宇宙船の操縦席に……ミイラ化している以外は、特に破損もなく回収できたそうだ」 そのニュースに、少年はとても嬉しそうだった。そして、いつ会えるのかと聞いてくる。 #突発SS

2015-03-31 02:42:39
りんねさん @tmn15679

21:「三日後には、おうちに帰ってこれるはずだ。宇宙局のほうで葬儀の手続きや飛鷹の面倒は見てくれるらしい。ちょうど十日後に葬儀が出来る予定だから、一週間の間、お父さんといろんなことを話すといい。言いたいことは、いっぱいあるはずだろ?」 「はい、ありがとうございます」 #突発SS

2015-03-31 02:45:01
りんねさん @tmn15679

22:少年に見送られて、彼の家を後にした。 少年には、確かに当時の面影があった。彼の方は私のことを覚えていないようだったが、私はよく覚えている。 なぜなら、私もあの船に乗っていたからだ。それにしてもアテンダントの靴のことは本当に初耳だ。今度調べてみよう。 ――終わり #突発SS

2015-03-31 02:49:00