【ちょっと泣いただけ】福間健二 #2factory85
シュート、シュート! きみは叫び、目の前の黙って立つ「労働者」に何もなぞりたくない未来派の腕をふりあげる。ぎりぎり間に合った。でも何に。何を。何で。ソーリー、この、撃てない視点は、きみが食べるつもりだったアイスクリーム食べてしまった。(ちょっと泣いただけ1)#2factory85
2015-03-26 11:45:54アイスだけじゃない。スプーンを入れる前に奪われる。ここまでの、きみが楽しみにしていたもの。ギーギーと巻き上げ機がはたらくこの世の工場。その、ずるそうな目の操縦装置の、機嫌の取り方。わかりたくない。溶ける寸前の「時計」が泣いたとしても。(ちょっと泣いただけ2)#2factory85
2015-03-27 11:15:40生きることは生きのびることじゃない。でも生きのびて、雑草のなかに放りだされた掃除機の、ジグザグの「いまもなお」に拍手したきみ。ありがとう。そう、まだ終わっていない。この、何やってる、くやしい、立体的に、眠れないネイル、爪じゃなくて釘。(ちょっと泣いただけ3)#2factory85
2015-03-28 10:26:00ずりおちて、わかったと思った途端に大きくなる岸辺の謎。きみやぼくという「人間」の弾き方を忘れて、どうしてか、目をつむったさびしさの先にひろがる幸福な空間。サーフィン、波の音、遠くに鳥の声。ラッキー、スペース、ブリッジ。架かっている。(ちょっと泣いただけ4)#2factory85
2015-03-29 10:43:56這うようにそっと近づいた。生きのびる。あきれながら、自分だけじゃない「お荷物」を生かしている妙な勇気におかしさを感じて笑いたくなった。松林と砂浜とおおぜいの人たち。殺人の夢を見た男も浮揚する娘たちもいて、新しい島が煙を噴きあげている。(ちょっと泣いただけ5)#2factory85
2015-03-30 11:09:00理屈にならない言い逃れを思いついて、この退屈。だったら、最初から何も運ばないバケツになっていればよかった。きみはつぶやき、「労働者」は昼間の花火で抗議する。∞をできるだけコンパクトに描く道具がいる。ぼくが乗ってきた自転車を改造しよう。(ちょっと泣いただけ6)#2factory85
2015-03-31 11:19:46きみが目をあけると蓋付きの容器とともに甘いおばさんは消えている。きみを見ていた山も雲に隠れた。昔からきみはチャンスを逃して気づかない。苦痛の家を、フン、プン、ピン! 怒りっぽくて淫乱で大食いでなにがわるいという顔で通りすぎて、四月だ。(ちょっと泣いただけ7)#2factory85
2015-04-01 12:30:09心配しないで。ちょっと泣いただけ。きみは笑い、遠ざかる「労働者」の背中にそう言った。追いかけてキスすることはできようが、収奪はむりだ。東京から西に百マイル、耳と距離だけになった夜をさまよう、音だけの、体。拒むことも拒まないこともある。(ちょっと泣いただけ8)#2factory85
2015-04-02 09:12:06廊下のクロールが得意な紳士たちに給仕する。ばかさわぎ追求系。なんでも一二〇〇円以上するプールサイド。搾取の片棒。腐敗する「身」の始末も手伝った。そんなぼくが遺書を書いて大箱をあける。なかで、不運にめげないきみが小さな箱になっている。(ちょっと泣いただけ9)#2factory85
2015-04-03 08:29:58工作のあとの、生きるすべ。黒い液体を吸い込む穴をあける。もつれるジョークに相槌を打つようなことだ。もういい、だったのに着いた無人の競技場からの家路。どんな家かはわからなくても、くさなぎ。いまもなおぼくに光を放つきみの眠る場所が近い。(ちょっと泣いただけ10)#2factory85
2015-04-04 09:41:31