なこついのべ２０１５ #twnovel

ナコ@文学フリマ東京Q-01 @nakotic

居酒屋は海に似ている。声があらゆる方角から絶え間無く聞こえるのは海底の静寂のようだ。私は、居酒屋では海のものを頼む。刺身、焼魚、煮魚。蒸し貝。ワカメの酢の物。口の中に海の味が広がって、旨い酒を流し込む。これは、海にはなかったな。 #twnovel @literaryace

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心霊現象。朝起きると誰もいないのに珈琲が入っていて、食卓で湯気を立てている。一口はそのまま、後はミルクを。生前は喫茶店のマスターで、客である俺のことが好きだったそうだ。死後に届いた手紙で知った。俺の家では姿を見せずに、毎朝珈琲を淹れている。#twnovel @m2_tam

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自らの魂を削り、文字化し、紙とインクに込めて闘う魔術師たちがいた。彼らの魔術はブンガク、あるいは単に創作と呼ばれ、自らのアバターである文字/物語を多くの人に「読まれる」者がより強い力を得ると考えられていた。求めるものは力と名声。もたらされる、魂の偽化と「死」。 #twnovel

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「私の魂、あんなにあったのに、もうこれしかないの…もう書けない…闘えないよ…」乾いた瞳で嘆く少女。魂を削って書く文字は、紙とインクにより本となって読者という祭壇に捧げられる。けれど読まれることがなければ、手に取られなければ、本は朽ち魂は枯れる。何の代償もなく。 #twnovel

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「オマエノモノガタリハツマラナイ」という声が耳につく。羽虫みたいなものだ。「オマエノブンショウナド、ヨマレルカチハナイ」ああ、五月蝿い。「ブスノカクモノガタリニカチハナイ」「オタカクトマッテル」「コウガクレキ？コウガクレキ？」ああ、五月蝿い五月蝿い五月蝿い！ #twnovel

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世界が終わってしまったからね、どんなに耳を澄ましても、もう始発電車の音は聞こえないんだよ、ジョン #twnovel

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あの人があの女に食べられたから、もう死にたいとあなたは言う。最後に食べてあげるから私と生殖しよう？少し沈黙して、うん、とあなたは頷く。可哀想なあなた。好きな人に指一本も触れられなかったのに、好きでもない女に抱かれて食べられるだけの人生だったの。大好き。 #twnovel

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読ませる気がないだろう、というくらい小さな字で書かれている。薄くてさらさらした紙の冊子。たびたび手に取っていたらページの角はぼろぼろになった。いつも読むのは、最初の方にある項目。地震、津波、噴火。戦争、紛争。放射能事故。契約から、三年以内の、故意の、自殺。 #twnovel

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ナナコビトです。おどります。飲みます。寝ます。ごろごろします。雨の日はだるいです。台風の日はわくわくします。晴れた日は、にっこうよく。買い食いは楽しい。たくさんは食べられないから、半分こ。ナッツの中ではカシューナッツが好き。その次が、クルミとアーモンド。なこ。 #twnovel

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タッパーに入れてある星屑ふりかけを、おにぎりに。これがなかなかおいしいのです。小ぶりならおつまみにもなるし、ご飯が傷みにくくなる効果もあります。きゅっと握って、ホイルでくるんで。まだ少し残っている光が、お米の中から滲んでくるので、夜の遠足にぴったりなのです。 #twnovel

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星屑をそのまま冷凍しておいて、一週間くらい経ってから流水解凍すると、星の輝きがとても強くなります。これに粉(天ぷら粉など)を薄くはたいてカラッと揚げると、サクサクの衣に、中は空洞になっていて、きらきらとした光だけが入っています。特に一等星のは格別ですよ。 #twnovel

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この秘伝のタレは、何百年も前から継ぎ足し使われているのだという。私たちの祖先が、ウナギという生き物を食べていた頃から。ウナギは今はもう絶滅して、代わりに宇宙人を食べている。タレで焼くのだ。熟練の職人が炭火で宇宙人の蒲焼を仕上げる。タレの匂いは、昔と変わらない。 #twnovel

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うろろん、という生き物がいる。人々の胡乱な気持ちを母胎として生まれる。小さな声でうろろん、と鳴く。表情は胡乱。冷蔵庫の中のプリンを勝手にたべたり、スマホゲームで石を買いまくったりする。それで怒られると更に胡乱になる。近年、捨てうろろんの増加が懸念されている。 #twnovel

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捨てられたうろろんが悲しそうに泣いているので、仕方なしにメロンパンをちぎってあげたら、着いてきてしまった。「…うちじゃ飼えないから」「うろろん…」前脚についたメロンパンの匂いを名残惜しそうに嗅いでいるうろろん。そう言えば、明日は台風の予報だ。 「うろろん…」 #twnovel

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うろろんは、お家に入れてもらえることになりました。お家には、冷たくて大きな箱があります。冷蔵庫っていうんです。中には美味しいものが詰まっています。ある日、冷蔵庫には綺麗な箱が入っていました。中には、綺麗なチョコ。ああ、おいしそう。食べてみたい食べてみたい！ #twnovel

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一つだけなら、いいよね。チョコを一粒、そっと摘まんで口の中に入れて見ます。あまくて、いいにおい。おいしい、おいしい。うん、もうひとつ食べても、変わらないよね。おいしい、おいしい、おいしい。そうしてうろろんは、いつの間にかチョコレートを全部食べてしまったのです。 #twnovel

ナコ@文学フリマ東京Q-01 @nakotic

ああ、どうしよう！チョコ、もう、ない！怒られちゃう！怒られちゃう！うろろん…。怒られたら、お家を追い出されちゃう。困る。悲しい。困る。そして、うろろんは、鼻の奥に残るチョコの匂いを、名残を惜しんで嗅ぎました。「うろろん…」仕方が無いのでお家を出ることにします。 #twnovel

ナコ@文学フリマ東京Q-01 @nakotic

怒られて追い出されて困るより、黙って出て行って困る方がましだとうろろんは考えたのです。さよなら、冷蔵庫。きみ、ひんやりしてて大きくて、いいやつだったね。さよなら、やかん。さよなら、お茶碗、お箸、コップ、毛布。さよなら、お家。うろろんはお外のうろろんに戻ります。 #twnovel

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お外に戻ったうろろんが、とぼとぼ歩いて行くと、駅の前に出ました。夕暮れ時の街は賑やかです。ひと、たくさん。ひと、うろろん、いじめる。ここ、いや。うろろんは悲しくなりました。ずっとお家のうろろんでいたかったのに。どうして、チョコ、食べちゃったんだろ。うろろん…。 #twnovel

ナコ@文学フリマ東京Q-01 @nakotic

そのとき、駅の改札から知ってる人が出てきました。うろろんのお家の人です。どうしよう、かくれなきゃ、どうしよう、と固まっているうちに、お家の人はどんどん近づいてきます。「うろろん、お迎え？ありがとね、お買い物して帰ろう」そうしてうろろんは、またお家に帰りました。 #twnovel

ナコ@文学フリマ東京Q-01 @nakotic

会社に行きたく無い朝、うろろんは生えてくる。「うろろん…」もう起きないと。でも怠いな。電車遅延してないかな。何か熱っぽい。…半休？全休？どっちにしろ、会社に電話しないといけないのか。「おはようございます、具合が悪いので休みます」なんて爽やかな朝。二度寝しよう。 #twnovel

ナコ@文学フリマ東京Q-01 @nakotic

会社を仮病で休んだ日はうろんです。折角だし、平日限定のランチでも食べに行こうかな、と思うともう2時過ぎ。そろそろランチのラストオーダーが終わります。「うろろん…」布団にくるまっているだけでもお腹が空くものです。取り敢えず缶ビールを開けます。はあ、怠惰怠惰。 #twnovel

ナコ@文学フリマ東京Q-01 @nakotic

ビールを飲んだらまた眠くなったので、昼寝をして目が覚めたらもう夕暮れです。折角休んだのに、怠惰なだけだったな。「うろろん…」いよいよお腹が空いてきたので出かけます。ラーメンかカレーが食べたいのです。「うろろん…」うろろんはカツカレーが良いのだそうです。贅沢な。 #twnovel

ナコ@文学フリマ東京Q-01 @nakotic

カツカレーを食べに行った筈なのに、いつの間にか居酒屋で一杯飲んで唐揚げとか食べて、お代わりして追加して、いい気分になって外に出ると夜です。ああ、一日無駄にしちゃったなー。有給も残り少ないのにな。「うろろん♪」うろろんは初めて居酒屋に行って楽しかったみたいです。 #twnovel

ナコ@文学フリマ東京Q-01 @nakotic

「うろろんろん！」うろろんは居酒屋が楽しかったみたい。酔っ払いが沢山いて、酔っ払いはおおむね胡乱だから好きだそうです。唐揚げも美味しかったし、出し巻き卵もすごく良かったそうです。また居酒屋に行きたいそうです。人間にとってのディズニーランドみたいな感じなのかな。 #twnovel