- Katakoi_mttd
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前日の口論 直前 主の部屋
「――明日、ですか?」 『何か文句でも?』 「いえ。主命とあらば」 『燭台切にはお前から言っておけ』 「主。そのことなのですが――」
2015-06-12 23:44:48「そろそろ、きちんと話をしてはどうでしょうか。戦場のことも、城中の者のことも、一番よく知っているのはあいつです。出陣の下知さえされないというのでは、納得しないでしょう」
2015-06-12 23:56:15『「あいつ」か。仲いいんだな、お前ら』 「そのようなつもりはありませんでしたが…。いえ、直します。申し訳ありません」 『…………』 「…あの男が何か失礼をしたのですか」 『いい加減に出陣をやめろとさ。自分の失敗は棚に上げて、図々しい』 「あれがそんなことを言ったのですか」
2015-06-13 00:02:49『大体そんなようなことだ。少しは大人しくしてればまだ可愛げもあるのに。あいつ、何をしてもけろっとしてるから気持ち悪いんだよ』 「内心、堪えているとは思いますが…。考えを無闇に表に出さないよう、いつも気を張っている男ですから」
2015-06-13 00:08:54「そのようなことを言ってきたのも、責任を感じているからこそでしょう。あれは良い刀です。身の程を弁えず、主のご判断を疑うような真似は、するはずがありません」 『お前が自分の意見を言うなんて珍しいな。妙に肩を持つじゃないか』 「思ったことを述べたまでです」
2015-06-13 00:14:30『近侍まで味方につけたか。はっ、さすがだな』 「…俺たちは主の刀で、敵も味方もありません。あの男は、誰に対してもあの調子です」 『だから腹立つんだよ。たかが刀のくせに他の奴らを仕切って、何様のつもりなんだ』
2015-06-13 00:19:58「…主の仰る通りです。俺たちは刀ですし、俺たちの主は一人きりです。もちろん、燭台切にとっても」 『綺麗ごとを。お前も仲いいんだろ』 「そのようなことはありません。立場上、交流が多いだけです」 『どうだか。そういう奴に限ってそういうこと言うんだよ』
2015-06-13 00:25:28「ですから、そんなことはありません! どうして主はそう、穿った見方ばかりされるのですか! あれは良い刀です、武功のある刀です。それは主もよくご存じでしょう! 今のこの戦況で、わざわざ辛く当たって、一体何がしたいんです!」
2015-06-13 00:26:00「主は……そのような方ではないと信じていますが……」 「俺は、主の刀です」 「主のすることに、異議のあるはずがありません……」 『ならいいんだよ。冗談だ、冗談』
2015-06-13 00:34:29(冗談?) (何が冗談だ) (折りたいとすら思っていない癖に) (「折れても構わない」。いや、きっと、「折れるとすら思っていない」) (ただの八つ当たりだ)
2015-06-13 00:39:42(だがまずい。このままだとあいつは本当に折れる) (明日無事でもその次がある。それで無事でもその次がある。繰り返すうちに必ず折れる) (止めなければ。どうする。どうすればいい)
2015-06-13 00:42:00(どうにかして、隊長から下ろすしかない。だが、言っても聞かないだろう) (自分から辞めるように仕向けなければ) (やるしかない) (あいつは弱っている。今突けば必ず崩れる。たとえ心が傷ついても、いなくなるより余程ましだ)
2015-06-13 00:47:12人間のまねごと
演説
「みんな。今日は大倶利伽羅のために集まってくれてありがとう。こうして僕が喋るのも、なんだか変な感じがするけど、伊達から来た刀として、同じ部隊の仲間として、お礼を言わせてほしい」
2015-06-07 11:01:21「この場にはいらっしゃらないけど、許可を下さった主にも。それから、長谷部くんと、青江くんにも。本当にありがとう。きっと本人も、喜んでいると思う。馴れ合いは嫌いだって言うくせに、結構寂しがり屋なところがあって、うっかり遊びに誘い忘れると拗ねるような子だったから」
2015-06-07 12:01:53「仲間思いの、良い刀だった。いつも『俺は勝手にする』とか言って、僕の言うことなんてちっとも聞いてくれなかったけれど、本当に勝手ではなかった。状況をよく見ていて、押されているところがあったら黙って助けに行って、そういうところに僕は何度助けられたか分からない」
2015-06-07 13:01:02「同じ部隊で出陣したことがなくても、彼のそういうところは、皆どこかで感じてくれていたんじゃないかな。…今回の厚樫山でも、そうだった。苦しい戦いだった。もう時間がなくて焦っていて、そんな時に検非違使に出会った」
2015-06-07 14:01:24「ちょうど化け刀との戦いにけりがつきかけたところで、部隊の皆は霧の中でばらばらに散っていた。奴らが来る可能性を、少しでも頭に入れて動いていればと、僕はずっと悔やんでいる。それでも、そんな不利な状況の中で、彼は決して諦めることなく、全力で戦ってくれた」
2015-06-07 15:01:01「僕は彼の最期に立ち会った。乱戦の中で出会って、それからずっと一緒だった。あいつらは――まるでこっちの位置が分かっているみたいに襲いかかって来たけど、大倶利伽羅は一歩も引かなかった。何度も何度も斬られたのに、最後まで悲鳴の一つも上げなかった」
2015-06-07 16:01:07「そうしたら敵を引き寄せてしまうのが分かっていたからだと思う。勇敢で冷静で、粘り強い刀だった。こうして僕が今、悲しんで取り乱していることが、恥ずかしく思えるくらいに」
2015-06-07 17:01:28