雌伏と幸せのボルネオ鎮守府

竹村京 @kyou_takemura

滑り込み四月馬鹿なら許してもらえる気がする。許してもらえなければ無視してもらえる気がする。だから自分でも本当にどうしようもないと思うやつを投下します。完全パラレルワールドです #落ちぬい

竹村京 @kyou_takemura

#落ちぬい二次 、はじまります。本作は #不知火に落ち度はない の二次創作であり、オフィシャルではありません。意見・指摘は #落ちぬい タグにお願いします

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天気、快晴。 シーステート、3。 深海棲艦指数、10未満。 今日も今日とて平和な一日になりそうな朝である。 場所は陽光さんさんたるボルネオ島。その海岸に建てられたロッジ。 これが現在の兵頭鎮守府である。#落ちぬい二次

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キッチンで朝食の支度をする浜風の背を見ながら、兵頭はぐずる赤ん坊を抱えている。 赤ん坊の名前は一孝(かずたか)。兵頭一也と浜風の息子である。 「一也さん、ひげ、嫌がってますよ」 「おっと、忘れてた」#落ちぬい二次

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兵頭は無精髭の生えた顎を押さえて洗面所を見る。が、髭をあたるのは後でいいかと考えて一孝の手を握ってあれこれあやし始める。#落ちぬい二次

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兵頭がボルネオにいるのは、簡単に言ってしまえば不祥事を起こして左遷されたからだ。 その不祥事とは、部下の浜風を妊娠させたこと。#落ちぬい二次

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妊娠が発覚した直後に兵頭は査問にかけられた。双方同意の上での隊内恋愛なのでその点は問題はなかったのだが、一回り以上年の離れた娘との関係、しかも婚前交渉による妊娠というのがまずかった。#落ちぬい二次

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これをネタに海ぼうずを快く思わない一派が揺さぶりをかけ、兵頭は危うく不名誉除隊されるところだった。 夏目団長や軍内部の海ぼうず派の働き掛けで除隊こそなくなったが、就学年齢の部下を婚前交渉で妊娠させたという廉で左遷されることになった。#落ちぬい二次

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左遷先はボルネオ島。連れて行ける部下はただ一人。兵頭は迷わず浜風を選び、二人は島流しにされた。#落ちぬい二次

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これも海ぼうず派の力添えで、浜風は産休と育休を合わせて三年間の休暇を取っている事になり、三年後の復帰が約束された。反海ぼうず派も敵対派閥に一撃喰らわせたことで満足し、これ以上の追及はなかった。#落ちぬい二次

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「なあ、浜風」 「目玉焼きはサニーサイドアップと半熟、どっちがいいですか？」 フライパンから目を離さずに浜風が応じる。 「サニーサイドアップで。そうじゃなくて。久しぶりに海に出てみるか？」 「海、ですか」 「今日モグリのやつが来るから、あいつの艦までだけどな」#落ちぬい二次

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浜風は、なるほど、と手を叩き、「もちろん行きます」と快諾した。 朝食の後、浜風は艤装を背負って兵頭の連絡艇に並ぶ。艤装はいつも点検・整備しているので問題なく稼働しているが、海に出るのが久しぶりの浜風は少しふらついた。#落ちぬい二次

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「大丈夫か？ こっちに乗っててもいいんだぞ」 モーターボートから兵頭が心配そうに声をかける。一孝はチャイルドシートに固定されていた。 「いえ。海に立っている方がすぐに対応できますので」#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

もともと深海棲艦が少ないうえ、あの潜水艦が来ているならまず心配はないが、それを知っていてなお浜風は譲らない。言葉遣いが固くなっているのも含め、休職中とはいえ艦娘の矜持だろう。#落ちぬい二次

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兵頭は同乗する息子と並走する浜風を気遣って連絡艇をゆっくりと走らせる。しばらくすると、海面に浮かんだ黒塗りの巨体とその上に立つ長髪の男の姿が大きくなる。 「よう。久し振りだな、片目」 長髪の男が上から兵頭に声をかける。#落ちぬい二次

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「お使いご苦労さん、モグリ」 男の名は永瀬零司。日本海軍の艦艇の中で事実上最強の打撃力を誇る核弾頭搭載原子力潜水艦の艦長である。 「てーとく、こんにちはでち！」 長瀬の後ろからぴょこんと飛び出す小柄な人影。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

「おうでち公。調子はどうだ？」 かつて兵頭の指揮下にいた潜水艦の艦娘、伊58だ。 「戦果は上々でち！」 「そりゃいい。で、モグリは落とせそうか？」 「そっちの戦果はまだまだでち……長瀬さんガード固すぎでち」#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

だろうな、と兵頭は思う。 長瀬は生き残り組の中でも一番生きて帰るつもりがない男なのだ。だから刹那的な快楽の為に肉体関係は多く重ねるものの、それはあくまで肉体関係だけ。自分が死んで悲しむ女を作るつもりはないのだ。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

「ま、諦めない事だな。馬鹿の一念岩をも通すっていうし」 「当然でち！……ごーやのこと馬鹿って言ったでち！？」 憤慨する伊58を尻目に、兵頭は長瀬に語りかける。 「ギンブチはどうしてる？」 「来年から奥さんに産休取らせるってよ」#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

ギンブチとは兵頭と長瀬の戦友である鷲塚紡大佐のこと。その妻とは艦娘の翔鶴だ。 「へえ、家族計画してたあいつがやっとか」 「お前の所から引き抜いた蒼龍ちゃんと飛龍ちゃんだっけ、そろそろ戦力になるから子作りに励むんだと」 「計画的だな。ギンブチらしい」#落ちぬい二次

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水雷戦隊が主力だったかつての兵頭鎮守府では二人の正規空母を活かす事は出来なかった。もともと打診はあったが、スムーズに移籍できたのは事実上兵頭鎮守府が解体されたためだ。空母を主体とする仲間の戦力が大きく増強されたのは怪我の功名と言えなくもない。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

「そうそう、あいつから伝言だ。片目がボルネオ送りになったおかげで戦力増強ができました。ありがとうございます。だとよ」 「……本土に帰ったら眼鏡割ってやる」 鷲塚の戦力増強を喜んだ数秒前の殊勝な気持ちを返せ、と思った。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

しばらく艦上で雑談した後、兵頭一家は艦内の食堂に招かれた。 「今日のメシは艦長が久しぶりに兵頭さんに食わせてやるんだって張り切って作ったんすよ」 「おう紺屋、お前余計なこと言ったからメシ抜きな」 「殺生な！」#落ちぬい二次