ゴッドハンド・ザ・スモトリ #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ノコータ!ノコタ!ノコータ!」ノコタ・チャントと歓声が騒がしく、ドヒョー・リングの四隅からは紫のスモークが間欠泉めいて噴き上がり、リング上空をブランコに乗ったオイランが嬌声を上げながら行き交うと、極太オスモウ・フォントで力強く打ち出された「お相撲」の文字が画面にせり出した。1

2015-04-14 22:15:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

これぞ、オスモウ。これぞ、頂点。リキシ・リーグ・スモトリ決勝トーナメント、通称ホンバショの開幕だ。ドヒョーの上では現在、巨大な正方形の液晶アド・ボードを掲げたゴヨキキ達が儀式めいて円を描き、スポンサーを示すところ。人々は弁当を食べたり、指さしたりしつつ、この幕間も大いに楽しむ。2

2015-04-14 22:19:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴヨキキがはけると、巨大モニタがプラズマ光を放ち、今まさにドヒョーへ進み出る巨大戦士達をクローズに映し出す。限界を超えて鍛え上げた身体はまさに筋肉の塊であり、その強さの純粋性は聖なる力すら帯びると信仰されるゆえ、かぶりつきの観客はロープごしに彼らの身体に触れたがる。祝福の為に。3

2015-04-14 22:28:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「カンバヤシ!俺の頬を張ってくれ!」「俺の頬をだ!」スモトリ達の列に贔屓の戦士を見つけた熱狂観客が身を乗り出すと、呼ばれたスモトリは願いに応え、歩きながら、だが力強くその頬を張った。「ドッソイ!」「アバーッ!」「ユメノヤマ!て、手形を!」「花束を受け取ってください!」 4

2015-04-14 22:31:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

常軌を逸した熱狂だ。だが、無理もない。入場してくるスモトリ達はただのスモトリではない。彼らは、リキシ・スモトリなのだ。巡業インディペンデントスモトリ団体を含めればおそらく10万を超えるスモトリ戦士が日本には存在する。リキシ・リーグに登録可能なスモトリは、わずか64。最強の戦士。5

2015-04-14 22:37:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らがドヒョーの上に並ぶと、いかにも狭い。力と筋肉の密度は凄まじく、重力すらも増し、熱気に満ちた空気を歪めるかのようだ。彼らに正対して扇子を水平に構えるのは、行司。オスモウの審判役だ。当然、これほどのエネルギーを前にして、並の精神力では務まらぬ。大神官めいた古老なのだ。 6

2015-04-14 22:44:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

バウッ!紙吹雪が機械的に噴き上げられ、雅な笙リード音が鳴る。フェー……。観客は静まり返る。行司の咳払いすらもマイクは拾った。やがて行司は宣言する。「今宵、リキシの頂点を決める……」KABOOOOM!KABOOOOM!SPLAAAAAASH!「アイエエエ!」「何だ!」「これは!」7

2015-04-14 22:51:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエッ!?」一杯飲み屋の店主は据え付けTVモニタの画面の向こうで勃発した突然のインシデントに驚き、皿を落として割りそうになった。狭い飲み屋だ。客はカウンターに一人だけである。店主は彼にむかって喚いた。「ねえ、どうしたんだろう?大変だぞ!」「チャンネルを変えてくれ、おやじ」 8

2015-04-14 22:56:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ナンデ?」「見たくないんだ」男はサケを飲み干した。店主は不満げだ。「なんだね。連れないね。オスモウが嫌いだなんて、信じられん。ちょっとぐらい、いいじゃないか」「見たくないんだよ」「勘弁してよ。サケを一杯サービスするから」店主はそう言って取り合わず、客は肩をすくめる。9

2015-04-14 22:59:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男は一日の肉体労働を終え、晩酌に訪れたようだ。がっしりとした肩、精悍さの面影を残す髭面。画面から目を背け、焼き鳥に手を伸ばす。店主はサケのおかわりを与え、話を続ける。「全くもう。ホンバショは一年で一番重要なイベント……アイエエエ!大変だ!」店主が画面を指さした。10

2015-04-14 23:02:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KABOOOOM!オスモウ・ホールのあちこちで、進行外と思われるパイロが噴きあがった。そして眩いスポットライトがホールの一角を照らし出した。おお、ナムサン!そこに浮かび上がった複数の影……腕組みして不敵に仁王立ちする者達もまた、スモトリ!「アイエエエ!」客席のどよめき!11

2015-04-14 23:05:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何を一体何ガガピー!」「音声!」「ちょっと維持で!」スタッフのやり取りが編集されずに聞こえてしまう!やがて、乱入者らしきスモトリ達の頭目がワイヤレス・マイクを取り出した……!「リキシ・リーグ何するものぞ。こんなものはショウビズに過ぎん。我々はそれを、正す!」「アイエエエ!」12

2015-04-14 23:09:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「我々はブルタル・ヨコヅナ・アーミー……地下格闘施設において鍛錬を極めた真のスモトリだ。そしてこの俺様が初代ヨコヅナ……マサカリファングだ!」KABOOOOM!爆発!「「「アイエエエ!」」」客席は悲鳴を上げ、ドヒョー上のリキシ達は怒りを秘めて身構える。 13

2015-04-14 23:17:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ちょっとやめないか!」行司が叱責した。「オスモウの神がお前たちを罰するぞ」「ちゃんちゃらおかしいわ!」マサカリファングは鋭利な角をはやした鉄仮面の下で笑いを響かせた。「貴様らの神など偽神!それをわからせてやろうというのだ」「小団体め!」「カエレ!」ブーイングが飛んだ。 14

2015-04-14 23:20:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ムフフフフ」マサカリファングは肩を揺らして余裕の笑いを放つ。「今野次を飛ばした無礼者は我がスモウ・プレスで直接八つ裂きにするとして(アイエエエ!後悔と恐怖の絶叫が客席から聴こえた)……小団体とは実際的を射ている。もっとも、このイクサの後に全てを吸収するがな。あれを見よ!」15

2015-04-14 23:23:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KABOOOOM!「アイエエエエ!」ホールの対角で新たな爆発とスポットライト!ナ……ナムサン!またしても……新たなスモトリ集団の影だ!「ハーッハハハハハ!」マサカリファングは哄笑した。「いかにも我らは人数においては今は劣る。ゆえに我らは今回、反目する団体と一時的に同盟した」 16

2015-04-14 23:26:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何ーッ!認めておらんぞ!」行司が対角スポットライトを振り返ると、そちらのスモトリ集団は「強い牡牛」と書かれた大漁旗を掲げ、頭目が進み出て宣言した!「我々はストロング・オックス・ボックス……その初代ヨコヅナ、グレートホーンである!以後お見知りおきを……フフフフ!」 17

2015-04-14 23:31:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KABOOOOM!さらなる爆発!新たなスポットライト!「そして我々が、レジェンド・オブ・スモトリ!我こそは初代ヨコヅナ、ストロングホールドだ!はるばるドサンコから参ったが、このホールには軟弱な奴しかおらんのう!」「アイエエエエ!」ナムアミダブツ!何たるケオスか! 18

2015-04-14 23:34:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「許しませんよ!」ハンケチで汗を拭いながら、リキシ・リーグ理事長と思しきスーツの中年男性が進み出た。「貴方がたに、賠償金を請求します!」「ムフフフフ……訴訟リスクを踏まえておらぬと鷹をくくったか?これだから惰弱な既得権益団体は甘ったるい」マサカリファングが笑った。 19

2015-04-14 23:40:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハッキング済みのモニタを見てもらおう!」彼が指さす先、モニタには、まさにその理事長がオイランらしき女性を伴い……『しばらくお待ちください。安全です』の画面表示に切り替わり、十数分が経過する。一杯飲み屋の店主は固唾を飲んで見守る。「おやじ。もう一杯」客は空のグラスを差し出す。20

2015-04-14 23:43:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「嗚呼、大変だ!どうなっちまうんだ」上の空で、店主はサケのおかわりを注いだ。男は面白くもなさそうにそれを飲み、げっぷをした。「くだらねェー茶番だぜェ……」「ちょっと!それは侮辱ってもんじゃないですか?わたしゃね、昔からオスモウを愉しみに生きてンだ。ゴッドハンドの頃から!」 21

2015-04-14 23:48:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KRASH!男はグラスを握りつぶした。「アイエエエエ!」「勘定だ!おやじィ!」男は立ち上がり、ろれつの回らぬ声で言った。「俺はよォー……そいつの名前が一番嫌いなんだよ!ゴッドハンドの名前がよォ!」「飲み、飲み過ぎだ貴方!責任とれませんよ!」「うるせェ!」と、その時!放送復帰!22

2015-04-14 23:51:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あれっ?」店主は目を見開いた。ドヒョー上には、理事長ただ一人だ。客席も彼の言葉を待って静まり返っている。ピー。マイクがハウリングした。理事長はひきつった顔で、アナウンスした。「エー。我々は本日の要請に対して正々堂々応え……最強ヨコヅナ戦をあらためて開催する事に致します」 23

2015-04-14 23:56:31