若い世代には上手く伝えられない、20年を経て、いまだ小沢健二の呪縛から逃れられない「こじらせた僕らがオザケンを捨てて旅に出られない理由」

この CDB @C4Dbeginner さんの一連のツイートを読んで腑に落ちた気がする。なぜ僕が小山田圭吾を無意識に「味方に見せかけた敵」と、オザケンを「敵に見える超越者」と認識するのか。なので自分の備忘録的まとめに。
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先日、このような体験をしまして。

そらいろ3号(паёк) @sorairo3go

20代女子に「オザケンみたいな感じ」と言ったら「オザケンてなんすか?」と言われ、震えが止まらない。 I'm not ready for the blue

2015-03-27 19:42:27

あたりまえっちゃあたりまえだと思いつつ、じゃあなぜ僕(と、多くの同世代)は、オザケンをつい特別視してしまうのか、と思っていたところ、CDBさんの秀逸な連ツイが

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4月14日もあと10分を切ったし、小沢健二について少し書いてみようと思う。 90年代にまだ生まれていなかったり物心ついていなかった若い世代から彼のことを聞かれて上手く説明する自信がない。いったいこの人は誰で、何をした人なんですか?どうしてこの人のことがそんなに気になるんですか?と

2015-04-14 23:50:12
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「LIFE」というアルバムは確かによく出来たポップなラブソング集だけどでもただそれだけじゃないですか?いったいこのアルバムがどうしたって言うんですか?と聞かれたら何も答えられない。90年代にどうしてこの変哲もないたった8曲のアルバムがあれほど絶賛され、そして同時に反発されたのか。

2015-04-14 23:53:25
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以前よしもとよしともの「青い車」について書いたけど、あの短編は小沢健二の「ラブリー」を否定するためだけに描かれたようなマンガだ。歌詞の中にいかなる攻撃性も持たない、ヘイトスピーチから最も遠いところにある優れたラブソングは、それでもあの当時ハリケーンのような威力を多くの人に与えた。

2015-04-14 23:58:16

ここで CDB @C4Dbeginner さんによる、よしもとよしともさんの「青い車」についての過去ツイを

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せっかくだから名作短編「青い車」について書いてみようかな。この作品は二つのポップミュージックをテーマにしてる。一つはタイトルにのみ引用されるスピッツの「青い車」。もう一つは作品中で歌詞が引用される小沢健二の「ラブリー」。どちらも作品が描かれた1995年、阪神大震災の年のヒット曲。

2015-03-20 01:27:38
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作品の主人公は10歳の時に事故に遭い、顔が変形し学年で2年遅れで生きている青年。彼と交際していた女性は事故死し、その妹と海へ花束を投げに行く。戦後最大の惨事、阪神大震災と同じ日に起きた、たった一人の個人的な死。しかもその理由は作中で主人公と妹の恋愛関係が原因であったと明かされる。

2015-03-20 01:28:21
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運命的にだけでなく、倫理的にも神から見捨てられた二人の男女。「神様がいるとしたら雲の上から私たちを観察してるんだ」「くそくらえだわ」という女。「そんな人はいません」と答える男。カーステレオで小沢健二の「ラブリー」が流れた時、ヒロインは吐き気がするから音楽を止めてくれと訴える。

2015-03-20 01:28:52
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1995年に小沢健二がどのような存在だったか、もはや解説が必要だと思う。フリッパーズギターという批評性の高いユニットを解散した彼は、「犬(略)」の後に「LIFE」というアルバムをリリースした。それはある意味80年代以来のサブカルチャーを思想的にすべてひっくり返すような作品だった。

2015-03-20 01:29:18

偏見もあるが、パーフリ解散後のファースト「犬は〜」は、フォーク色が強くて「え、オザケンこんなダサかったの?」的評価も。そしてセカンド「LIFE」はこれまたド真ん中直球のキラキラポップス。下の世代はともかく、同世代は「どうしたオザケン」と戸惑いながらも、気づけば魅了されつくしていたという印象。

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それまでサブカルチャーとは反体制文化だった。政治の季節が終わり80年代が来てもその文脈は維持されていた。でも小沢健二はその文脈からまったく違うところからやってきた異邦人だった。東大卒であり、父が大学教授で叔父が小澤征爾、祖父が戦前の右翼の大物であることを公言してはばからなかった。

2015-03-20 01:29:40
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彼がリリースした「LIFE」の音楽性も衝撃を与えた。端的にそれは本来性の音楽、正統性をめぐる音楽だった。ひねりにひねり、何回ひねくれたかの競争で袋小路に入っていたサブカルチャーに対して彼は「普通でいいじゃん」と言い放ち、若く将来ある優れた男女の理想的な恋愛を真正面から歌い上げた。

2015-03-20 01:30:15
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それはただのポップミュージックではなく、深い部分での価値観の転換だった。某ロック雑誌編集長は他のミュージシャンに「小沢健二をどう思うか」と聞いて回ったほどだ。彼の音楽はある意味では真性の保守主義だった。今溢れているルサンチマンとしてのウヨではなく、生のエリートが奏でる音楽だった。

2015-03-20 01:30:46
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二人の男女はその小沢健二の正統性の音楽を拒否する。多くの痛みと歪みを抱えたまま、海に投げようとする花束を釣り人にゴミととがめられながら、来るべき地震から生き延びるための転倒防止器具、赤いダッフルコート、白のソックス、青い車という小さなガジェットたちの名前を読み上げて作品は終わる。

2015-03-20 01:31:19
CDB@初書籍発売中! @C4Dbeginner

男女は正統性ではなく、偽物で満ちた抵抗を選ぶ。否定的に言及される小沢健二の歌詞は著作権の許諾まで取って引用されるのだが、「つまらない宝物を眺めよう/偽物のかけらにキスしよう」というスピッツの青い車の歌詞は題名の他は作中のどこにも出てこない。作品全体がその歌詞についての言及だからだ

2015-03-20 01:32:46
CDB@初書籍発売中! @C4Dbeginner

でもこうした多くの引用を重ねた繊細な内容は、当時ですらほとんど正しく読まれることがなかった。鶴見済は作中ではっきりと否定的に言及される小沢健二の曲が肯定されていると誤解した書評を出したし、QJの編集長は「意味が分からない」とにべもなかった。確かにハイコンテクストにも程があるのだが

2015-03-20 01:33:25
CDB@初書籍発売中! @C4Dbeginner

しかし作者はそういった無理解を気にせず、自分としては漫画史に残る傑作だと思うが別に残らなくてもいい、という傲慢なのか謙虚なのか判らないコメントを出すのみだった。こうした「判る人にしか判らない」というスタイルこそが小沢健二的普遍性に対する一つの回答であり、抵抗でもあったのだと思う。

2015-03-20 01:34:10
CDB@初書籍発売中! @C4Dbeginner

20年近い時間が流れ、小沢健二も同時の状況も知らない若い世代が「青い車」を突然読んで理解することはますます難しくなっている。でもこの作品に描かれている内容は決して狭い内輪受けではなく、小沢健二の正統性と同じくらい普遍的だ。個人はあの時と同じように災害に怯え、そしてより孤立している

2015-03-20 01:34:47
CDB@初書籍発売中! @C4Dbeginner

ただ一つだけ注釈を加えるなら、当時の文脈によるこうした小沢健二観はもちろん一面的でもある。同時代の岡崎京子にとって小沢健二はある種の守護天使的な存在でさえあったし、その後突然姿を消し長い時間の後に戻ってきた彼は、どんなサブカルチャーよりもラディカルな抵抗者に変わっていたのだから。

2015-03-20 01:35:29
CDB@初書籍発売中! @C4Dbeginner

以上です。長い!長いにもほどがあるね お前はツイッターというシステムの意味を理解してるのかっていうくらい長いね

2015-03-20 01:38:06

↓そして、改めて今回の言及にいたりますね

CDB@初書籍発売中! @C4Dbeginner

言ってしまえば日本のサブカルチャーと言うのは昔も今も「ダメ男子の自己肯定」を通じて連帯する共同幻想でしかないんだ。どうダメかでそれぞれのジャンルが細分化され、自分と同じダメさを肯定し、自分と違うダメさを見下す。オタクもサブカルもそれは変わらない。どのダメさを選ぶかの問題でしかない

2015-04-15 00:02:01
CDB@初書籍発売中! @C4Dbeginner

伊集院光や太田光がアナ雪主題歌の「ありのままの私」というフレーズに激しく反発するのは「女子の自己肯定」がサブカルチャーの根源を脅かすテーゼだからだ。実のところ、ありのままの自己肯定を続けてきたのは男子の方であって、サブカルはずっと「オレのままの私」という歌を歌い続けてきたんだよ。

2015-04-15 00:09:15