
あれはいつの記憶だったか。 まだ佐遠が幼い、と言えた頃だった気がする。 その内容は……いや、かつてのこと。古いことだ。 だが、きっとうじうじと悩んでいる私を見れば彼はまた笑うだろう。 「デカいんだから自信持って歩いたら道理なんてそのデケぇ背中についてくるって」などと。
2020-09-01 23:13:06
「……ふふ」 賢人が小さく笑う。 それは自嘲などではなく。 「思い出し笑いにしては優しい微笑みだね」 闇と共に生きた沙綾にすら、その暖かさが伝わるほどに。
2020-09-01 23:14:43
「内容、決まったって感じかな」 「すまない。うじうじと悩んで時間を使わせた」 「いいよいいよ。こんな世界だ。時間が一番売れ残ってるって……まあ~……あたしは元々『時間』なんてものから一番遠い気もするけど」 狂った時間を指し示す悪魔の時計と晴れぬ闇。それを褥の共とした少女が自嘲する。
2020-09-01 23:17:49
彼の言葉に従うように世界が解けていく。 まるでそれは紙縒……いや、世縒とでもいうべきのものに。 残されたのは彼の目線からでなかろうとも小さなと表現できる空間だけとなった。 あるいはそれは無限の拡がりの感じさせる場所でもあった。 見るものが見ればそれは〝ゼロ〟の世界である。
2020-09-01 23:27:21
彼の認識に左右されるのか、黒の巫女は鴉へと姿を換えて王の肩に止まっていた。 〝認識の世界〟あるいは、それこそが超王の権能であった。 自由自在だ。 人のみならず全てに嘆くことが、愛することができる彼であるからこそ得た力であった。
2020-09-01 23:30:55