迷信深い老人の朝は早い。

仕事一筋に生きる迷信深い老人の姿を追った、ドキュメンタリー。
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うさぎ小天狗 @USAGI_koTENGU

午前四時、空が白み始める頃、我々取材班は今回の取材対象である上砂信汁(仮名)さんに起こされた。 上砂「登る朝日を背にやってきたい、という希望を持ってこられる探検家もいらっしゃいます」 上砂さんは訛りのない綺麗な共通語で説明してくれた。

2014-04-24 15:57:06
うさぎ小天狗 @USAGI_koTENGU

我々の見守る中、果たして、上砂さんの言葉通り、登る朝日を背に岩狗村の入り口に影の一団が現れた。ローブに杖…… 取材者「魔法使い?」 上砂「最近はあちらの方々もいらっしゃいます……『お前さんたち!都からきなすったか!』」 上砂さんの声が変わった。村の古老に相応しい落ち着いた声。

2014-04-24 15:58:12
うさぎ小天狗 @USAGI_koTENGU

上砂「……この仕事に着く前は大学で民俗学を研究していたんです。でもあの頃にはそれだけで食って行くのは難しく……バイトしていた学習塾が不況で潰れてしまって、それで困っているところを、今は亡き○○教授(名前は伏せる)がこの仕事をご紹介くださって」 取材者「○○って東大」 上砂「シッ」

2014-04-24 15:59:15
うさぎ小天狗 @USAGI_koTENGU

特別に書庫を見せてもらえることになった。 取材者「すごい数ですね」 上砂「大学で研究してた頃のものが半分くらいかな。残りは新しく買ったり入れ替えたり」 取材者「入れ替え?」 上砂「ええ。最新情報や流行りを押さえておくのは必要です。インターネットで情報も仕入れてますよ」

2014-04-24 16:01:00
うさぎ小天狗 @USAGI_koTENGU

上砂「あっ!」 洞窟を案内してくれるという道すがら、突然道端の草むらに駆け込む上砂さん。我々も慌ててそれに従った。何が起こったのか。 上砂「知らせの鳥が飛びました。村からです。来客をここで待ち伏せます」 見事な連携に機転を利かす上砂さん。さすがこの道二十年のベテランだ。

2014-04-24 16:02:17
うさぎ小天狗 @USAGI_koTENGU

上砂「『こらっ!おめだづ!こっがら先はいっではなんねえ!』」 一行「うわっ!……なんだジジイか」 上砂「『この先は〈にぐらすさま〉のお住まいだど!いっではなんねえ!』」 一行「何言ってやがる!この科学の時代に神様だと?」 上砂「『おそろしことさ起ぎる……どうなっでもしらねど!』」

2014-04-24 16:03:08
うさぎ小天狗 @USAGI_koTENGU

夜半、報告書をまとめ終えた上砂さんに聞いてみた。 取材者「このお仕事をされていて、つらいことはありますか?」 上砂「基本的にバカにされますからね。慣れないうちは辛かった」 苦笑いを浮かべる上砂さんの目がうるんでいた。

2014-04-24 16:04:45
うさぎ小天狗 @USAGI_koTENGU

取材者「嬉しかったことはありますか?」 上砂「いつだったかな。汚い金持ちが私に命乞いをしてきた時ですかね。相手を間違えてますよって(笑)」 朗らかに笑う上砂さんの顔が曇った。

2014-04-24 16:05:45
うさぎ小天狗 @USAGI_koTENGU

上砂「後継者不足が深刻ですね」 確かに、迷信深い老人のいない村が増えている。 上砂「迷信深い老人不要論が叫ばれていることは私も知っています。でも、この仕事は冒険の雰囲気を盛り上げる大切な役割がある。若い人たちにもその奥深さを知ってほしい、受け継いで欲しい」 上砂さんの目は真剣だ。

2014-04-24 16:07:27
うさぎ小天狗 @USAGI_koTENGU

上砂「今後の目標ですか……そうだな、半年後に宇宙人の方がいらっしゃるんで、宇宙語を勉強しておかないと」 迷信深い老人……彼は今日も周到に作り上げた頑迷な老爺の仮面の下で、冒険の雰囲気を盛り上げるべく、迷信に頼らない実績を作り上げている……迷信深い老人は、迷信では、ない。(終わり)

2014-04-24 16:08:48

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