夜鎧明姫『婚騎廃飾』 - 第一回戦:馬車と鳥籠

夜鎧明姫『婚騎廃飾』第一回戦 『硝子の馬車(グラッシィ・キャレッジ)』vs『花揺の鳥籠(バンドル・オブ・ゲージ)』
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アッシュ @ash_nkat

夜の帳の中に、石畳で誂えられた舞台があった。『夜宝石』を原料とした人工灯が、それとその周囲の客席を柔らかく照らす中、 「……お嬢様。お足元が暗くなっております。常の夜道に比べれば随分と明るいものですが、それでも『城の外』だという事は、お忘れなきよう」 舞台を上る足音が、まず一つ。

2015-05-01 11:05:57
シーリカラピス @silicalapis

陽射さぬ世界に夜の光が陰を差す。 茫洋とした灯に場内が、客席が浮かび上げられている。 「お城の中よりずっと暗いのね。気をつけないと転んでしまうわ」 舞台袖から先に進み出た細長いシルエットを追って、小さなそれがふわふわと続く。 「でも、影は怖くないわ。アッシュが一緒だもの」

2015-05-01 11:46:35
ジル @Gilles_nkat

夜の世界の石畳、灰色と金色が躍り出た舞台に少し遅れて演者が1つ。それは先の2人へ軽い会釈を投げてからくるりと後ろを振り返った。 「俺たちのが遅かったみたいだ。ほら、手、貸すからちょっと急げ」 投げかけた声の音は笑み混じり、差し出した手も随分と柔らかい。

2015-05-01 18:25:02
レティシア @Laetitia_nkat

普段、いや普通は来ることはない城外の世界。 危険な世界であるとは言い聞かされてはいるものの、物珍しさからきょろきょろと。当然その足取りは遅れに遅れていた。 聞き慣れている声とともに差し出された手には、拒むという選択肢は一切思い浮かばない。 柔らかで温かいその手をぎゅっと握る。

2015-05-01 18:35:10
レティシア @Laetitia_nkat

「えへへ、ジルのおてて今日もあたたかいね!」 にぎにぎ。今から模擬戦とはいえ戦闘が行われるなんて思わないような朗らかな雰囲気。 幼馴染に連れられ見る舞台の先には、ふわふわ可愛い女性と怖そうな男性がいた。 「…あ!おひめさまだ!」 今自身が住む城主の娘。勿論知らないはずはなかった。

2015-05-01 18:35:54
レティシア @Laetitia_nkat

こんなに身近で見られるなんて、ときゃいきゃい騒ぎ出す始末。 対戦相手だという認識がすっぽり抜け落ちてしまっている。

2015-05-01 18:36:00
ジル @Gilles_nkat

「うん、城主様のお姫様だなあ。逢えてよかったな、ティシャ」 握られた手をきゅっと柔らかく握り返す。きゃいきゃいと燥ぐレティシアに目を細めて緩い相槌を打っている。 その温もりをにぎにぎと堪能した後に、少年は漸く、先の2人へ向き直った。

2015-05-01 19:08:48
アッシュ @ash_nkat

そして、舞台の上に揃った足音は、四つ。 「……チッ、素人かよ」 舞台の端、対面。灰色の髪の男は指先を襟元に引っ掛けるように首を曲げながら小さく毒付いた。 「お嬢様、手早く済ませてしまいましょう。あの足運びではとても『夜』に慣れているとは思えない」 向かう、威嚇するような鋭い灰色。

2015-05-01 19:09:21
アッシュ @ash_nkat

「くれぐれも、足元にはお気を付け下さい」 傍らの『明姫』に一言を伝えると、男は曲がっていた背筋を一度伸ばした。 声は届く距離。鋭い視線は楽しげな雰囲気の男女に向けて、眼鏡のレンズ越しに刺さる。 「……『花揺の鳥籠(バンドル・オブ・ゲージ)』の『夜鎧』使いで、間違いありませんね?」

2015-05-01 19:12:27
レティシア @Laetitia_nkat

「はーい!」 鋭い灰色の声に返すのは元気のいい薄桃の声。 呼ばれたと思ったのだろう、自由な手を勢いよく上げて返事をする。 「ティシャはレティシアっていいます!16才です!好きな食べ物ははちみつです!得意な事はお絵かきです!」 勝手に自己紹介を開始する始末。

2015-05-01 19:41:08
レティシア @Laetitia_nkat

初めての人にはきちんと挨拶しましょう、と御本にも書いてあったのだからしっかりとやらなくては。なんて考え。 そしてうずうずとそわそわと落ち着きにない様子でいたと思えば、ぱぁっと顔一面輝かせて一言。 「ジルあのね、あのね!あのメガネの人リボン似合いそうだね!」

2015-05-01 19:41:29
ジル @Gilles_nkat

繋いだ手を強く握って薄桃の言葉を聞いていた少年は、顔を輝かせた彼女の一言にふはっ、と噴き出した。 「似合……ふ、はは、そうかもなあ、ティシャはやっぱり天才だなあ!」 笑いながら一歩、二歩。レティシア曰く「リボンの似合う」男の視線から彼女を外すように前へ。

2015-05-01 19:54:06
シーリカラピス @silicalapis

対戦相手の姿が向かいからも見える所に現れた。二つの影はどちらもアッシュより小さくシーリカラピスより大きい。 「まあ。あの子たち、お姫さまって呼んでくれましたよ」 少女のはしゃぐ声とそれに答える少年の声。 客席の音も混ざり対戦相手の会話は聞き取りづらいが明るい声はよく響いた。

2015-05-01 19:55:38
シーリカラピス @silicalapis

「こんにちは」 嬉しそうにしている少女へ、嬉しそうに笑顔を向けて、ふわひらと手を振ったのは領主の娘。 「とっても仲良しなのね。いいなあ。……アッシュ」 手を握り合っていたのに、白い手をにぎにぎして幸せそうに言った。だが瑠璃色は灰色の男を向くと少し不安げな様子を浮かばせる。

2015-05-01 19:56:12
シーリカラピス @silicalapis

胸の前で指を握る。 ぱっと開けば硝子の南瓜がてのひらの上で笑っていた。 それを金色のつむじの上にころがすと、とたんに水滴が弾むようにはじけて広がる。 それは見る間に輪と広がって、波打つ先端に丸い珠を飾って――液体の冠の形にとどまった。

2015-05-01 19:56:53
アッシュ @ash_nkat

「……あ゛ぁ?」 和やかな声に返った表情は、苦虫を噛み潰したようなものだった。 「誰がリボンが似合うだコラ?」 相手の『夜鎧』使いが視線を遮るように前に出なければ、眼光は真っ直ぐ『明姫』に向いていた事だろう。 「……お嬢様。これ以上の……お嬢様」 ふわふわした声は傍らにもあった。

2015-05-01 20:13:10
アッシュ @ash_nkat

「……そうですね。お嬢様は姫のようなものですから……あぁ、もう解った。後でしてやる」 伸ばしていた背が曲がる。襟元に宛てていた片手で、顔を覆い隠すように眼鏡を直すと、一歩を引く。 「……ご歓談はもう十分でしょう。始めましょうか。私(わたくし)はアッシュ。アッシュ=ドゥオデキムス」

2015-05-01 20:17:34
アッシュ @ash_nkat

「どうぞ、お怪我はならぬように。あなた方が怪我をすれば、お嬢様が悲しみますので」 男の背後。刺すような眼光の後ろ側で、『ティアラ』が展開される。 男の眼鏡に宛てた細い指は、変わらない。男は指の隙間から対戦相手を睨む。 「……いつでも行ける」 低い呟きは傍らにだけ聞こえる大きさで。

2015-05-01 20:21:46
ジル @Gilles_nkat

男の視線を遮っている少年は笑い直す。町で買い物をすれば飛び込んでくるだろう、店員のお愛想に似た笑い方。 「そうだね、始めましょう。僕はジル。お二方に比べたら雛のようではありますが、僕達『花揺の鳥籠』がお相手させていただきますよ」

2015-05-01 20:46:59
ジル @Gilles_nkat

ずっと握っていた柔らかな手をそおっと離す。 「ティシャ、いくよ。準備して」 視線は前に向けたまま、後ろの彼女に囁く。

2015-05-01 20:48:32
レティシア @Laetitia_nkat

天才と言われれば、えっへんと。 ふわひらと舞った手を見てこちらも応えようとした瞬間、視界一面今迄よく見てきた背へと変わっていた。 冷たく鋭い視線から守られていることを知らぬ彼女は、「見えないよぉ」とジルの背後でそわそわと落ち着かない。

2015-05-01 21:03:25
レティシア @Laetitia_nkat

しかし声をかけられた瞬間。そっと手を離された瞬間。揺らしていた身体はピタリと止め、元気良く頷く。 シーリカラピスと同じようにぎゅっと胸元で両手を握り大事そうにゆっくり開けば、現れたのは砂糖のように白い小鳥。 檻から逃がすよう明るさを失った空へ掲げれば、小鳥は羽ばたき白い羽が舞う。

2015-05-01 21:04:07
レティシア @Laetitia_nkat

そうして生まれた羽が彼女の薄桃へ落ちれば、それは細やかな装飾が成された檻のよな、巻きつく花のよな冠へと姿を変える。 「えへへ、ティシャがんばるもん!ティシャもおひめさまになるの!」 元気良さは変わらない。ぴょんぴょんと甘い匂いを纏わせ、その場で飛び跳ねる。

2015-05-01 21:04:30
ジル @Gilles_nkat

白砂糖の小鳥が檻になると同時、少年の全身が白い光に包まれた。その光が引けば薄桃色の、革のような布のような素材のくまが現れた。少年よりちょうどひと回りだけ大きいそれは、片耳にティアラと揃いの花飾りを着けている。空いた耳に留まるリボンの絡んだ小鳥が落ちて、ふた振りの短剣と成った。

2015-05-01 22:04:25
ジル @Gilles_nkat

まふまふの手は危なげなく短剣を握る。うっかり刃の部分を掴んだ気もしたが、どちらも夜鎧の一部だからさして問題はない。くるりと刃を回して構え、くまのぬいぐるみはまっすぐに駆けて行く。狙いは『夜鎧』使い、その襟元に刃の先を向ける。

2015-05-01 22:12:15
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