筍提督と僻地の泊地 (8)

海軍大将という階級と、イージスシステムの艤装を背負う提督・筍の、約八か月振りの大規模作戦に挑む日記。 (「法号作戦」編)
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出航の日

筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

いつもの時間に、目が覚めました。隣に彼女の姿はありませんが、“夜戦”のない日の翌朝ならいつものことです。 私が上体を起こし、伸びをして唸り声を上げると、それを聞いた彼女が、決まって秘書艦室から顔を出します。いつも通り、服も髪も整えた状態で。 #僻地の泊地日記

2015-05-04 23:16:27
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この日もそうでした。秘書艦室に通じる扉が開き、着物姿の鳳翔が出てきて、しかし、彼女と視線が絡むことはありませんでした。 「あら、<みずほ>――」 『ミズホ?』 スーパーホーネット、通称スパホの上位互換でも現れたかと思いつつ、自分の執務机の方を見やります。 #僻地の泊地日記

2015-05-04 23:19:03
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すると、どうでしょう。私の椅子に、リンガでただ一人、いえ、日本海軍でただ一人スーパーホーネットを操ることのできる、<みずほ>が座っていました。 『<みずほ>!?』 「おはよう、<たいせつ>」 『お、おはよう……』 鸚鵡返しに挨拶を返してから、『……何か用か?』 #僻地の泊地日記

2015-05-04 23:21:53
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「――今朝は、朝練をしたんだけどね」 <みずほ>は何の前置きもせずに話し始めます。私はひとまず相槌を打ちました。 『ほう?』 「皆、寝起きなのが嘘みたいに調子がよくて」 『おお』 「ただの訓練だったのに、盛り上がっちゃってさ」 『いいじゃないか』 #僻地の泊地日記

2015-05-04 23:30:16
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「海蜂隊の村井なんか、閃震隊の角野とかなりいい勝負をしたのよ」 海蜂とはF/A-18E、閃震とはF-35Cのことです。 「閃震相手に海蜂を自在に操る村井も凄かったけど、やっぱりエースの角野が一枚上手だったわ」 『へえ。見たかったな、模擬戦』 #僻地の泊地日記

2015-05-04 23:33:18
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『――それで?』 「そんなこの子たちを実戦に」 『駄目』 「」 「いいじゃない! どうして私は留守番なの!?」 『駄目だと言ったら駄目だ! 作戦は決定済み。これは提督命令だ。それと父親として!』 「最後のはまだ認めてない!」 『知ってるよ!!』 #僻地の泊地日記

2015-05-04 23:37:29
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図らずも賑やかな朝となりました。おはようございます、五月一日です。 私は、娘であり、次世代型航空母艦でもある<みずほ>と口論を続けながら、寝巻から制服に着替え、食堂へ逃げました。<みずほ>は大食いというだけでなく、食事優先になるので、暫くは静かになってくれます。 #僻地の泊地日記

2015-05-04 23:48:09
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食堂はと言えば、張り詰めた空気に支配されているわけでもなく、賑やかでした。 護衛任務だからちょろい、と思われては困りますが、徒に緊張するのもいけません。このくらいが丁度いいのです。 食堂に入った途端に皆から挨拶をされたこともあり、私はとてもいい気分でした。 #僻地の泊地日記

2015-05-05 00:13:13
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食事を終えると、私は<みずほ>から逃げるように執務室に戻り、艤装を装着し始めました。 歩海ブーツ、短魚雷発射管、CIC端末、127mm単装速射砲。これらを所定の位置に装着してから、レーダーマストの載った背面構造物を背負います。 #僻地の泊地日記

2015-05-05 00:25:36
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ここで、SPYレーダーとCIWSが付いた肩当てを忘れていたことに気付き、一旦背面構造物を置きました。今一度着け直してから、ロッカー内の棚から専用のコードを引っ張り出し、背面構造物と各種装備を繋げ、動作確認を行います。 正常。問題ありませんでした。 #僻地の泊地日記

2015-05-05 00:27:47
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私が執務室を出たのと、鳳翔が秘書艦室から出てきたのが、同時でした。 『<みずほ>は?』 「港です。皆を見送るみたいですよ」 『別にいいのに』 言いながら、私の頬は緩んでいました。 それから、娘と護衛艦の待つ港へ、私たちは肩を並べて向かいました。 #僻地の泊地日記

2015-05-05 00:37:23
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その鳳翔は、艤装を身に着けています。 そうです。彼女にも、今回の護衛任務に参加してもらいます。但し、彼女自身も護衛対象であるため、輸送船に乗って船旅を楽しんでいてもらいます。鳳翔は、新時代艦でない護衛艦娘の中では、もっとも脆い艦になりますから。 #僻地の泊地日記

2015-05-07 00:51:44
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他にも、空母を数人指名していますが、会敵しない限りは、例外なく護衛対象とします。戦闘状態となる場合も、輸送船から極力離れないようにして戦ってもらいます。航空戦力は切り捨てたくないが、護衛対象を過剰に増やしたくないという板挟みが生んだ苦肉の策です。 #僻地の泊地日記

2015-05-07 01:15:07
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到着した埠頭には、二十一名の艦娘が揃っていました。護衛は私たちを含め、計二十三名で行います。 皆を見送ると言っていた<みずほ>もいます。私を認めるなり、<みずほ>以外は、敬礼を飛ばしてきました。私は、『楽にしていい』と言って、それをやめさせました。 #僻地の泊地日記

2015-05-07 01:19:40
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それから私は告げました。 『今回は、少々特殊な護衛任務となる。だが、先日説明した以上のことは要求しない。気を抜き過ぎてもいけないが、各自、あまり緊張せずに、任務に当たってほしい』 了解、の声が重なります。 #僻地の泊地日記

2015-05-07 01:28:00
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<みずほ>にも声をかけました。 『いい子にしてろよ』 「分かってるわ」 それを聞いて安心した私は、ヘッドセットを装着すると、声を張りました。 『出航! 最初の目的地はチャンギ港だ。対潜警戒を厳にせよ』 「対潜警戒を厳に!」 久方振りの感覚に、血が滾るようでした。 #僻地の泊地日記

2015-05-07 01:34:25
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シンガポールは<みずほ>と訪れたばかりですが、チャンギ港に用事があるのは、昨年の夏、〈おおすみ〉型輸送艦〈のと〉の護衛のために向かって以来です。一海軍人として行く必要があったので、その時の移動手段はボートでしたが、今回は、護衛艦の一人として向かいます。 #僻地の泊地日記

2015-05-07 16:27:15
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

鎮守府を発った直後、ソナーが二軸推進音を捉えました。誰もが色めき立ったのも束の間、私が『味方だ』と言ったと同時に浮上した伊8と伊401、そして<イムヤ>を見て、皆が胸を撫で下ろしていました。 「司令官、気を付けて行って来てね」 『おう。サンキュー』 #僻地の泊地日記

2015-05-07 16:32:21
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

「提督――」 傍らの鳳翔が口を開きます。 「最近いらしたばかりの、あの二人の潜水艦……彼女たちも、いつか改造なさるのですか?」 『伊401はともかく、伊8は、そうしようかなと考えてる。新時代艦については、彼女に分かるように話しておいた』 #僻地の泊地日記

2015-05-07 16:42:14
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

『早ければ、この作戦が終わって帰投したら、だな。もっとも、本人の承諾が得られれば、だが』 「改造に当たっては、柔軟に考えて結構ですからね?」 『ああ。分かってるよ』 私は一瞬だけ、鳳翔が肩揉みをしながら聞かせてくれた話を思い出しました。 #僻地の泊地日記

2015-05-07 16:45:31
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

『そういえば』私も、彼女に訊かねばならないことがありました。『RQ-1の件はどうなったかな』 「まだお返事はありません。もしお返事が届いたら連絡するようにと、<ゆうばり>には伝えてあります」 『分かった。まあ、返事をしないような方々ではないから、大丈夫だろう』 #僻地の泊地日記

2015-05-07 16:49:13
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

『しかし、フラタ提督とその艦娘が不在だったのが気になるな』 知り合いの各鎮守府に送った手紙。そのうち、フラタ提督(@Adm_FS_TaClass)に宛てた手紙を載せた輸送機は、その中身を下ろさずに帰ってきたのでした。 鳳翔が、「そうですね……」と肯きます。 #僻地の泊地日記

2015-05-07 16:52:51
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

すると、私の後ろに、<なち>が回り込みました。 「また恋文でも書いたのか」 『違ェよ。お前にとって、俺の手紙は全部恋文かよ』 言い返しながら、〈のと〉を護衛していた時のことが懐かしくなってきました。恋文というのは、護衛任務の中継地パラオで出たネタなのです。 #僻地の泊地日記

2015-05-07 16:58:29
筍提督と僻地の泊地@新時代鎮守府 @storyoflingga

同時に、〈のと〉が被弾したことも思い出されます。あの一撃さえなければ、完璧な護衛任務だったのに。 単に揶揄いに来ただけらしい<なち>を呼び止めて、私は言いました。 『もう、あんなことは繰り返さんぞ』 「当然だ」 彼女は不敵な笑みを浮かべて、私たちから離れました。 #僻地の泊地日記

2015-05-07 17:02:13
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