白猫テグンと黒猫ハギョン

立派なおうちの飼い猫テグンと野良猫ハギョン
0
@NNNNN_star

大富豪のワガママ一人娘の気まぐれで飼われた血統書付の白猫テグン。娘は飼い始めて半年も経たないうちに愛想のないテグンに飽きて、また新しい猫を飼い始める。テグンは寂しく思いながらも、暖かい寝床で、美味しいご飯を食べて、変わらない日々を過ごしていた。ただ、自分の存在意義はわからなかった

2015-05-07 20:19:59
@NNNNN_star

ハギョンは自分の親猫を知らなかった。生まれてから一番古い記憶は、薄汚れた段ボールの中で見た灰色の空の色。その瞬間から、ハギョンはいつでもひとりで生きてきた。誰に教えられたわけでもなく、生きるために飲食店の裏のゴミ箱を漁り、食べられそうなものはなんでも食べた。縄張り争いは日常茶飯事

2015-05-07 20:24:17
@NNNNN_star

いつだってからだの何処かからは血の匂いがした。からだが痛むのが普通で、生きていくだけで精一杯だった。路地裏の汚い水溜りに映るハギョンは、自分で見ても野良猫らしく薄汚い。 何時ものように力の強い野良と喧嘩をすると、ハギョンはいままでにないからだの痛みと、重さを感じた。

2015-05-07 20:28:04
@NNNNN_star

とうとう、かもしれない。でも、それでも良いかもしれない。一生懸命頑張った。その結果が、これなら… ただ、生きているうちに、この汚い路地裏からは抜けたかった。汚いものしか見てこなかったけれど、最期くらい、きれいなもののなかで死にたいと思った。 深く傷ついた足を引きずりながら、

2015-05-07 20:32:01
@NNNNN_star

生まれて初めて路地裏を出た。空はこんなに青かったかな。毎日見ていたはずなのに、まるで初めて見るもののようだった。 あてもなくずるずると歩くと、いつしかハギョンは夢のような場所にいた。赤や青、黄色、色とりどりの花畑。すごく良い香りだ。すぐ近くからは水の音もする。川が近いのかもしれな

2015-05-07 20:35:48
@NNNNN_star

こんなに綺麗な場所があるなんて。最期に見れてよかった…暖かい日差しが差し込んで、ハギョンのからだを包み込む。ひどく眠かった。うとうとして、花畑のなかにからだを埋めると、目の前いっぱいに青空が広がった。 「なにしてるんだ、お前」 それと同時に、夢の場所にそぐわない冷たい声がきこえた

2015-05-07 20:38:55
@NNNNN_star

よく手入れされているのだろう、日の光に照らされて白い毛並みはつやつやと輝き、大きな青色の目は、青空を閉じ込めたように美しい色をしていた。ハギョンがこれまで出逢った野良の中でも飛び抜けてーーーいや、比べること自体が間違いかもしれない。そう感じるくらいには、目の前の猫はきれいだった。

2015-05-07 22:04:36
@NNNNN_star

今日はきれいなものばかりに出逢う。うれしいなぁ。死ぬときって、つらくて苦しいわけじゃないんだ。よかった…。なんだかふわふわとしか感覚だ。ハギョンが眠気に負けて目を閉じかけると、突然容赦のない打撃を頬に感じた。 「い、いたいっ」 「無視するからだ。お前、誰だ」

2015-05-07 22:08:25
@NNNNN_star

どうやらそれは、目の前の美しい猫の前足から繰り出されたようだった。暖かくて気持ちが良かったのに、急に現実に戻された気分だ。 「ここで飼われている猫じゃないな。随分汚いしぼ ろぼろだ」 行動も発言も全く容赦がない。見かけに違わず気位の高い猫だ。おそらく良い家の飼い猫だろう

2015-05-07 22:11:26
@NNNNN_star

こんなに綺麗な飼い猫がその辺の庭を散歩できるわけがないから、もしかしたらここは、白猫の家の庭なのかもしれない。前も後ろもわからず、ただただ路地裏からここまで歩いてきたから、知らず知らずのうちに迷い込んでしまったのだろう。 せっかく、良い場所だと思ったのに。

2015-05-07 22:14:23
@NNNNN_star

ハギョンはまるで力の入らないからだに鞭を打って、震える足でなんとか立ち上がった。ここを死に場所にしてはいけない。そんなことは野良のハギョンでも十分理解できることだったからだ。 「ごめんね。ぼく、間違えてここに来ちゃったみたいなんだ。すぐ、出ていくから…」 傷ついた前足から血が滴り

2015-05-07 22:16:41
@NNNNN_star

美しい庭を汚した。白猫はハギョンの言葉を聞くと、不機嫌そうにそっぽを向いて、すぐにどこかに走って行ってしまった。何故だかすごく寂しかった。からだも痛いし、そう遠くまではいけそうにない。目立たない場所で死にたかったけれど、このままじゃどこかの道路でのたれ死んでしまうかもしれない。

2015-05-07 22:19:57
@NNNNN_star

「わ、ひどい怪我だな…。喧嘩でもしたのか」、 不意に後ろから人間の声がしたかと思うと、ふわりとからだを持ち上げられた。ぎこちない抱き方でからだは傷んだが、その手は暖かかった。若い男だ。人間はハギョンを見ると、不吉だの汚いだのと罵るか、時には暴力をふるったするものだから、きらいだ

2015-05-07 22:24:25
@NNNNN_star

ハギョンが警戒して小さく唸ると、男は優しい手つきでハギョンの背中を撫でた。眉を下げて心配そうな顔をしている。そんなことをされたのは、生まれて初めてだった。 「テグンが五月蠅いから来てみたら…」 テグン、とは先ほどの白猫のことだろうか。まさか、人間を呼んできたのか。ぼくの、ために

2015-05-07 22:28:11
@NNNNN_star

そこまで考えたが、ハギョンは迫りくる睡魔に勝てなかった。重たい瞼を閉じて、深い眠りについていった。 次に目覚めたとき、ハギョンは暖かい寝床の中にいた。暗くて狭いけれど、ふわふわの暖かい敷布のなかで、信じられないことにからだは傷まなかった。 「やっと起きたか」 あの白猫だった。

2015-05-07 22:31:34
@NNNNN_star

「ここは…」 「お前が迷い込んだ庭だ。あのままじゃお前、死んでたから…」 話すこと自体が得意ではないのか、白猫は小さくぼそぼそと話した。自分の家に連れて行けばハギョンは厄介払いされると思い、自分の世話をしている動物好きの使用人を庭まで誘導して、ハギョンを手当てさせたこと。庭に小さ

2015-05-07 23:02:22
@NNNNN_star

な小屋を作り、そこにハギョンを寝かせたこと。ひとつひとつ、ゆっくり話していった。よく見ると、白猫の美しい毛並みは少しばかり土や小石で汚れている。わざわざ、自分の家からここまで様子を見に来てくれたんだろう。出会ったときに強烈な一撃をくらわされたり、冷たい言葉を浴びせられてはいたが、

2015-05-07 23:05:13
@NNNNN_star

実はとても心が優しいんだろう。 「餌は、使用人が持ってくると思う。あいつはお前を気に入っていたから…。もしなくても、俺が持ってくる。お前が元気になるまでは…」 チラチラとハギョンの様子を横目で見ながら、小さな声で話す。 そんなことまでしてくれるなんて。野良のハギョンには信じられ

2015-05-07 23:08:57
@NNNNN_star

ないことだった。感謝してもしきれない…。 「ねぇ…」 「なんだ。痛いのか?だいぶ怪我は良くなったと言っていたのに…」 「違うよ。君の名前を、教えて欲しいんだ」 白猫は驚いたようにピクリと耳を立てて、ハギョンをじっと見つめた。やっぱり、とてもきれいだ。 「…テグン」

2015-05-07 23:12:13