ア・ニンジャ・サドン・ライズ・アンド・スクイーズ#5

ニンジャが出て搾る!
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@nezumi_a

ア・ニンジャ・サドン・ライズ・アンド・スクイーズ#5

2015-05-08 18:34:46
@nezumi_a

(前回までのあらすじ:レモンを無差別に搾る邪悪なニンジャ、スクイーズ。彼はソウカイヤに敵対し、シックスゲイツのヘルカイトとの戦いの最中、下水道へと落ちてしまった。重傷を負ったスクイーズの生死は……?)

2015-05-08 18:39:24
@nezumi_a

中世のカタコンベを思わせる石造りの地下道。いくつもの支流が合流し、黒く濁った水が耐え難い悪臭を放ち、白い泡を立てゴウゴウと渦巻く。様々な廃水が処理施設を通さないでタマ・リバーへと放流される。ここは巨大都市ネオサイタマの循環器系の末端だ。01

2015-05-08 18:42:16
@nezumi_a

黒い水面をライトの光が撫で、バイオ鼠がキイキイと逃げ去る。ライトの持ち主はここを根城にしているホームレスだ。光の先、流れるゴミを引っ掛ける目的で敷設されている連続した浮き輪に、スーツ姿の人間が引っかかっている。死体だろうか。02

2015-05-08 18:45:12
@nezumi_a

ホームレスは鉤のついた棒を取り出すと、慣れた手付きでスーツの背中を引っ掛け、岸へと引き寄せる。こうして流れてくる死体から身包みを剥ぎ、金に換えるのだ。「ヒヒーッ、サイバネかな?臓器かな?高く売れるカナーッ!」ホームレスは歓喜の叫びを上げた。03

2015-05-08 18:48:11
@nezumi_a

その時だ、死体だと思っていたサラリマンが、黒い水面から腕が突き出し、コンクリートの岸壁を掴んだ。「グハァーッ!」サラリマンは飛沫をあげ、暗黒神話の水棲人間めいて岸へと這い上がる。「アイエエエエエ!」ホームレスは腰を抜かし、その場で失禁した。04

2015-05-08 18:51:20
@nezumi_a

「ここは」そのサラリマン……スクイーズは辺りを見渡した。ホームレスの持っているライトの光は覚束ない光量だったが、ニンジャ暗視力を持つ彼には、ここが地下道だという事が分かった。記憶が蘇る。(そうだ、俺はヘルカイトというニンジャとの戦いに負けて、下水に落ちた……)05

2015-05-08 18:54:24
@nezumi_a

スクイーズはホームレスを一瞥した。鋭い眼光に、ホームレスは尻餅をついたまま後退りし再失禁。「出口を、知っているか」「ア、アイエエ……タ、タマ・リバー……」ホームレスは震えながら水が流れている先を指差した。「ドーモ」スクイーズは一礼すると、苦労しながら立ち上がった。06

2015-05-08 18:57:17
@nezumi_a

スクイーズは老婆のように背中を折り曲げ、全身の火傷や打撲、ヤリ傷の激痛に耐えながら、よたよた歩いた。「アバッ……」全身が焼かれるようだ。先ほどのイクサで受けた傷が汚染廃液によって化膿し始めているのだ。ニンジャでなければ間違いなく死んでいた。07

2015-05-08 19:00:28
@nezumi_a

彼に宿ったニンジャソウルが、そのニンジャ耐久力で彼を守ったのだ。歩きながら携帯UNIXを取り出す。病院を検索しようとして思い留った。保険証の持ち合わせが無いからだ。闇医者を頼ろうかと思ったが、二週間前まで普通のサラリマンだった彼に、そんなアテはない。08

2015-05-08 19:03:14
@nezumi_a

鉄柵を壊し、外に出た。夜のタマ・リバーの広い河川敷。遠くに見える赤い光はジャンクヤードの住人がドラム缶でイカでも焼いているのだろうか。初夏のバイオ葦は背が高く、身を隠して歩くには好都合だった。スクイーズはそこから2ブロック歩き、二十四時間営業のスシデリバリー店へと入った。09

2015-05-08 19:06:27
@nezumi_a

「イラッシャ……アイエッ!?」ズブ濡れかつ傷だらけという男の風体に、店員は思わず備え付けの暴徒鎮圧用ゴムスタンガンを構えそうになったが、男が何も持っていない事をアピールする。「スシセットのマツを」男が注文する。「ハイ」会計を済ませ素早く立ち去る。10

2015-05-08 19:09:10
@nezumi_a

スクイーズはさらに1ブロックを歩くと、廃ビルに転がり込んだ。「イヤーッ!」扉の鍵を破壊して中に入り、床に落ちていた新聞の上に腰を下ろす。既に気力、体力ともに限界だったが、彼は震える手で道すがら購入した安物の低純度ZBRアンプルを取り出し、注射した。「……フゥーッ」11

2015-05-08 19:12:12
@nezumi_a

消耗しきった身体に歪な活力が行き渡り、痛みが遠のいた。遥かにいい。ネクタイを抜き、血染めのワイシャツを開く。胸の槍傷に応急パッドを貼る。「トビコミに失敗した時もこうしていたな」ニンジャになった今でも、サラリマン時代の経験が役に立っている事にスクイーズは苦笑した。12

2015-05-08 19:15:10
@nezumi_a

トビコミとはアポイントメント無しで営業に押しかける事で、概ねシツレイとされる行いだ。不興を買い、警備員に警棒で叩かれ追い出される事も珍しくない。だが、貪欲なネオサイタマの営業サラリマンは果敢にこれを行い、契約を勝ち取るのだ。13

2015-05-08 19:18:14
@nezumi_a

スクイーズはスシパックを開くと、中の物を次々と口に放り込む。理屈は判らないが、ニンジャの本能がスシを求めていた。瞬く間にスシパックは空になった。セットのチャを飲み、目を閉じる。ヤリで突かれた胸の傷が痛んだ。14

2015-05-08 19:21:40
@nezumi_a

ヘルカイトと名乗ったニンジャは、これまでに倒してきたソウカイニンジャとは格の違う強さだった。先ほどの一方的なイクサを思い出す。いや、あれはイクサの体を成していなかった。敵は猛禽であり、自分は狩られるだけの哀れなウサギめいた存在でしかなかった。15

2015-05-08 19:24:20
@nezumi_a

(あのニンジャは、明らかに自分に的を絞っていた。そして俺を殺して査定の足しにすると言っていた……)査定、出世、ボーナス。ニンジャの世界にもそういったシガラミがあるらしい。ZBRの副作用で、意識が混濁し始めた。近くのビルからだろうか、サラリマンのカラオケが聞こえてくる。16

2015-05-08 19:27:10
@nezumi_a

そうだ、あの日もこんな暑い夜だった。17

2015-05-08 19:30:01
@nezumi_a

―――――――――18

2015-05-08 19:30:46
@nezumi_a

宵闇迫るノビドメ・シェード・ディストリクト。気の早いネオンサインが点灯し黒い水面に反射している。何艘もの屋形船が行き来している河の真ん中に、一艘の大型屋形船が停泊していた。その屋形船の名は「芝浦」。温泉施設を内蔵したカチグミ御用達の大型屋形船である。19

2015-05-08 19:33:37
@nezumi_a

ノビドメ運河は交通量の多い水路だ。屋形船は川の流れに沿って移動するものであり、このように川の運航を妨げる行為は奥ゆかしくない。「ザッケンナコラー!」オイランデリバリー屋形船の船頭がヤクザスラングを吐き、腹いせにバイオバンブーの棹で「芝浦」の船体を殴った。20

2015-05-08 19:36:23
@nezumi_a

すると、「芝浦」の舷側が隠し窓めいてパカリと開き、中から黒光りするマシンガンが突き出した。BRATATATATATATATA!「アバーッ!」船頭はネギトロめいた肉片に変わり、ノビドメ運河に住むバイオハゼたちの養分になった。21

2015-05-08 19:39:17
@nezumi_a

「芝浦」の舳先には「貸し切り」のノボリと、アンノウ株式会社の社章チョウチンが風に揺れていた。今日はノビドメのハナビ・フェス。そしてこの位置はハナビ見物の絶好のロケーションだ。アンノウ社は運河の通行権を買い取って、貸し切り状態としたのだ。22

2015-05-08 19:42:10
@nezumi_a

場所を動けない「芝浦」は、搬送用の船を接舷させて、宴の準備に勤しんでいた。フェスの開始が迫る船内を宴会スタッフが慌しく行き交い、配膳マイコがイタマエと打ち合わせを行っている。その喧騒の中、ザシキを厳しい目で見渡すサラリマンがいた。23

2015-05-08 19:45:11